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更新日:2022年6月1日

コラム「こんにちは、アシストです」(2022年6月号)

「愛された記憶」~谷山調査員~

今、朝のBSテレビで、連続テレビ小説「芋たこなんきん」が再放送されている。作家の故田辺聖子さんの半生と数々のエッセイ集をベースにした番組である。田辺さんと言えば、作品の中にあったエッセイに次のような内容が書かれていたことを思い出す。

 

人生を生き抜く力というものは、子どもの頃に蓄えられるのではないか。子どものときに味わった後悔や苦悩や挫折感などは、オトナになってからの人生行路のある種の道しるべになるが、『愛された記憶』は、その人を支える・・・

 

大人がどのようにして、子どもたちに関わってあげることができるかは、一人ひとり子どもの置かれている家庭環境や立場などの違いがあるので、一概に、皆同じということは言えない。しかし、子どもたちの人生行路の力として、田辺さんの言う『愛された記憶』が成長の糧として占める比重は大きいと思う。そういう意味からも、子どもたちの周りには、子どもたちが、何かをしようとしたときに、支えてくれる優しくも厳しい大人がたくさんいるということが、子どもたちの世界には必要である。わが子も、よその子も社会の宝、その面倒は大人にとって幸せと捉えて見守りたいと思うのだが・・・

今回のコロナ禍のさなか、古い資料を整理していたら、もう何十年前の雑誌の切れ端が出てきた。丁度、娘が東京に就職することになり、一度も家から出たことがない娘だったので、本当に一人で新生活ができるのかなと心配した頃に読んだもので、この記事を書いた母親の気持ちに、親として共感したことを懐かしく思い出す。

 

昨年、長女は進学を機に一人暮らしを始めた。私は娘の暮らしぶりを見るため、11月にマンションを訪れた。マンションに着くや、娘が管理人に注意を受ける場面に出くわした。「ごみの出し方がめちゃくちゃ。今度、同じことがあったら、親元に連絡をするよー」と言われ、私も謝った。部屋に入ると、「新聞代が2か月たまっています」というメモ。「新聞販売店に行って来るから、自転車、貸して」と言う私に、娘は「夏に帰省したときに盗まれた」と言った。娘は受験勉強以外に家のことをさせてこなかった。一人暮らしを始めた娘は、一人前の常識を求められても、わからないことが多かったようだ。そんな娘が、世話になった人が大病をしたのを聞いて、冬休みの帰省の際に、お見舞いに毛ガニを買ってきた。その人から「一人前になったね」と誉めてもらっていた。

 

私も含めて、我が子の年齢や生活している場所に関係なく、子どもが自立したということを子育てのゴールとしてきた親は多いのではないかと思う。決して、子どもが大人になったから、子どもに無関心になるということではない。子どもが立派に成長していても、心配になるのが親心。ときに悩みの種となっても、子どもの面倒は親の幸せであり、子どものことをいつまでも気に掛けていたい親が多いのではないかと思う。子どもは、家庭のすべてをもって成長していく。甘いものの隠し味が塩、辛いものには砂糖、子どもたちの「愛された記憶」の隠し味は、厳しく、優しい親の思いで「あった」ではなく、進行形の「ある」なのではないかと思うのだが・・・

余談になるが、子どもの笑顔や無垢な表情は宝物であり、これは世界中共通の事実である。そんな子どもの笑顔や無垢な表情とはかけ離れている戦火にさらされた映像が3月や4月頃から、毎日のように放映されている。住宅や学校、病院へも攻撃を受け、街や村が破壊され、瓦礫が散乱する現地の映像に言葉を失ったのは、私ばかりではないと思う。砲弾の音が途切れない中、親と歩いて逃げる子のこわばった表情、ホームで親とはぐれたようで、独りで泣き叫んでいた幼い子の姿、ウクライナに残る警察官の父親に抱かれた幼児が、父親のかぶっているヘルメットを泣きながらたたき、「パパ、パパ」と言いながら抗議していた様子など、怒りと同時に、これからの子どもたちの心の傷をどのように癒していったらよいのかということが頭から離れない。「子どもは大人の鏡」という言葉がある。“見本”になれなくても“手本”になれる大人が沢山いる環境や世界を願わざるを得ない。

この2年間余り、3密(密閉・密集・密接)を避けることが求められ、人間関係が希薄になりがちな環境である。しかし、「人は人によって人となる」という言葉がある。新型コロナ感染が一日も早く終息し、マスク姿もなく、「黙○」がなくなり、大人と子どもたちのふれあいが当たり前の日常生活に戻り、子どもたちが、『愛された記憶』をたくさん実感し、健やかな成長をしていくことを願わざるを得ない。

 

令和4年6月1日

 

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