ホーム > 教育・文化・スポーツ > 文化・芸術 > 創造都市ネットワークの活用 > 関連プロジェクト・イベント情報 > Sapporo Media Arts Online Talk 2021(2021年2月15日、16日開催) > 開催報告 Sapporo Media Arts Online Talk 2021 第1回「いま世界と繋がるには―札幌、コシツェを例に―」(2021年2月15日)
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新型コロナウイルスの感染拡大によって、国境を越えた往来をはじめ、様々な活動が制限されたまま2021年が始まります。アートの分野においても、創作や発表の機会が失われ、今までのようなスタイルで制作を続けることすら難しくなりました。そうした状況の中で、作家が世界の潜在的な仲間と新たにつながり、グローバルに活動していくことは可能なのでしょうか。またそのためには、どのような支援が必要なのでしょうか。
Sapporo Media Arts Online Talk 2021第1回では、「いま世界と繋がるには―札幌、コシツェを例に―」と題して、札幌とスロバキア共和国の都市コシツェが連携した事例を取り上げ、トークを行いました。
札幌とコシツェは、ユネスコ創造都市ネットワークに加盟している9つのメディアアーツ都市が連携した作品制作プログラム“City to City 2020”に参加しています。“City to City 2020”プログラムの実施にあたって、各都市が2020年9月に参加作家を公募し、札幌からはサウンドアーティストの大黒淳一さんが、そしてコシツェからはメディアアーティストのBeáta Kolbašovskáさんが参加されました。お二人が共同制作した作品「追憶の道」は、3Dアニメーションとバイノーラルサウンドのデジタル作品です。
今回のトークでは、アーティストとして参加した大黒さん・Beátaさんをはじめ、このプログラムに関わった方々、札幌とコシツェそれぞれでメディアアーツに関わる方々が登壇しました。まずは作品「追憶の道」を共同制作したお二人に、制作過程や作品に込めた思いを語っていただき、その後のクロストークでは、制作者と支援者の両方の視点からプログラムを振り返りました。
大黒さんは札幌在住のサウンドアーティスト。2006年に独立し渡欧、国内外のCMなど商業音楽を手掛けてきました。現在は商業施設の音響プロデュースやサウンド・インスタレーションなどの現代美術に携わり、音の領域を拡張する活動をしているといいます。
2017年にカールスルーエ(ドイツ)のZKMにある立体音響施設で制作や研究に取り組んだのをきっかけに、翌年、日本で立体音響施設「コニカミノルタプラネタリウム天空」をプロデュース。2021年2月27日から札幌芸術の森美術館で開催中の「札幌美術展 アフターダーク」にもサウンド・インスタレーションを出展しています。
Beátaさんはスロバキア出身、コシツェ在住のメディアアーティスト。場所の特性を活かしたインスタレーションや、リアルタイムのオーディオビジュアル・パフォーマンスに力を入れています。また、“Nano vjs”の共同設立者として、世界中のコンテンポラリー・ダンサーやパフォーマーとコラボレーションし、実験的なライブパフォーマンスを制作しています。
−作品に込めたメッセージは?
大黒さん:「追憶の道」はコロナ禍での世界の状況を記憶として留め、どう振り返るかというのがコンセプト。
Beátaさん:初めに考えたのは、この先どんなことを考えていけばいいかということ。また、人のつながりは、移動の可否や距離に大きく影響されるということも考えました。
そこで、自然の中長い距離を歩いて移動することと、デジタルテクノロジーを繋げてはと考えました。この追憶の道は世界に繋がっていて、ひとり孤独でいたり、繋がりが絶たれていたとしても「この作品のこの部分は一緒にいられる」というものを、コシツェと札幌の間で表現しました。
−大黒さんはどういった思いで作品に音をつけましたか?
大黒さん:GPSデータの動きに合わせて、フィールドレコーディングの音も動かしています。仮想空間の中でも、人々が実際に動いた時のように音が動くことで、実際に歩いている時と記憶が繋がっていく感じになっています。
大黒淳一・Beáta Kolbašovská 「追憶の道/Reminiscence path」
「コロナ禍での人々の経験を、オーディオビジュアルデータとして可視化することで、仮想的な距離を克服する象徴となる」という考えをもとに制作されたこの作品。作品内に登場する立体的な空間と線形は、地形図やアプリからトラッキングした、散歩やサイクリングのGPSデータから制作されています。ロックダウン中、私たちはどこに行き、どこで心を休めたのだろうか?という問いを投げかけています。
お二人のお話の後に、アーティストの交流をサポートした両市の担当者にご登壇いただきました。
Creative Industry Košice(CIKE)という、コシツェの文化創造産業の支援と振興を担うNPO法人でディレクターを務めるMichal Hladkýさんに、CIKEの活動についてお話しいただきました。
2013年に欧州文化首都にも選出されたコシツェが、ユネスコ創造都市ネットワークのさまざまな分野の中でもメディアアーツ都市に加盟しようと考えたのは、2017年に登録されるまでの10年ほどの間でデジタルテクノロジーが発展し、スロバキア最大のIT集積地になっていたからだといいます。
2016年からは、世界中の専門家やアーティストを迎え、アート、テクノロジー、そしてデジタルカルチャーについて語るフェスティバル”Art&Tech Days”を開催。クリエイティブの分野とデジタル技術の分野を組み合わせることで都市が豊かになる、ということを信じて、様々な都市・イベントとの交流企画が推し進められています。
続いて、札幌市文化部の職員として、ユネスコ創造都市ネットワーク関連事業に携わっている大原菜摘さんから、札幌市の文化施策について紹介がありました。
札幌市は2006年に創造都市さっぽろを宣言し、2011年に札幌駅前通地下歩行空間が開通するなど、公共空間を活用しながら文化芸術活動を推進する施策を打ち出し、2013年にユネスコ創造都市ネットワークに加盟しました。
3年に1度開催される札幌国際芸術祭(SIAF)や、毎年活動しているSIAFラボ、クリエイティブコンベンションNoMapsなどの事例をご紹介いただきました。
また、2018年に開館した札幌文化芸術交流センター SCARTSで行われている特徴的な取り組みとして、++A&T―SCARTS ART&TECHNOLOGY Project―(プラプラット)を紹介。主に高校生向けのワークショップで、アートやテクノロジーに関わるテーマを定め、アーティストや研究者と10代の若者が協働する場を設けています。
後半はクロストーク。コシツェと札幌のメディアアーツに関わる方々として、Ivana Rusnákováさん(CIKEプロジェクトマネージャー)、さのかずやさん(NoMaps実行委員、株式会社トーチ代表)のお二人も参加しました。
−“City to City 2020”プログラムはコロナ禍の中で実施され、これまでの共同制作のプロセスとは違ったと思うが、制作意義の変化は?
大黒さん:これまで色々な国で制作してきたが、新しい制作方法を見出さないといけないと思いました。人と人とのつながりを大切にして、仕事する人とは必ず会うと決めていましたが、会うことができなくなった。意義の部分は変わらなかったが、オンラインのみでの制作方法を考えることは今後必要になると思います。
Beátaさん:私の作品はオーディエンスが必要不可欠で、ほとんどがサイト・スペシフィックなので場所が重要な要素になってくる。全てがオンラインで開催される今、City to City 2020はとても重要なプログラムでした。今は無人の劇場で次の作品のリハーサルをして、オーディエンスが戻ってくる日を待っています。
アーティストのお二人とも、プロセスは変わっても思いは変わらず、試行錯誤しながら作品を作り上げたといいます。
−支援した側から見て、プロジェクト成功のために気をつけたところは?
大原さん:大黒さんもBeátaさんもプロフェッショナルで、あまりこちらは介入せずとも進みました。今後の支援としては、国際的な共同制作の経験が少ない方にもより参加しやすいような踏み台を作ることができればと思っています。
Ivanaさん:札幌とコシツェの間で8時間ある時差は心配でしたが、お二人ともうまくこなしていました。コシツェではCity to City 2021に向けたワーキンググループにも参加していて、今後の都市間交流にも期待しています。
さのさん:コシツェは札幌よりも小さい街だが、様々な取組を実施していてすごいと思います。CIKEは札幌よりR&D(リサーチ&ディベロップメント)の事業に多く取り組んでいるようなので、札幌でも取り入れられる部分が期待できるし、交流によってお互い刺激になればとても良いと思います。
Michalさん:札幌とコシツェ、お互いの活動は別々だが補完的なので、お互いの良さを生かしていくことができるでしょう。両方ともフェスティバルとアートレジデンシーがあるので交流しやすいでしょうし、大学など教育のレベルでも交流できると思います。できれば近いうちに、顔を合わせて交流したいですね。
各都市で企画・実施されてきた文化施策から、コロナ禍での作品制作プログラム“City to City 2020”までを振り返りました。
困難な状況においても、これまで築いてきた都市間・アーティスト間のつながりを生かし作品制作に取り組んだ”City to City 2020”。この取り組みを通じて、アーティストの側も新たな制作スタイルに挑戦し、アーティストを支援する側も含めて大きな転換点となったのではないでしょうか。
札幌とコシツェの都市レベルでの交流も、今後さらなる発展が期待できそうです。
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