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更新日:2011年2月24日

札幌市環境影響評価制度の基本的なあり方(答申書)

1 制度化の背景及び必要性

(1) 近年、環境問題は、地球環境や、事業者及び市民の日常の活動に起因する環境負荷などに見られるように、時間的、空間的、社会的に大きな広がりを有するものとなっている。こうした環境問題の様相の変化に対応し、持続可能な社会の構築を図るため、札幌市環境基本条例が平成7年に制定され、環境の保全に関する基本的な施策の一つとして、環境影響評価の措置が位置付けられている。

(2) 環境影響評価は、環境に著しい影響を与える開発事業等の実施前に事業者自らが環境影響について評価を行い、環境の保全に配慮することによって環境の悪化を未然に防止するものであり、環境保全上極めて重要な施策である。
 国においては平成9年6月に環境影響評価法(以下、法という。)を制定したところであり、北海道では昭和53年に制定した北海道環境影響評価条例(以下、道条例という。)が、平成10年10月に改正された。

(3) さらに行政手続法の制定により行政運営における公正の確保と透明性の向上がより一層求められるようになったこと、国の地方分権推進計画の策定により種々の事業の許認可権限が国や道から市へ移譲されることとなるなど、札幌市が環境影響評価制度を持つ意味が高くなっている。

(4) 札幌市では、これまで独自の環境影響評価制度を有していなかったため、国の行政指導によるいわゆる閣議アセスや道条例の対象とならなかった事業については、環境への影響が懸念されるものについて、事業者が自主的に環境影響評価を実施するに過ぎなかったが、上述した状況の変化やさらには環境問題に対する市民意識の高揚・醸成に適切に対応するため、札幌市においても早急な制度化が必要と考える。

2 制度の目的

 環境影響評価制度は、開発事業等が環境に及ぼす影響を事前に把握し、その結果に基づいて環境への配慮を行うことにより、当該事業等の実施に伴う環境負荷を低減し、環境の保全を図ることをもって、現在及び将来の市民の健康で文化的な生活の確保を目的とすべきである。

3 制度化の基本的な考え方

 制度化に当たっての基本的な考え方は、以下の5点とすることが適当と考える。

(1) 事業主体自らが環境配慮を行う手続きとする。

(2) 事業者、市民及び市の協働関係を重視したものとする。

(3) 環境への負荷低減の目的において実効性を有するものとする。

(4) 札幌の特色や市域内の地域特性など札幌らしさの保全に配慮したものとする。

(5) 地球環境問題や新たに顕在化した問題にも対応したものとする。

4 制度化の内容

(1) 条例の早期制定

 環境影響評価の制度の形式として、条例や要綱とすることが考えられるが、要綱による運用は行政指導の範疇を脱し得ず、その効力には限界があることから、札幌市の環境影響評価制度を実効性あるものとするためには、制度の形式は条例とすることが必要である。
 その制定時期については、平成11年度に法や道条例が施行されることに鑑み、できうる限り早期に条例化することが望まれる。

(2) 早期段階での環境配慮及び手続きの実施

ア 方法書段階から開始する環境影響評価
 従来の環境影響評価の手続きは、対象となる事業の内容がほぼ確定した段階で開始されていたため、事業内容の大幅な変更がされにくい等の問題があったが、このような問題を踏まえ、環境影響評価の手続きが早期段階で行われるようにすることが適当である。
 事業者や事業の目的、環境影響評価の項目並びに調査・予測・評価の手法などを記載した方法書の作成、送付、公告・縦覧及びこれに係る住民意見の提出といったいわゆるスコーピングの手続きを採用することにより、早期段階からの環境配慮と適正な環境影響評価の実施が期待できるようにすることが必要である。

イ 戦略的環境アセスメント等の将来的検討
 戦略的環境アセスメントは、個別の事業に関する上位計画や政策の策定の際に、経済的、社会的配慮とともに、環境の保全について配慮を行うものであり、事業の中止、変更等柔軟な対応を可能にし、事業が与える環境への影響を最小限に抑え又は回避することが期待できる。
 しかし、この段階での環境影響評価は個別計画に比して計画熟度が低いため不確実性が高いなどの技術上の課題がある。そのため、現時点で戦略的環境アセスメント等の考えを制度に取り込むことは困難と考える。
 なお、戦略的環境アセスメント等の制度化については、関連情報の収集・調査を積極的に行い、国、他自治体及び本市の現状等を踏まえて、今後とも検討を継続するとともに、後述する事前配慮指針により、事業の計画段階等においても環境に配慮するよう、事業者に対し協力を求めることも必要である。

(3) 幅広い評価対象と科学的妥当性、透明性の高い選定手続き

ア 幅広い評価対象
 評価対象の選定に当たっては、大気汚染、水質汚濁等の公害の防止や自然環境の保全に限らず、地球温暖化をはじめとする地球環境問題への対応、潤いのある都市景観や歴史的文化的遺産の保全、廃棄物の発生抑制など幅広い視点を持つことが必要である。
 具体的には、札幌市環境基本条例第7条各号に掲げる環境保全施策の対象、札幌市環境基本計画での取組対象から、市が標準的評価項目を選定することが適当である。
 なお、標準的評価項目には科学的・客観的妥当性が求められるが、適宜見直しできるよう継続的な情報収集に努め、研究することも必要である。

イ スコーピング手続きの導入
 調査・予測・評価の項目及び方法については、事業内容等により環境に及ぼす影響が異なることから、前述の標準的評価項目を参考に、個別の案件ごとに事業者が柔軟に選定できるようにするとともに、選定された調査項目等について、市民や専門家、市等が選定の妥当性を検証し、意見を述べることができるようにする必要がある。
 このことから事業者が、調査を開始する前に、事業や調査方法に関する情報を記載した方法書を市民等に提示し、これに関する意見を幅広く求め、具体的な調査項目等の設定を事業者が個別に判断する手続き、いわゆるスコーピング手続きを導入し、選定過程での科学的妥当性と透明性を図ることが必要である。

(4) 代替案の検討等柔軟な評価の促進

ア 事業者自らの環境影響評価実施
 事業を行おうとする者が、自らの責任で事業の実施に伴う環境への影響について配慮することが適当であり、また、事業者が事業計画を作成する段階で、環境影響についての調査・予測・評価を一体として行うことにより、その結果を事業計画や環境保全対策の検討、施工・供用時の環境配慮等に反映できることから、準備書、評価書の作成は、事業者の責任において行うことを基本とすることが適当である。

イ 代替案の検討及び環境影響の総合的比較、評価
 環境影響評価の達成目標を環境基準や行政上の指針値とすることは、環境保全上の行政目標を達成するには意義あることではあるが、一方で、このような観点だけでは、環境基準等の達成により、それ以上の環境保全上の取り組みがなされない場合があることや生物の多様性の確保など、新たな環境保全の要請に対処しにくいなどの課題があり、個々の事業者において環境への影響をできる限り回避し、低減するものであるかどうかを評価する視点が必要と考える。
 事業者が環境保全の立場から、複数案を比較検討することとし、代償的措置を検討する場合には、回避や低減など他の対策をとることが困難であることを明示するとともに、損なわれる環境と代償的措置によって創造される環境とを総合的に比較し、適切にその内容を評価することが適当と考える。

(5) 事後調査制度の導入

ア 事後調査制度の導入
 環境保全措置の確実な実施を確保し、影響の重大性や不確実性に応じて事後調査が実施されるような制度とする必要がある。
 この評価後の調査等については、事業者において、準備書、評価書に内容を記載するとともに、記載に基づいて実施された事後調査については、その結果を市長に報告し、市長が公表するとともに、市民がその結果に対し意見を述べる機会を設けることが必要である。

イ 事後調査結果に係る事業者への措置
 事後調査の結果が予測と相違する場合において、その原因が事業者の責任に起因し、かつ、環境保全の見地から必要があると認める場合には、市長は事業者に対して必要な措置を求めることができるものとすべきである。

ウ 市による事後調査の実施
 市長が環境保全上必要と認めた場合は、事業実施後にあっても事業者から報告を求めたり、市が立入調査することが可能な制度とすべきである。

(6) 各手続き段階での情報開示、参加機会提供

ア 方法書等の公告・縦覧方法の配慮
 方法書、準備書及び評価書については、事業者が市民等に対し十分な期間、公告・縦覧に付すとともに、市民に対しわかりやすく記述し、かつその概要を記載することとする。
 なお、公告・縦覧に当たっては、広く市民に周知を図るとともに、市民の利便性についても配慮することが必要である。

イ 説明会の開催
 事業者は方法書、準備書及び評価書の公告・縦覧のほかに、事業者が各種の調査等を経て、事業及びその環境影響についての事業者としての考えを取りまとめた準備書については、説明会の開催が必要である。

ウ 市民の意見提出機会の確保等
 方法書及び準備書に対して、市民は事業者に対し意見書を提出できるものとし、この意見に関する見解を事業者が市に示すとともに、市は市民にこれを公表するものとする。意見書を提出できる者の範囲は、札幌市民に限らず、有益な地域環境情報を収集する目的からも、広範囲の者の意見提出を認め、地域的限定を用いないことが適当である。
 また、市長は方法書及び準備書について、環境保全の見地から事業者に対し、必要な意見を述べるとともに、これを公表することとする。

エ 公聴会の開催
 市長が準備書に関し意見を提出するに当たっては、次の(7)に掲げる審査の方法のほかに、原則、市民意見聴取の場として公聴会を開催することとする。

オ 市民の積極的参加
 市民一人ひとりが、環境影響評価を自らの問題として捉え、意見提出や説明会、公聴会への参加が積極的に行われるよう、市として配慮する必要がある。

(7) 第三者機関による中立的、専門的審査

 市長意見の形成に当たっては、前述の市民意見のほかに、審査の信頼性を確保する観点から中立的、専門的な立場で審査する第三者機関を市長の附属機関として設置し、その意見に配意する必要がある。
 また、審査の内容については、原則、公開することとし、審査過程の透明性を高めることも必要である。

(8) 地域特性に応じた評価対象事業の決定

 必ず環境影響評価を実施しなければならない事業は、環境に著しい影響を及ぼすおそれのある一定規模以上の事業を対象とすべきであるが、事業の種類については道の制度の対象となる事業を包含するほか、札幌市として環境影響評価の必要があると認める事業についても追加することが適当である。
 また、その規模の決定については、事業の種類により環境への影響が異なることから、事業の種類毎に札幌市内で行われる事業の実態等を考慮し定めるものとする。
 さらに、地域の実情に即した柔軟な環境影響評価がなされるよう、地域によっては環境影響評価の実施の要否を個別に判定するスクリーニングの手法を導入し、対象事業を決定することも必要である。
 具体的には、市民生活地域や生物多様性が保たれている地域などの地域特性を勘案し、市長は特に環境への配慮を要する地域を指定し、この地域においては、必ず環境影響評価を行わなければならない事業に準ずる規模のものについても、環境影響の程度が著しいものであるかどうかの判定をし、その判定の結果が環境影響評価実施の要否に反映される手続とすることが適当であり、この要否の判定に当たっては、スクリーニングに関する情報を開示し、透明性を確保することが必要である。

(9) 制度の実効性の確保

 札幌市の環境影響評価制度は、その制度を実効性あるものとするため次に掲げる措置を導入することも考慮することが必要である。
 なお、これらの措置の制度化に当たっては、法制上の問題を整理し、事業者等に対し違法、不当な行為が行われないよう配意するべきである。

ア 許認可への配慮及び配慮要請
 市長が対象事業の許認可権限を有する場合に、許認可の審査時に環境影響評価の結果について環境保全上の見地から十分に配慮することとし、市長が許認可権限を有しない場合においても、許認可権者に対して環境影響評価書を送付し、当該許認可に際し、その内容について十分な配慮を要請すること。

イ 違反等に対する勧告及び事実の公表
 事業者が本制度の手続きの全部又は一部を実施しない場合や虚偽の内容を記載した評価書等の書類を提出したとき、その他本制度の趣旨に反し環境保全上著しい支障をきたすおそれがあると認められる場合には、市長は当該事業者に対して、環境保全上必要な措置を講じるよう勧告できることとし、当該勧告に事業者が従わないときには、その違反の事実等の内容を公表できるようにすること。

(10) 技術的基盤の整備

 札幌市は、環境影響評価制度の円滑な運用を図るため下記に掲げる事項を整備する必要がある。

ア 技術指針の策定
 事業者が対象事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査、予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針、環境の保全のための措置に関する指針等(技術指針)を定めること。

イ 事前配慮指針の策定
 事業者が環境影響評価の手続き以前の事業計画段階から、環境保全への配慮を行うための事前配慮指針を策定すること。

ウ 地域特性データの整備
 札幌市域内における自然環境要素等の地域特性データの収集、整備に努め、事業者の事業計画や方法書策定の際に、環境保全の側面から支援すること。

エ 評価データの蓄積と情報公開
 札幌市内の事業に関して行われた評価書等を蓄積し、一般に広く公開利用できるようにすること。

5 法及び道条例並びに他法令等との連携・整合

 札幌市の制度の運用に当たっては、法及び道条例並びに他法令等との効果的連携及び整合性を図ることにより、環境影響評価制度全般が最大限に効果を発揮し、札幌市の都市機能の充実と現在及び将来の市民の健康で文化的な生活の確保に寄与することが必要である。
 環境影響評価の手続きの重複や煩雑さを抑えるため、札幌市域における環境影響評価の手続きを、法及び市条例の二つにより運用することとするのが適当であり、手続き内容、対象事業等について道条例と同等以上の制度とし、道条例の適用除外の要件を満たすことが必要である。
 また、隣接する地方自治体にまたがる事業については、その事業の種類や規模等により様々な取扱方法が考えられるが、行政区域にとらわれることなく事業に係る環境の保全が図られるよう、状況に応じ道や関係自治体との協議により、環境影響評価制度上の措置を講じることができるように努めるとともに、関係自治体や当該住民に対しても、情報開示や意見の提出ができるよう配慮する必要がある。

 なお、以上で述べた「4 制度化の内容」の基本的あり方について、次ページに概略図を示す。

[環境審議会の審議経過]

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