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“生物多様性”という言葉を、最近見聞きすることが多くなっていると思いますが、皆さんはその意味を知っていますか?
生物多様性は、私たちの暮らしや事業活動と深い関わりがありますが、生物多様性という言葉だけではなかなかその意味や重要性が伝わりにくいのが現状です。
「カッコー先生の生物多様性Q&A講座」では、生物多様性についてQ&A形式で解説します。
A1 “生物多様性”は、単に生き物がたくさんいるということではありません。また、希少種や外来種の問題とともに取り上げられることが多いのですが、これは生物多様性の概念のほんの一部にすぎません。
生物多様性とは、多種多様な生き物がいて、これらがお互いにつながり合い、絶妙なバランスで豊かな生態系を保っている状況を表す言葉です。
「生態系の多様性」、「種の多様性」、「遺伝子の多様性」の3つのレベルがあり、これらが相互に影響し合って、地球全体の生物多様性が成り立っています。
A2 一見、私たちの生活とは関係がなさそうな生物多様性ですが、実は切っても切れない関係にあります。
きれいな空気や水、食べ物や衣服…私たちが普段あるのが当たり前と思っているものの多くは、実は生物多様性が与えてくれている恵みなのです。また、土砂崩れを防いだり、美しい自然の景観を生み出しているのも生物多様性のおかげです。
この生物多様性の恵みのことを「生態系サービス」といいます。生物多様性がもたらす生態系サービスがなければ、私たちは生きていくことができません。生物多様性は、私たちの生活になくてはならないものなのです。
A3 私たちの命と暮らしを支えている生物多様性ですが、実は今、地球規模で失われつつあります。
地球上にはわかっているだけで175万種、未知のものを含めると3,000万種もの生き物がいるといわれています。
しかし、現在、1年間に4万種もの生き物が絶滅しているといわれており、その絶滅スピードは、今後さらに早くなることが予想されています。
地球上では、過去にも自然現象の影響で、恐竜の絶滅など5回の大量絶滅が繰り返し起こってきました。しかし、現在の絶滅スピードは自然状態の約100~1,000倍にも達しており、今は6回目の大量絶滅期と呼ばれています。
この絶滅スピードを速めている主な要因は、実は、私たち人間の活動にあります。
生態系は様々な生き物たちによって絶妙なバランスで保たれているため、特定の種が突然いなくなると、そのバランスが崩れ、他の種にも悪影響を及ぼしてしまいます。一度失った種は二度と元には戻せません。このまま絶滅が進むと、いずれ私たち人間も生きていけなくなる日がくるかもしれません。
A4 生物多様性は、今、主に人間活動の影響により、急速に失われつつあります。
日本の生物多様性は「4つの危機」にさらされており、たくさんの生き物たちが絶滅の危機に瀕しています。
第1の危機 |
開発や乱獲による危機 埋め立てなどの開発、鑑賞や商業利用のための乱獲や過剰な採取によって、動植物の生息・生育環境は悪化し、多くの生物が絶滅の危機に直面しています。 |
絶滅したオオカミ |
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第2の危機 |
自然に対する働きかけの減少による危機 人工林の手入れ不足や農地の放置等により、里地里山に暮らす動植物が絶滅の危機にあります。また、シカなどの増加も生態系に大きな影響を与えています。 |
エゾシカによる食害 |
第3の危機 |
外来種や化学物質の持ち込みによる危機 外来種の中には在来種を捕食したり、生息・生育場所を奪ったり、交雑して遺伝的なかく乱をもたらしたりするものがいます。化学物質には動植物への毒性をもつものがあり、それらが生態系に影響を与えています。 ※遺伝的なかく乱:長い歴史で形成されたある種の遺伝構造や遺伝的多様性が、人為的に持ち込まれた個体との交雑によって乱されること。 |
外来種のアライグマ |
第4の危機 |
温暖化など地球環境の変化による危機 平均気温が1.5~2.5℃上がると、氷が溶け出す時期が早まったり、高山帯が縮小されたり、海面温度が上昇したりすることにより、動植物の20~30%は絶滅のリスクが高まるといわれています。 |
サンゴの白化現象 |
A5 私たちが食べている物や使っている物の中には、世界の意外な場所で、意外な生き物に影響を与えているものがあります。
例えばエビ。東南アジアでは、輸出用のエビの養殖池の開発のため、広大なマングローブ林が伐採されています。
また、携帯電話には「タンタル」というレアメタルが使われていますが、この採掘により、アフリカのコンゴにいるゴリラが生息地を追われ、その数が激減しています。
私たち日本人は、食糧の約6割、木材の約7割、そしてエネルギーや鉱物資源の多くを輸入に頼っています。言いかえれば、私たちの生活は、世界の生物多様性からもたらされる恵みを消費して成り立っているということになります。
私たちの暮らしは、世界の生物多様性に支えられていると同時に世界の生物多様性に様々な影響を与えているのです。
A6 地球温暖化と生物多様性は、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された地球サミットを契機に、対策に向けた取組が本格化した地球環境問題です。このサミットで、地球温暖化は「気候変動枠組条約」が、生物多様性は「生物多様性条約」が採択されました。
温暖化による気候の変化は高山帯や寒冷地の生物の減少や生物の分布域の変化を引き起こし、また、熱帯雨林などの森林生態系の破壊による生物多様性の喪失は温暖化を進行させるなど、地球温暖化と生物多様性は密接な関係にあります。
地球温暖化も生物多様性の喪失も、その主な原因は私たち人間の活動です。エネルギーや資源の過剰消費が、地球温暖化を進行させるとともに、生物の生息・生育環境の悪化を招いています。また、地球温暖化が生物多様性を減少させ、減少した生物多様性はさらに温暖化を促進させるといった悪循環が生まれています。
温暖化対策と生物多様性の保全は、車の両輪として、ともに取り組まなければならない問題なのです。
A7 「生物多様性さっぽろビジョン」は、札幌市が平成25年3月に初めて策定した生物多様性保全のための基本指針で、生物多様性基本法第13条に基づく地域戦略です。
札幌市は、190万人を擁する一大消費地でありながら、南西部には山地が拡がるなど豊かな自然が残っている都市です。
生物多様性の保全のため、札幌市ができること、そして取り組まなければならないことは、
です。
このため、札幌市では、ビジョンに掲げる「北の生き物と人が輝くまち さっぽろ」の理念のもと、市民やNPO、事業者などのあらゆる主体とともに、生物多様性の保全のため、札幌市の自然環境を保全するとともに、市民一人ひとりのライフスタイルの見直しを進めていきます。
【参考】生物多様性さっぽろビジョン
A8 地域で生産された食べ物を地域で消費する“地産地消”は、自然からのめぐみや季節の移り変わりを実感できるだけではなく、環境にもやさしい取組です。
「フードマイレージ」は、生産地から食卓までの距離が短い食料を食べた方が環境への負荷が少ないという考え方です。「食料の輸送量(t)×輸送距離(km)」で表し、この値が大きいほど、生産地からの距離が長く、輸送にかかる燃料や二酸化炭素の排出量が多くなります。
食品の輸入量が多い日本は、実はフードマイレージの総量が世界で一番大きい国です。190万人が暮らす大都市の札幌は、日本のタマネギ栽培発祥の地で、道内有数のレタスやホウレンソウの生産地でもあります。私たちが地域でとれた野菜などを食べることは、環境負荷を減らすとともに、地元の農家を応援し、生き物たちの貴重な生息場所である農地を守ることにもつながります。
A9 私たちが利用しているエネルギーのほとんどは石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料です。長い年月をかけて動植物の死がいなどが変化した化石燃料は、地球がもたらす大切な生物多様性の恵みです。
日常生活や事業活動に欠かせない化石燃料ですが、その利用は生物多様性に様々な影響を与えています。
化石燃料の採掘には、大規模な開発が伴います。エネルギー自給率がわずか6%(2012年)の日本は、エネルギーの利用を通じて、海外の産出国の生物多様性に影響を与えているといえます。
また、化石燃料の燃焼により排出される二酸化炭素は、温暖化を進行させ、動植物の絶滅や生態系の破壊につながる危機を招いています。
省エネルギーは、生物多様性に配慮した大切な取組なのです。
A10 私たちの便利で豊かな生活は、生物多様性からの恵みである資源の大量消費の上に成り立っています。
例えば食べ物。日本では、食料消費全体の約2割にあたる約1,700万トンを毎年廃棄しており、このうち、まだ食べられるのに捨てられた、いわゆる“食品ロス”は500~800万トンに上ります。食料自給率39%(平成25年度)の日本では、食料の大半を輸入する一方で、多くの食べ物を捨てています。
また、国際自然保護連合(IUCN)は平成26年、日本人になじみの深いニホンウナギやクロマグロを絶滅危惧種に指定しました。乱獲が原因の一つと言われており、世界で最もウナギやマグロを消費している私たち日本人の食生活の影響が大きいと考えられています。
食べ物をはじめ、木材やエネルギーなど多くの資源を大量に利用している私たちの生活は、地球上の生物多様性にさまざまな影響を与えています。
必要以上のものは買わない、ものを長く使う、再利用するなど、“もったいない精神”で生活の中での無駄をなくすことは、限りある資源を有効に活用し、生態系への負荷を低減する、環境にも経済面にもやさしい大切な取組です。
A11 大量生産・大量消費・大量廃棄をし、食料やエネルギーなどの多くを輸入に頼っている私たちの暮らしは、札幌だけではなく、世界の生物多様性やそこからもたらされる恵みに大きな影響を与えています。その影響を少なくするためには、企業などの事業活動とともに、私たち消費者も日々の生活の中で、生物多様性に配慮することが必要です。
生物多様性を守るといっても、難しいことばかりではありません。ちょっとした工夫や心掛けで、日常生活の中でできることはたくさんあります。身近な自然や生き物を大切にしたり、環境に配慮した商品やサービスを選んだり、省資源・省エネルギーや地産地消、ペットの終生飼育も生物多様性を守る大切な取組です。
一人ひとりの取組は小さくても、みんなで取り組めば大きな効果が生まれます。生物多様性の保全には、私たち一人ひとりの取組が不可欠なのです。
A12 約38万km2という狭い国土面積にも関わらず、南北約3,000kmにわたり数千の島々が連なる日本には、わかっているだけで9万種、推定では30万種を超える生き物がいると言われています。
国土の約70%を森林が占め、海岸から山岳まで標高差があり、はっきりした四季の変化、台風や火山の噴火などの自然現象、そして人間活動の影響も受けて、日本では亜熱帯から亜寒帯まで幅広い生態系が形成されています。島国であることや複雑な地形条件などから、固有種の割合が非常に高く、哺乳類の約3割、両生類の約8割が固有種であるなど、日本の固有種率は世界でもトップクラスです。
豊かな生物相をもつ日本ですが、世界に34ある「生物多様性ホットスポット」の1つに指定されています。ホットスポットは、地球規模での生物多様性が高いにも関わらず、破壊の危機に瀕している地域であり、日本は世界的に見ても、生物多様性の保全上重要な地域となっています。
A13 私たち人間が一人として同じではないように、同じ種の生き物でも遺伝子の違いによりそれぞれ個体差があります。また、人間にも人種の違いがあるように、同じ種でも離れた場所にいる別々の集団の遺伝子には地域性があることが多く確認されています。このようにある生き物が個体や地域によって様々な遺伝子をもつことを「遺伝子の多様性」といいます。
遺伝的多様性が高いと、低い場合に比べ、環境の変化や病気に対する抵抗力に幅が出て、絶滅を回避できる確率が高くなります。これは野生生物だけではなく、農作物や家畜も同じで、栽培品種の単一化が進みすぎると、新しい病害虫の発生で大きな被害をうける危険性があります。
また、ある地域に他の地域の個体群を人為的に持ち込むと、交雑が進み、長い進化の歴史の中でつちかわれてきた地域の固有性が失われ、その種の遺伝的多様性が低下するおそれがあります。遺伝子の多様性を守るには、その多様性を支えている地域個体群の保全も重要なのです。
【参考】
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