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更新日:2024年1月24日

医療関係の方へ

病理診断科

学生及び初期研修医の皆さんへ

市立札幌病院病理診断科・検査部病理係のメンバー。前列中央が部長の辻。

(市立札幌病院 病理診断科・検査部病理係のメンバー。前列中央が部長の辻)

病理診断という仕事

病人の見た目が9割と同じように、病気の見た目も9割、形態で大方どのような対処をするべきか方向性が決まります。沢山の分子病理学的な根拠も、それらが蓄積し、最終的、総合的に形態となって表れ出ることは変わりません。私たちは、誰よりも病気の生の姿(組織や細胞)を知っています。標本は美しく、組織は自然の精緻な造形に溢れています。そして、組織像、細胞の一つ一つが語りかけてくるメッセージを適切に感じとること、医学共通言語に変換して余すところなく主治医に伝えることは、病理医の使命です。遺伝子やゲノムの情報が有用とされる今日にあっても、病理診断の重要性は変わりません。

TAFRO症候群のglomerular endotheliosis、PAM-HE染色

(TAFRO症候群のglomerular endotheliosis、PAM-HE染色)

腫瘍にも、炎症にも、驚くほど合理的な病変の広がりや経時的な進行が見てとれます。何年診ていても、飽きない多様さがあり、勉強することは尽きません。私達の体の中の細胞たちが、自分よりはるかに大きな腫瘍細胞、病原微生物の塊にも、果敢に立ち向かう姿は何度みても心を打たれます。命を燃やして死んでいく細胞たちがいて、私達の個体は守られています。

Thrombotic microangiopathy, 左:PAM-HE、右:電子顕微鏡×12,000

(Thrombotic microangiopathy, 左:PAM-HE、右:電子顕微鏡×12,000)

同じ胃がんであっても組織像は様々で、それに応じるように予後も多様です。昨今は癌かどうかだけでなく、腫瘍細胞含有量やviability、リンパ球浸潤など、治療の個別化の根拠となる病理所見を同定することや、程度を評価することが求められます。患者さんから得られた組織から、100%、120%の情報を引き出すことが求められています。病理が責任をもって検討するべき項目は増える一方で、仕事の難しさは増しています。

良性か悪性か、炎症か腫瘍かなど、根本的なところが難解な症例も沢山あります。病気は一つとは限らず、この疾患でみられる所見、別の疾患でみられる所見が、様々に入り混じって目の前に繰り広げられます。私たちは、あたかも主治医の先生の手の平に載せられ、患者さんの体の中の病変部にワープさせてもらい、時空を越えた旅をしているかのように、病変部にたどり着き、そこで入念な活動を開始します。病変の場所、集まる細胞たち、周囲の状況、場の空気を感じとり、染色を使って様々な分類をし、最終的な診断にたどりつきます。

沢山の知見や根拠を積み重ね、その比重を加味しながら、最も考えうる疾患や病態に近づいていくのは、さながら謎解きゲームのようです。戦い方は病理医によっても様々ですが、合理的な診断プロセスの面白さに触れ、自然が作り出す病気という生き物を捉える喜びをぜひ皆さんに体験していただきたいです。

私達は顕微鏡の前に座っているだけでは全くありません。どうしてこんなに病変が進行しているのか、どういう薬剤が有効そうか、なぜステロイドが効かないのか、など、主治医の問いは切実です。何度も鏡検するだけでなく、評価に見合う美しい標本を作るにはどうしたらよいか、どんな染色が必要か、それらは妥当かを検証します。症例が教科書的な概念と一致するか、希少症例か、報告例はどれくらいあるかなど、毎日のように教科書をよみ、文献を探します。学んだ知識や日常の工夫を100%診断に活かすことができる診療科というのは、そう沢山はないと思います。

病理検査は主治医が最も興味感心を持っているdeepな組織、病態に直接触れられる数少ない検査です。学問的、専門的でありながら、臨床に根ざし患者のために存在するという側面があります。主治医の臨床判断が正しく行われるために、実践的で適切な病理診断を常に私たちは心がけています。

そして、残念ながら患者さんが亡くなられて剖検させていただくときには、臓器を横断的にみながら、生前のこの判断、あの診断やその投薬のどれが正しく、どれが正しくなかったのか、裁判官のように検証します。患者さんが亡くなられたことは不幸ですが、次の診療に繋がる真実を見出すことができます。

病理学は実に懐が深い学問です。「百聞は一見にしかず」です。2階の 南東(リハビリ奥)にある病理診断科をぜひ訪ねてきてください。

cryofibrinogen-associated glomerulonephritis 電子顕微鏡 ×70,000

(cryofibrinogen-associated glomerulonephritis、電子顕微鏡×70,000)

業務内容

〔午前中〕

切り出し室で外科材料の切り出しを行います。切り出しは英語ではGrossingといい、肉眼所見の評価が最大の目的です。臓器の全てを一律に標本にするのではなく、ポイントを見極めた標本作りが必要です。切り出しされた標本をみれば、どれだけ肉眼所見がとれていたのかすぐ分かるほどです。適切な切り出しができるようになることは、病理医として非常に重要な技術(スキル)の一つです。

切り出しの様子

(切り出しの様子)

11時ころから生検材料の標本が、12時ごろから15時ごろまで手術材料の標本が、順次出来上がって積まれていきます。誰が何を見るというのが特に決まっていないのが当院の特徴で、意欲があって待ち構えていれば、何例でも自分で確保して診断することが可能です(市立札幌病院方式と呼んでいます)。

〔午後〕

15時30分から細胞検査士と細胞診のディスカッション、16時30分からは病理医全員が集まって組織診のディスカッションを行います。自分が報告書を書く症例の標本をプレゼンテーションし、診断の方向性を決定します。空いた時間に、自分以外の人が診断する標本に目を通すこともできます。ディスカッションまでに多くの標本に目を通し、診断者と異なる意見を持つ場合は、染色を追加することも可能です。ディスカッションの場で意見を戦わせることも可能です。多くの病理医が意見を出し合い、切磋琢磨することで、よりよい方向性を見出すことができ、診断精度が担保されると考えています。ディスカッション後は、報告書を作成し、指導医の手直しや部長のチェックを経て報告書がサインアウトされます。専門医未取得の医師が一人だけで診断をさせられることはありません。

乳がんキャンサーボードの様子

(乳がんキャンサーボードの様子)

カンファレンスでは自分の診断した症例を担当し、デジタル顕微鏡やバーチャルスライドを駆使し、診断根拠となった所見などを説明し、臨床医とディスカッションします。腎生検を診断するようになると、北大第二内科とのエルム腎カンファレンスでも症例を提示します。

〔剖検〕

スタッフとともに研修医も当番を担います。解剖が入った場合に、スタッフと研修医とで解剖に当たります。剖検を行った症例は、各自切り出しを行います。月1回マクロ検討会で、全員で肉眼所見を確認しながら、病態やCPCの方向性について議論します。月1回CPCがあり、研修医が症例をプレゼンし、翌月までに報告書を仕上げます。

初期研修について

志望科に関わらず、1ヶ月から2ヶ月程度の病理研修をおすすめします。例えば血液内科を志望する場合、骨髄生検の組織像を勉強するだけでなく、隣にある検査部と調整の上で塗抹標本の勉強をすることも可能です。もちろん、当科特有の腎生検標本で腎炎や移植腎をみることも可能ですし、希望があれば電顕に触れてもらうこともできます。ぜひ率直に要望を伝えて下さい。

病理検査は何かと万能と思われがちですが、実際に標本を作製し診断するプロセスを見ることで、どうして報告書ができるまでの時間が一定でないのか、結果を急ぐ場合どこまで可能なのか、検体をどのように扱うと適切なのか、この検体でどこまで診断できるか、具体的なところを学ぶことができます。どういう状況で病理検査の精度が上がり信頼に足るか、どういう病理検査の精度が下がってしまうのかということも、知っていれば、その後の診療に役立つことは間違いありません。病理医と一緒に標本をみると、非常に沢山の所見をとりながら、瞬時に取捨選択し、診断に到達しているのがわかります。

ディスカッションの様子。指導医と同じ標本を観察しながら行います。

(ディスカッションの様子。指導医と同じ標本を観察しながら行います。)

病理医は顕微鏡に向かってブツブツ呟く人が多く、近寄りがたいイメージがあるかもしれません。でも、患者さんの臓器、腫瘍がどのように扱われ、適切に診断をされるか、という基本的な点について、興味、関心を持って来てくれる先生、質問をしてくれる先生は、どなたでも大いに歓迎します。何を聞いても恥にならないのは若い先生の特権です。慌ただしい初期研修の合間にもっとアカデミックなもの、アーティスティックなものに触れたいと思った貴方、臨床科でピンとくるものがないと思った貴方、病理をぜひ覗いてみましょう。

pulmonary capillary hemangiomatosis、剖検肺、PAM-HE染色

(pulmonary capillary hemangiomatosis、剖検肺、PAM-HE染色)

病理診断科後期研修及び専門研修プログラム

病理専門研修プログラムについて

当院には、道内では大学病院以外では唯一の病理専門研修プログラムがあります。これは、深澤前部長のご尽力もありますが、当院が道内3大学病院より古い歴史を持ち、北海道におけるあらゆる診療の先駆けとなってきた歴史や、当科が過去に動物実験設備を有し盛んに基礎研究を行って人材を育成してきた背景があってのことです。

昭和40年に伊藤哲夫先生が北海道大学第一病理(現分子病理)より赴任し、当科の前身となる中央検査科を創設しました。伊藤先生は一人病理医という過酷な環境の中で年200体近い解剖を行いながら、医学雑誌への投稿、臨床研究、学会発表を続けられた病理学者でした。そして、伊藤門下の先生方が、蛍光抗体法や電子顕微鏡による解析法を確立し、世界に先駆けて腎病理の分野を切り開き、現在に至る当院の腎生検診断の基礎を作られました。市中病院において最先端の基礎研究を行い一流誌に多数の業績を残し、全国に多くの優秀な人材を教授として輩出してきた輝かしい歴史を現在も誇りに思っています。臨床に根付いた研究を行い、患者に利益を還元すべしという伊藤先生の理念は、現在も私達の中に息づいています。

当科の腎病理は腎病理の誕生とともに始まったので、症例の蓄積という点では全国で3本の指に入る症例数があります。年間800件という件数を集約的に見ているため、効率的な学習や研究が可能です。国内での多機関共同研究に多数エントリーしているほか、マサチューセッツ総合病院など国外の施設とも共同研究を行っています。このように充実した環境で最先端の腎病理を学ぶことができる施設は、国内に他にあまり例がありません。

C1q nephropathyの糸球体:蛍光抗体法

(C1q nephropathyの糸球体:蛍光抗体法)

当科での後期研修/病理専門研修のメリット

◯多様な診療科(糖尿病内分泌内科、腎臓内科、循環器内科、消化器内科、リウマチ・免疫内科、血液内科、呼吸器内科、脳神経内科、感染症内科、小児科、新生児内科、外科、乳腺外科、整形外科、形成外科、脳神経外科、呼吸器外科、心臓血管外科、皮膚科、泌尿器科、腎臓移植外科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科・甲状腺外科、放射線診断科、放射線治療科、歯科口腔外科、緩和ケア内科など)があり、common diseaseを中心に多様で豊富な症例の病理診断が可能。専門医試験までに見る必要がある主要な疾患を網羅できる。細胞診症例も豊富。病理学会地方会(標本交見会)への発表や病理学会での発表、論文作成に困らない。

◯研修医一人で年間3000件程度まで経験可能(これまでの例では少ない人で1300件程度)。

◯剖検数が安定して多く(年間20件程度)、死体解剖資格の取得は容易。病理専門医受験までの3年で30体の基準をほぼ院内だけで満たすことが可能。

◯腎病理診断が800件/年と豊富にあり、蛍光抗体法の撮像や判定、電顕の操作法や判定も含め、短期間に相当数の診断トレーニングが可能。

◯腎病理診断で、豊富なノウハウと症例の蓄積(通算2万7千件以上)があり、腎病理協会、腎臓学会はじめ関連学会での活動、多機関共同研究なども盛んである。将来、腎病理専門家として活躍する道がある。

移植腎ポリオーマウイルス腎症のウイルス粒子×40,000

(移植腎ポリオーマウイルス腎症のウイルス粒子×40,000)

◯伊藤先生以来の自由で開かれた病理診断とリサーチマインドの育成が目指されている。診療に支障がなければ、興味や関心に沿ってトライ&エラーすることが推奨される自由な空気がある。

◯部長(辻)は研究経験が豊富で、病理検体を用いた研究に積極的である。機器も比較的充実して保有しており、希望者にはパラフィンからの遺伝子抽出やPCRなど、実験手技の指導が可能。

◯学会発表のスタッフの経験が豊富で、症例の選択からスライド作成のノウハウも含め、研修医に合わせ適切に指導をする(病理学会地方会の若手MVP賞を受賞した先生が複数いる)。

北海道病理医会の若手奨励賞(MVP)を受賞した今本先生(右)と前部長の深澤先生(左)

(北海道病理医会の若手奨励賞(MVP)を受賞した今本先生(右)と前部長の深澤先生(左))

◯病理技師は高い技術と能力、専門性を有しており、病理医の目的とする標本を一緒に追求してくれる。検体の紛失や取り違えなどが起こりにくいシステムを構築してくれている。

◯有能な医療秘書が文書作製業務などをサポートし、診断業務を柔軟に支えてくれる。

◯研究費が充実しており、教科書類、電子書籍が豊富に揃って日々アップデートされる。また学会出張や資格取得の出張などが認められる。

◯北大分子病理の連携大学院となっており、当科に所属しながらの大学院進学が可能。北大分子病理と密に連携しており、将来的にアカデミアで活躍する道も開かれている。

◯道内全域に多くの連携施設があり、道外にも連携施設があり、今後も拡大予定あり。ライフスタイルに合わせた柔軟な職場の選択や専門性の高い研修が可能。

◯3年間で無理なく病理専門医受験資格が得られる。その間に、大学院や医局などの情報を収集し、自分にあった進路をじっくり考えることができる。

◯仕事が基本的に平日日中で、カンファレンスも夜遅いものはほとんどなく(第2月曜日のみ19時30分ごろまで、それ以外は18時30分には終了)、子育て、介護等との両立が可能。

目指す病理医像

◯肉眼所見を十分にとり、正確で的確な切り出しを行い、美しい標本を作成できる病理医

◯組織所見を適切に抽出し、適切な言葉で表現し、必要な根拠を列挙した上で、診断を確定できる力をもった病理医

◯必要な鑑別疾患を挙げ、鑑別を進めるのに必要な染色などを、自ら教科書や文献などで検索し診断への筋道をたてる力を持った病理医

◯臨床科の診断プロセスや治療介入のタイミングを理解し、それらに見合うスピード感をもつ病理医

◯多くの病理医や臨床医のためになる教育的な症例について、学会発表や論文作成を行って適切に情報を発信し、医学を前に進める力を持った病理医

◯日々新しく変わる疾患概念や、診断技術の進歩などに敏感に反応し、自ら継続的に学ぶ意欲を持った病理医

日本病理学会専門医受験資格について

1. 病理専門医認定試験の受験資格を得ようとする者は、初期臨床研修後に病理診断について次の各項の研修を修了していること。なお、研修内容は、日本病理学会が提示し日本専門医機構が認定する研修プログラム・カリキュラムに準拠したものであること。
 (1) いちじるしく片寄らない症例についてみずからの執刀による病理解剖(剖検)を行い、病理解剖診断 報告書を作成した剖検例を30例以上 (※) 経験していること。剖検例は病理専門研修期間に、日本病理学会の認定する研修施設において経験した症例に限る。また最大5例までは、病理学会が認めた海外での剖検症例を加えることができる。
また、最大5例までは、法医学との合同解剖症例(行政・承諾・新法解剖症例)を、剖検症例として加えることができる。
 (2) いちじるしく片寄らない症例についてみずから病理組織学的診断を行った生検ならびに手術切除検体5,000件(50件以上の術中迅速診断を含む)以上を経験していること。
 (3) 日本病理学会(支部を含む)、国際病理アカデミー日本支部等の主催する病理組織診断に関する講習を受講していること。
 (4) 日本病理学会等の主催する細胞診に関する講習を受講していること。
 (5) 日本病理学会の主催する病理解剖に関する講習を受講していること。
 (6) 日本病理学会の主催する分子病理診断に関する講習を受講していること。
 (7) いちじるしく片寄らない症例についてみずから診断した細胞診1,000件(スクリーニング、陰性例を含む)以上を経験していること。
 (8) CPCを2例以上担当していること。

※2022(令和4)年度病理専門医試験受験者は、新型コロナウイルス感染拡大影響下における病理専門医研修緩和策として受験要件となる剖検数を30体から20体とする。
詳細はホームページ(https://www.pathology.or.jp/senmoni/0811.html)を確認のこと。

(文責 病理診断科 部長 辻 隆裕)

市立札幌病院病理専門研修プログラム専攻医募集について 

2024年(令和6年4月)開始の専門研修プログラムの募集は終了いたしました。2025年(令和7年4月)開始のプログラムの募集は2025年10月ころより、こちらのHPにて行う予定です。

お問い合わせ先

市立札幌病院 病理診断科 辻 隆裕

〒060-8604 札幌市中央区北11条西13丁目1-1

電話:011-726-2211、FAX:011-726-9541(医局)

email: takahiro.tsuji(at)city.sapporo.jp((at)を@にしてください。もし3日以上メールの返信がない場合、お電話ください。)