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一年ほど前、ふとしたきっかけで思いもよらぬ感動を得ました。何と、卵を立てることができたのです。
テーブルにそっと卵を置き、縦に貫く重心の位置を思い描く。指先に全神経を集中してその位置を探ること2分弱、卵がすっと立ったのです。新大陸アメリカを発見したコロンブスがやったような卵の尻をつぶして立てる演出とは違って、何ら特別な造作をすることもなく立てることができた瞬間、驚きでした。
1948年、ある新聞記事をきっかけとして“立春の日に卵が立つ”ことが世界中で話題になりました。中国の故事にならって多くの人たちが立春の日に試してみたからだそうです。いくつかの成功例が写真入りでその新聞に掲載されたことで、その後「立春の卵の謎」として当時の著名な科学者たちが立春に卵が立つ原理を様々に展開したようです。これら諸説に疑問を感じた日本のある物理学者が「立春の日でなくても立てられるかしら?」と挑戦したところ難なく立ったとのこと。彼の検証によると、卵の表面はごく微細な突起物に覆われていて、先端にある3つあるいは4つの突起物が織りなす中心点が卵の重心と一致した時に立つのだそうです。そんなエピソードをある雑誌で読んだ私も挑戦してみたわけです。
それは還暦を過ぎて数か月での出来事。「できるわけがない」という先入観が邪魔をしてか、これまでやってみようともしなかったことだったが故に、思いもかけない結果に感動の思いが際立ったのでしょう。初老の身ではありますが、その時ばかりは子ども時代に返ったような心躍る思いでした。半世紀以上もこの世に生きていながら、「未だやってみようとすらしていなかったことはたくさんあるのかも…」とつくづく感じました。
当センターには、日々様々な相談が舞い込みます。悩みながらも、苦しみながらも、相談者の中には「できるわけがないかもしれないが、こんなことしてみようかな」という、ちょっと控えめではあるけれど前進するための確かな思いの片鱗が伺える場面があります。相談員としてはその思いを感じ取り、その思いの可能性を見い出しながら、背中を押してあげたいと思っています。「やってみようかな」という相談者の思いは、卵の表面に存在するごく小さな突起物のようなものかもしれない。そのいくつかの突起が相談者の前へ向かおうとする意思の重心と合致することを背中を押しながら願うのです。
令和4年5月1日
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