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大海 恵聖(おおうみ えみ)さん
株式会社エムブイピークリエイティブジャパン代表
自身も関節リウマチを患うなか、「にっぽんの福祉をかわいくしたい」を事業コンセプトに、福祉とモノづくりの間で会話のきっかけになるコミュニケーションツールの企画・開発・制作・販売を手がける。「北海道輝く女性のチャレンジ賞」「北海道福祉のまちづくり大賞」受賞。デジタル庁デジタル推進委員。
実質再エネ電力は3Dプリント製品の製造に使っています。この実質再エネ電力の利用についてはのちほどお話しするとして、私がつくっているものや経緯から簡単に触れたいと思います。
私自身が関節リウマチになったこともあり、「にっぽんの福祉をかわいくしたい」というコンセプトで2013年頃からモノづくりを始め、2015年に法人化しました。最初につくったのは、歩行用の杖をシールや手芸品でかわいく装飾した「デコ杖」で、商標も取っています。
3Dプリントはもう少しあとのことで、モノづくりのシェアオフィスにいた時に向かいの席に座っていた3Dプリントのデータをつくる会社の社長にデータ制作をお願いして、杖のピアスをつくったのが原点です。
その後、車いすに乗っている友人のオーダーで車いすのピアスをつくったりしているうちに、「自分の車いすと同じ色のものが欲しい」「障がいのある子どもと同じ車いすのデザインのものが欲しい」、あるいは義肢装具士さんから「義足のピアスやネックレスをつくりたい」など、いろいろな相談を受けるようになりました。
当初、3Dプリンターは精巧なものは何千万円もしたため製造は外注。その後、特許切れにより3Dプリンターが安価で購入できるようになり、2万円台で以前のものより精度がよくスピーディーな機器も出てきました。2021年に1台目を購入し、今では扱う原料・用途違いで11台を所有しています。
車いすのイヤリング
実質再エネ電力を使うことにしたきっかけは、新しいアイデアコンテストなどに応募するにしても今の時代は絶対的に、「どれくらい環境のことを考えて取り組んでいるか」を問われるからです。その点、プラスチックを材料に使う3Dプリントは環境面での“推し”が弱い。今では家も3Dプリンターでつくれる時代で、切ったり削ったりがなく、直接形にしていけるので廃材が少ないというメリットはありますが、材料で“エコ”は主張できないと思いました。
では、何があるかと考えた時に浮かんだのが“電力”です。
ただ、電力に思い至ったものの何をどうすればいいかわかりません。そんな時にいろいろ教えてくれる人たちがいました。
「北海道には、たとえば十勝だったら牛のふん尿でつくったエネルギーを活用するなど、北海道ならではの電力がいろいろあるから、そういうのを使ってみたらいいのでは」
「再生可能エネルギーの電気を使いたいのなら、札幌市でこういう制度を始めましたよ」
新しく始まったという「さっぽろ再エネ電力認定・公表制度」では、実質再エネ電力などを扱う小売電気事業者のリストも掲載していて、何をどう選ぶべきか迷いに迷っていた私には大助かり。自社の強みになる再エネの選択を間違えることなく「ここから選べば簡単で安心だ」と思いました。
太陽光や風力などの再生可能エネルギーの電力も、火力などの一般的な電力も、送電線に乗ると区別がつかないため、再エネ指定の「非化石証書」というものを使うことで「実質的に再生可能エネルギー100%の電力とみなす」というものです。電力会社と契約した利用者は、通常の料金プランに加えて環境価値料金を支払います。
ここからはあくまでも私の例になります。
札幌市の認定・公表制度のリストから会社を選ぶ際には、自社の使い方だとどの会社が料金的にお得か比較検討しました。その上で最終的には、どれだけ自社が環境に貢献しているかを毎回わかりやすく表示してくれることを基準に選びました。
毎月の請求書にはCO2が「杉の木10本分削減できました」というようなことが書かれています。申請や応募などの書類作成時には、そういう電気を使っていることを具体的に示すことができるようになったのです。
実質再エネ電力は料金プラン以外に環境価値料金がかかりますが、「いろいろな価値があるから2,000~3,000円高くなってもOKにしよう」と思って切り替えました。ところが実際に利用してみると、以前とほとんど変わらないのです。
札幌市の認定を受けた2023年2月15日以降からの利用で、電気代が高騰した時期とも重なるのですが、切り替え前で月1万円くらいだったものが、切り替え後も1万円くらい。燃料費調整額の変動によっては今後上がるかもしれないし、忙しい時には3~4台を24時間動かすので変わるかもしれませんが、今のところは“うれしい結果”です。
新しいモノをつくっても“環境”を考えていないと置いていかれる時代です。“環境”に関して推せるものを何かつくっておく必要を感じ、たった一人の会社ができるとしたら“電気”だと考えて、今回、実質再エネ電力に切り替えました。
「ほかにも何かないだろうか」と考えることがあります。3Dプリントでは、つくりたい造形物が崩れないように支えるサポート材というものがあり、完成後は廃棄するため、これをどうにかできないかと思っています。現状では、砕いてオブジェの中に入れ込むことくらいしかアイデアは浮かんでいません。
「誰よりも先に変わったことを生み出そう」「この方法があったか!」を、見つけていきたいと思います。