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市立札幌病院公式ホームページ > 医療関係の方へ > 医師臨床研修について > 学生・研修医のみなさんへ(教育担当者からのごあいさつ)

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更新日:2023年6月29日

医療関係の方へ

学生・研修医のみなさんへ(教育担当者からのごあいさつ)

臨床研修センター/総合臨床センター 佐藤朝之

 

 このページを見てくれて、ありがとうございます。

 市立札幌病院は、明治2年、土方歳三が討死した函館に明治新政府のお役人と一緒に入った齋藤龍安らの医師が、銭函を経て札幌元村(今の北13条東16丁目あたり)に開設した診療所を嚆矢とします。その頃は内科、外科、産婦人科、眼科、あとは隔離の必要な感染症を診ていたようです。時代の変遷とともに診療科は分かれ、今では33の診療科を有する“大きな病院”になりました。

 市立札幌病院は、地域医療支援病院として“診たい患者さん”ではなく、“診てくださいといわれた患者さん”を診る病院です。依頼されるのは、複合病態の急性期の患者さんです。

 昔は壮健な若年者が単一の傷病を抱えて診療所の扉を敲いていましたが、今は医療の発展に支えられて国民の寿命は延び、高齢者が複数の問題を抱えて病院の門を潜ります。

 患者さんの在り方に合わせて、受け止める側も形を変えてゆかなければなりませんが、医療の側は - 自然科学者として当然だとは思いますが - それぞれの領域の質を高めて、より専門が分化する方向に進みました。

 明治も終わりに近づいた44年、夏目漱石は「道楽と職業」と題した講演の中で「開花の潮流が進めば進むほど、職業の性質が分かれれば分かれるほど、我々は片輪な人間になってしまうという妙な現象が起こるのであります。」(中略)「肺病患者が赤痢の論文を出して医学博士になった医師のところに行っても差し支えはないが、そのひとに博士たる名誉を与えたのは肺病とは没交渉の赤痢であってみれば、単に医学博士の名で肺病の患者さんを担ぎ込んでは勘違いになるかもしれない。」と述べています。

  わたしたちの世代は、日本の人口が増え、都市化が進むという世界の中で、分化した専門をより先鋭化させる教育を受けてきた世代です。しかし、これから私たちが向かうのは、日本の人口が減り、都市の高齢者の比率がぐっと上がる世界です。そこで必要とされるのは、「赤痢の論文を出してますけど、ひとまず肺病も診ますよ、肺病の先生とも相談しますね」という医師であって、これから医師になってゆく皆さんには、そのための力をつけてもらわなければなりません。

 これまでの人生で、いろいろな”試験“を皆さんはパスしてきたと思います。「こういう問題が出る。」という予想問題があったら、それを解けるように準備してきましたよね。それと同じことです。

 専門化がよくないというわけではありません。医学が進んで、昔治せなかった病気が治るようになり、治療はより低侵襲になりました。こちらはこちらで進んでゆくべきです。一方で、医学部での6年間は、ありとあらゆる局面で、医学を足がかりとした対応ができるようになるための基盤づくりの時間であった筈です。専門に進んだからといって、その力と精神(スピリット)を狭めないで欲しい、専門家であると同時に、あくまでも医師であることを手放さないで欲しいのです。

 厚生労働省もこの問題には気が付いていて、「将来専門とする分野にかかわらず、一般的な診療において頻繁に関わる負傷や疾病に適切に対応できるよう、プライマリケアの理解を深め、基本的な臨床能力を取得」できるようにと2004年に新臨床研修医制度を発足させました。

 私たちの病院でもこれを受けて、「バランスよく全人的に患者さんを診療できるように」各診療科をローテーションする研修を始めました。回り終わったら、パズルのピースを組みあわせて一枚の絵ができあがるように、全身を診られるようになることが期待されましたが、そうはなりませんでした。各診療科のローテーションは、入院患者さんの診療が中心で、問題点や病態、治療の方向性は概ね判明しており、「患者さんの訴えや症状から、どの様な医学的な問題点が背景にあるかを明らかにする過程」は経験しにくい構造になっていたからです。

 この力をつけるためには、研修医の皆さんに「問題点が明らかになる前にまず受け入れて、医学的な問題点を明らかにして解決方法を考える」という経験を、患者さんに提供される医療の質を確保したうえで、してもらう必要があります。

 このような経緯で2014年に臨床研修センターが設立され、現在のような研修形態がとられるようになりました。専門診療科のローテーションとは別に、月に2回程度、1年目研修医と2年目研修医がペアになり、指導医の見守りの下、救急車で搬送された患者さんや、どの専門診療科に受診したらよいかわからない紹介患者さんの初療を行います。その日は、ローテーション科のduty は off です。あるときは専門診療科として患者さんに対応する、ある時は医師として患者さんに対応する、それを行ったり来たりするのは、これからの専門医のあるべき姿そのものです。

 冒頭に申し上げた通り、私たちの病院が診療するのは、救急隊やほかの病院から依頼されてくる、複雑で解決までに手数のかかる患者さん、ひとつの問題を解決したと思ったらもうひとつの問題が隠れていたことが判った、というような患者さんです。医学的ではない、社会的な問題を抱えた患者さんも少なくありません。臨床研修センターではそういう患者さんに向き合います。これらの一筋縄では行かないことに逃げずに向き合えるような皆さんに、初期研修の時間を当院で過ごしていただきたいと思っています。

 難しい患者さんに向かってゆけるのは、後ろに各分野の専門の先生方が控えてくれているからです。必ず答えを出してくれます。外来の段階では思ってもいなかった病態を、後から拾ってもらえることも少なくありません。団体戦です。専門の先生方も、当直や休日の日直の時には一人の医師として救急外来に立ち、研修医と一緒に患者さんを診療します。「次々とたくさんの患者さんが来る病院ではないけれど、一人の患者さんが抱える問題は多い」そんな病院です。

 当院のデメリットとしては、最終的に患者さんが紹介されてくる病院なので、「今自分が診ている患者さんを、このまま自分で診ていていいのか、それとも、より高次の医療機関に転送しなければならないのか」という判断(おそらく多くの場所で必要となる判断だと思います)の訓練の機会は多くありません。また、医育大学の充実した図書館とは異なり、入手できる文献には限りがあります(医師会などを通じて入手しなければなりません)。こちらは、今後解決してゆかなければならない課題です。

 最後に、当院での初期研修を考えてくださっている方へ。

 市内や道内にはたくさんの研修病院があります。それぞれ長所もあれば、短所もあると思います。しかし、大抵、長所は短所で、短所は長所です。今は情報がいくらでも手に入る時代です。目の前の一人一人の患者さんについて、生活や、その患者さんが普段見ている風景を含めて考えることが出来れば、どこの施設でもよい研修ができるでしょうし、そういう姿勢がなければ、どんなに良い施設に行ってもよい研修にはならないでしょう。いろいろな施設に足を運んでよく観たうえで、ぜひ自分に合った施設にアプライされてください。マッチ先が決まったら、そこでの研修がより良いものになるように(その病院の研修をより良いものにするようなつもりで)精一杯没頭されてください。世の中の人が皆さんに期待していることは、とても大きいですよ。