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聴覚障がいのある方に向けて、動画の音声を文字で掲載しております。
さっぽろ市民の熱中症対策セミナー1、気候の変化と熱中症について学びましょう。
すずりん:うー、暑いよ。まだ朝なのに28℃もある。
小森さん:すずりん大丈夫?
すずりん:あ、小森さん。札幌って寒冷地だよね。こんなに暑かったかな?
小森さん:温暖化の影響で札幌も年々暑くなっているの。
すずりん:そうなんだ。
小森さん:この暑さの影響で熱中症にかかる方も増えてきているのよ。
すずりん:ええ、それは大変。
小森さん:正しい熱中症の知識と対策を知れば大丈夫。最初に気候の変化と熱中症の関係について一緒に勉強しましょう。
すずりん:はい小森さん、よろしくお願いします。
こちらは気象庁のデータですが、国内の年平均気温は年々上昇しており、特に1990年代以降を上回る年が頻出しています。日本の年均気温は長期的には100年あたり1.3℃の割合で上昇しています。
こちらは2100年の予想最高気温をまとめた未来の天気予報になります。現在比較的過ごしやすい札幌においても75年後には最高気温が41度になる予想となっています。
2024年は、熱中症により9万7578人が救急搬送されました。これは調査を開始した2008年以降で最も多い搬送人員となりました。
こちらのグラフは、熱中症による緊急搬送状況を週別に見たものです。非常に厳しい暑さが長期間にわって続き、6月及び7月が過去2番目、9月が過去最多の搬送人員となりました。例年のポイントとして梅雨明けなど急に暑くなり、体が暑さに慣れていない時に多く発生します。暑さを体に慣らすことを暑熱順化と言いますが、早い時期に、まず1週間程度は短時間の軽めの運動から始めて、継続的な運動で暑さに強い体を作っていくと良いでしょう。
こちらは熱中症で亡くなった方を年齢別に見たものです。特徴が3つあります。1つ目が運動時に起こっている10代。2つ目が労働時に多く起こっている30代から60代。3つ目が日常生活で多く起こっている高齢者の方です。
熱中症、言葉はよく耳にしますが、どのような状態のことなのか改めて考えてみましょう。熱中症とは高温・高湿の環境で起こる暑熱障害の総称で、熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病の4つに分類されます。熱失神はめまいやふらつきなど熱中症の初期症状です。熱けいれんは足、腕、腹部の筋肉に痛みをともなったけいれんが起こります。これは水分補給として水や薄めたスポーツ飲料を飲むことによって引き起こされます。熱疲労は全身のけん怠感やめまい、吐き気などの症状が見られます。大量に汗をかき、水分の補給が追いつかないと体が脱水状態になり、これらの症状が起こります。夏場に起こる頭痛は熱疲労の可能性があります。そして特に重症である熱射病があります。熱射病は、体温が40℃以上になり、脳機能に異常をきたし体温調節がきかない状態です。意識障害がみられ、応答が鈍く、言動がおかしいといった状態から進行するとこん睡状態にもなります。高体温が持続すると脳だけでなく、肝臓、腎臓、肺、心臓などの多臓器不全を併発し、死亡率が高くなるため熱射病が疑われる場合には一刻をあらそって体を冷却しなければなりません。めまいやふらつきなど熱中症の初期症状に気付いたらすぐ休み、すばやい処置を行う必要があります。もともと体調が悪いために頭痛やけん怠感を感じている方は、熱中症になっていても気付かないこともありますので、まずは自分の体とよく相談し、無理をしないことが大切です。
それでは熱中症はどのようにして起こるのでしょうか。暑いときや、体を動かして体温があがると、体温を調節する働きが稼動しはじめます。体をめぐる血液の量が増え、それにともない皮膚を循環する血液量も増えます。そうすると体の中の熱を皮膚から外気に多量に放散できるようになります。また、汗をかくことで熱を放出し、体温の上昇を抑えます。しかし、ますます気温が上がり、湿度が高くなると、体が暑さに対応しきれなくなります。すると、体内の水分や塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れ、体に熱がたまり、体温の上昇が抑えきれなくなります。こうなると、めまいや足のけいれんなど、熱中症の症状が見られるようになってきます。
熱中症を引き起こす条件には、環境、体の状態、行動という要因が大きく関係しています。環境要因としては、気温や湿度が高いというほかに、風通しが悪い、日差しやふく射熱を受ける、室内の温度、梅雨空けなどの急な暑さがあります。また、体に関する点では、年齢、持病や服用中の薬、栄養状態、下痢や二日酔いなどの体調が関わってきます。そのような環境や体の状態の上に、大量の発汗を伴う激しい運動や慣れない運動、建設現場など野外での長時間作業、水分が補給にくい状況や場所など、様々な条件が重なることで熱中症の発生リスクが高くなります。熱中症はさまざまな条件が複合して起こります。個人の体力、性格にも影響を受けますので、個人の特性を日頃から理解して体調を管理することが大切です。
日本の夏のように高温多湿で蒸し暑い状態では、気温だけでは暑さは評価できません。湿度や気流、太陽光の照り返しやふく射熱も関係します。そこで、気温と湿度、ふく射熱に関係する値を組み合わせて計算したものがWBGT。高温環境の指標として労働や運動時の熱中症の予防措置に用いられており、現在はWBGTを簡便に測定できる指標計があります。
WBGTは暑さ寒さに関係する気温、湿度、ふく射熱、気流の4要素を取り入れた指標で、WBGT28℃以上は厳重警戒となります。31℃以上は原則運動中止。運動の強度、ユニフォームなどの違いによって危険度は変わります。「札幌市 熱中症」で検索すると、札幌市公式HPの熱中症の注意喚起等に関するページが出てきます。熱中症警戒アラートや暑さ指数のメール配信サービスの情報も掲載されていますので、宜しければご参考にしてください。
小森さん:どうだった?すずりん。
すずりん:気温が高くなっていることも熱中症の仕組みもよくわかりました。
小森さん:では簡単なクイズをしましょう。
すずりん:よーし、頑張るぞ。
小森さん:熱中症の重症度が最も高い状態はどれでしょう?
すずりん:うーん。どれも心配な症状だね。重症度で考えると3番かな。
小森さん:正解は3の熱射病です。
すずりん:やったー。
小森さん:熱中症とは高温・高湿の環境で起こる暑熱障害の総称で熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病の4つに分類されます。特に重症なのは熱射病で体温が40℃以上になり、脳機能に異常をきたし、体温調節が効かない状態です。意識障害が見られ、応答が鈍く、言動がおかしいといった状態から進行するとこん睡状態にもなるため注意しましょう。
小森さん:次の動画では水分補給の大切さについて勉強しましょう。
すずりん:はーい、では皆さん次の動画でまたお会いしましょう。
さっぽろ市民の熱中症対策セミナー2、水分補給の大切さについて学びましょう。
すずりん:ごくごくごく。はあ。冷え冷えの麦茶おいしーい。
小森さん:ちゃんと水分補給していて偉いね。すずりん。ところで毎日どのくらい水分を補給しているのかな?
すずりん:のどが渇いた時だから。えっとどのくらいかな?
小森さん:この動画では水分補給の大切さや1日に摂取する量について勉強しましょう。
すずりん:はい、よろしくお願いします。
私たちの体にとって大事な水分は1日にどのくらい体から失われていると思いますか?みなさんは普通に生活をしていても、尿や皮膚からの水分の蒸発および呼吸によって、1日に約2.5リットルもの水分を身体から失っています。これに対して、飲み物や食べ物から入る水の量も、1日あたり約2.5リットルに調節され、体液はいつもバランスが保たれている状態にあります。ただし、食物から得られる水分量は、基本的に3食しっかり栄養バランスの整った食事をとった場合なので、朝食を欠食したりしている場合はもっと少なくなってしまいます。なお、ここでの排せつ量には、汗は含まれていません。運動量や環境温によっては、汗によって失う量がさらに増加するため、発汗後はすみやかに失った量の水分を補給して、体内の水分バランスを取ることが重要です。
これは、実際に日常生活の様々な場面で、どの程度の水分を損失しているかをまとめたものです。電車やバスで通勤するときには、340g程度、水分を失っていました。また、寝ている間にも、500g程度の水分を失っていました。入浴では、41℃のお湯に15分入り、その後30分休憩した場合には、約800gの水分を失います。運動時では、ウォーキング程度の運動では300g程度、ちょっときついエアロビクス運動で400g近く水分を失っていました。さらに、アメフトや剣道といった防具をつける激しい運動では、2~3kgもの水分を失うことが報告されています。このように、日常生活においては尿や不感蒸せつ、また汗として多くの水分を失う可能性があることがわかると思います。
人の体から水分が失われると、どんなことが起こるのでしょうか?ここでは、体の水分の減少量と主な脱水症状についてご紹介します。体内の水分が2%失われるとのどの渇きを感じ、運動能力が低下しはじめます。3%失われると、強いのどの渇き、食欲不振などの症状がおこり、4~5%になると、疲労感や頭痛、めまいなどの脱水症状があらわれます。そして、10%以上になると、死にいたることもあります。人間にとって水分の摂取は、欠かすことができないとても大切なものです。このような症状が出る前から、こまめに水分補給をすることが大切です。
人の体は、たくさんの水分を含んでいて、成人男性で体重の約60%、新生児で約80%が「体液」とよばれる水分でできています。飲料水などでとった水分は、腸から吸収され、血液などの「体液」になって全身をたえず循環しています。体液の大きな働きとして、3点あります。1つ目は、酸素や栄養分を細胞に届け、老廃物を尿として排せつする『運搬』としての働き。2つ目は、病原体や異物を排除しようと反応したり、新陳代謝がスムーズに行われるように『体の中を一定に保つ』働き。3つ目は、体温が上がったときには、皮膚への血液の循環を増やし、汗を出して体温を一定に保つ『体温調節』としての働き。体液はこのような働きによって、ヒトの体の中を循環し生命を維持するのに役立っているのです。
水分は腸から吸収して、血管の中に入ってはじめて、本当の意味で体に吸収されたと言えます。汗をかいたら体から失われた水分とナトリウムなどの塩分を補給し、すみやかに身体をうるおす飲料がおすすめです。公益財団法人日本スポーツ協会では、100mLあたり0.1~0.2gの塩分と、適度な糖分を含んだものが水分補給には効果的だとしています。市販の飲料を購入する場合は、成分表示を確認して食塩相当量をチェックしてみましょう。イオン飲料など体液に近いイオンバランスの飲料を飲むことで、効率的に水分を補給することができます。
汗にはナトリウムが含まれており、この濃度は体液の2分の1から3分の程度です。このため大量に汗をかくと、体液から水やナトリウムが同時に失われますが、体液のナトリウム濃度は上昇します。ナトリウム濃度の上昇は口渇感を引き起こし、飲水行動が起こります。この際、水だけを飲むと、失った体液量の回復以前にナトリウム濃度が薄まってしまい、水を飲む気持ちがなくなってしまいます。これが自発的脱水と呼ばれるものです。体液量が回復しない、脱水したままの状態では、熱を運び出す血液そのものが減少してしまうことになり、効率よく熱を体外へ逃せなくなることから、体温が上昇して熱中症などの原因になったりします。水分補給時には、体液のバランスを意識して水分とイオンをきちんと補給しましょう。
こちらは『体の中の水分吸収のメカニズム』を示しております。補給した水分はどのようにカラダに入っていくのかをみていきましょう。口から入れた水分は、胃を通過し、腸管、主に十二指腸、小腸から吸収され、最終的に血液に入り、全身に運ばれます。口から入れた水分はこうした過程を経て血液を介し、初めて体のすみずみまで運ばれます。つまり、『水分補給のポイント』は摂った水分がいかに早く腸から吸収されて血液に入るかです。
より早く水分を補給できるためには、糖質と塩分を含むイオン飲料が効果的であることもわかっています。糖を含んだイオン飲料が推奨される理由としては、糖を含んだ水分は腸管内での吸収スピードを促進し、保水率も高くなることが挙げられます。主要な糖であるブドウ糖は、腸管内でナトリウムが同時にあると速やかに吸収されます。そしてそれらに引っ張られて水分も吸収されるというのが、このメカニズムです。糖質は悪者とされがちですが、腸管での水分吸収が促進されるためには必要です。
この図は、飲料摂取前を基準とした血しょう量の変化を比較した結果です。血しょう量変化率は、飲料摂取開始45分後にはいずれの飲料においても約3~7%の回復が見られ、イオン飲料Aは、75~135分後において約10%回復しました。飲料Bは、45~105分後において飲料Aと同レベルでしたが、135、165分後で飲料Aに比べて3%有意に低く推移しました。飲料Cは、75~135分後において飲料Aに比べて有意に低く、特に75分後には飲料Bと比べても有意に低い値でした。このことから、脱水後の血しょう量の回復、維持には飲料中の糖質量が影響することが明らかになりました。この結果から、脱水からの回復のための糖電解質飲料に含まれる糖質は、血しょう量の回復をこう進するという仮説が正しいことが証明されたことと、脱水時の適切な水分補給における糖の重要性が明らかになり、イオン飲料に含まれている糖質は、効果的な体水分回復に貢献していることが示されました。
こちらは、イオン飲料と水でどれだけ体内に水分をキープできるかを比較した試験の結果です。健康な成人男性12名に水とイオン飲料を摂取してもらい、2時間安静に座った後、飲んだ量のうちどのくらいの量が身体に残っているのかを検討しました。その結果は、イオン飲料約57%、水で約38%で、水を飲んだときよりも、イオン飲料を飲んだときの方が、水分が長く体にキープされることがわかっています。
適切な水分補給についてまとめます。水分補給の目的は、汗によって失った体の水分を回復・維持し、体温の上昇を抑制することです。そのための効果的な水分補給として、糖と、ナトリウムなどの電解質を適度に含んだ飲料を摂取することがポイントです。
最後にご自身で簡易的に脱水状態がチェックできる方法をご紹介します。1つ目は指の爪でのチェックです。爪でのチェックは、爪を白くなるまで押してからはなし、爪の色の変化を観察しましょう。色が元に戻るまでの時間が2秒以上かかる場合は、脱水状態が疑われます。爪を心臓を同じ高さにして行いましょう。2つ目は皮膚でのチェックです。皮膚でのチェックでは、手の甲の皮膚をつまんで離した時に、もとに戻るまでに1秒以上かかる場合は脱水状態が疑われます。3つ目は尿の色でのチェックです。尿の色の濃さによって脱水状態を簡易的に評価することができます。尿の色が、カラーチャートの4以上の濃さの場合には、脱水状態であると予測されるため、ただちに適切な水分補給が必要となります。自分が脱水状態かどうか自覚することはむずかしく、気が付かないうちに脱水状態になっているかもしれません。これらで日常的にチェックしてみてください。
小森さん:どうだった?すずりん。
すずりん:暑い時期は水分補給がとても大事だってことが分かりました。
小森さん:それでは復習として簡単なクイズをしましょう。
すずりん:小森さんよろしくお願いします。
小森さん:体内の水分が2%の脱水した時に起こる症状はどれでしょう?
すずりん:えっと、2%だから割と早めに出てくる症状だね。1番じゃないかな。
小森さん:正解は1の、のどが渇くです。
すずりん:わーい。当たった。
小森さん:体の水分の減少量と主な脱水症状について見てみると体内の水分が2%失われると、のどの渇きを感じ運動能力が低下し始めます。人間にとって水分の摂取は欠かすことができないとても大切なものです。このような症状が出る前からこまめに水分補給をしましょう。次の動画では暑熱順化・身体冷却の重要性、熱中症の応急処置について説明します。
すずりん:はい、よろしくお願いします。皆さん、また次の動画でお会いしましょう。
さっぽろ市民の熱中症対策セミナー3、暑熱順化、身体冷却の重要性、熱中症の応急処置について学びましょう。
すずりん:水分補給の他に、どんなことをすると熱中症にならないのかな。
小森さん:体を暑さに慣らしたり、体を冷やすことで防ぐことができるんだよ。
すずりん:体を暑さに慣らしたり?体を冷やしたり?小森さん、詳しく知りたいです。
小森さん:ではこの動画では日常生活の中でできる対策の仕方や、熱中症になってしまった時の応急処置について一緒に勉強しましょう。
すずりん:はい、よろしくお願いします。
47都道府県別に熱中症搬送者とWBGTを比較した調査では、涼しい地域の方が、暑い地域よりも低いWBGTで、熱中症の搬送者が増加しています。特に、7歳から17歳と、65歳以上は、18歳から64歳よりも低いWBGTで増加しています。北海道のような涼しい地域こそ、熱中症に対する準備をしっかりと意識することが大切です。
涼しい地域の皆様には特に、熱中症対策として暑熱順化がおすすめです。暑熱順化とは身体が暑さになれた状態のことを言います。暑熱順化のためには、本格的に暑くなる前に、やや暑い環境で、ややきついと感じる運動を、1日30分間、1週間以上行いましょう。高齢者の方の場合は、高強度の運動ができないため、暑熱順化に4週間くらいかかるといわれています。すこし早めにトレーニングを開始するようにしましょう。そうすると、汗をかける能力が向上して、暑さに強い体づくりにつながります。運動強度の目安として、体力に自信がある方は、屋外でのジョギング、スポーツジムでのランニングマシーンなど、高強度の運動ができる方は1週間。高強度の運動が少しきつい場合は、運動強度を落として期間を延ばすようにしましょう。中高年や体力に自信のない方の運動でおすすめなのが、インターバル速歩です。3分間速歩をして、次の3分間はゆっくりと歩いてください。これを1日5回、週4回以上、4週間行うと、高齢者でも暑熱順化ができるという研究結果があります。また、お風呂はシャワーのみで済ませず、湯舟につかり汗をかき、発汗作用を高めることで暑熱順化につながります。
暑さに体を慣らすことは、暑さが本格的に始まる前からの「事前」にできる対策です。ここからは、実際の暑熱環境においての、熱中症の実践的な対策や緊急時の処置などについても見ていこうと思います。熱中症の発生には、体温上昇が深くかかわっており、体温を調節することが熱中症対策につながります。熱中症対策には、水分と電解質の補給が重要ということは広く知られています。しかし、それだけでは熱中症のリスクを減らせないことがわかってきました。それは、体の奥から冷やすこと。専門的に言えば、体の内部の温度、いわゆる「深部体温」をコントロールすることが熱中症予防につながります。
普段皆さんが計っている体温は皮膚の温度であり、体の表面の温度です。一方、直腸や鼓膜の温度などで測定される体の内部の温度を深部体温といいます。この深部体温は37℃から37.5℃あたりで維持されています。
深部体温が上がると、どのような影響があるのでしょうか。これは、異なる環境温で自転車運動を行った際の、深部体温の上昇と、運動継続時間を比較したものです。40℃の環境においては、20℃や3℃の時と比べて深部体温がすぐに上昇し、運動を継続できなくなったことが分かります。運動を継続できなくなった時の深部体温は40℃近くに達しており、熱中症のリスクも高くなっていることが分かります。
熱中症対策には、水分補給と深部体温を低下させるための身体冷却が重要です。深部体温の冷却には、「アイススラリー」が有効です。アイススラリーとは、細かい氷の粒子が液体に分散した状態の飲料で、流動性が高いことから、通常の氷よりも体の内部を効率よく冷やすと言われています。糖と電解質を含む飲料でアイススラリーを作ると、身体冷却に加えて水分、電解質、糖質も同時に補給できるので効果的な方法と言えます。厳しい暑さが避けられない場合や、激しい運動を行う場合には、飲料による水分と電解質の補給に加え、アイススラリーによる体の内部冷却を行うことが有用です。
日本スポーツ協会の「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」には実践的な暑さ対策として身体冷却の情報が記載されています。身体冷却には、外部もしくは内部から冷却する2つの方法があります。冷却方法、冷却するタイミング、冷却する時間などの組み合わせで効果が変わりますので、日ごろからどのような方法が効率的なのかを把握しておくことも熱中症対策において大切です。
こちらは身体冷却方法を、外部冷却と内部冷却に分けて示しています。冷却効率や実用性から、活動時に取り組める方法を把握しておきましょう。内部冷却の方法として、水分補給に加えてアイススラリーを活用する方法が示されています。
暑熱環境やスポーツ活動による熱産生で、体温が上昇し脱水が起こると、体水分のバランスが乱れたり、体温調節機能が低下します。熱中症発生リスクを軽減するためには、体の水分バランスを適切に保ち、体温調節機能を維持することが重要です。また激しい暑さが避けられない場合には、体の内部冷却と水分電解質補給をセットで実践することが効果的な対策であることを覚えておきましょう。
では熱中症を疑う症状がみられる場合はどうすればよいか。熱中症対応フローについて、見ていきましょう。熱中症を疑う症状があれば、まず意識障害の有無を確認しましょう。意識障害があれば119番、救急車を要請し、同時に応急手当を行います。涼しい場所への避難、涼しい場所に運び、衣服をゆるめて寝かせます。意識がある場合も同様に涼しい場所へ避難します。ポイントは意識障害があるか、ないかで、対応がかわってきます。
涼しい場所へ避難したら意識がない場合は、救急車到着まで、積極的に体を冷やします。氷やアイスパックがあれば、けい部、脇の下、足の付け根などの大きい血管を冷やすとよいでしょう。その後、病院へ搬送となります。意識があり、水分摂取ができる場合は、水分・塩分の補給をしましょう。0.1~0.2%の食塩水あるいはスポーツドリンク、熱けいれんの場合は生理食塩水など濃いめの食塩水を補給、経過観察を行い、症状が改善しない場合には病院へ搬送しましょう。
それでは、最後に熱中症対策について、ポイントを確認しましょう。熱中症になるしくみや症状を正しく知っておきましょう。熱中症になった人へは、すばやく的確に対処しましょう。熱中症になりやすい人は注意が必要です。年齢や環境に応じた熱中症対策を意識しましょう。日常から体調管理を心がけましょう。春ごろから体を暑さに慣れさせる暑熱順化を実践しましょう。水分・塩分などの電解質をこまめに補給しましょう。そして、暑さを避けられない時は、活動前に深部体温を下げる方法もあります。これらの対策を行うことで、熱中症ゼロを目指しましょう。
小森さん:どうだった、すずりん。
すずりん:はい、早速、暑熱順化でウォーキングを始めようと思います。
小森さん:それでは復習として簡単なクイズをしましょう。
すずりん:小森さんよろしくお願いします。
小森さん:問題です。暑熱順化とは〇〇に体を慣らしていくことを言います。〇〇に入るのは?
すずりん:これは簡単ですね。1番です。
小森さん:正解は1の暑さです。
すずりん:わーい、やった。
小森さん:涼しい地域の皆様には特に熱中症対策として暑熱順化がおすすめです。暑熱順化とは体が暑さに慣れた状態のことを言います。暑熱順化のためには本格的に暑くなる前に、やや暑い環境で、ややきついと感じる運動を1日30分間、1週間以上行いましょう。またお風呂はシャワーのみで済ませず湯舟に浸かり、汗をかき発汗作用を高めることで暑熱順化につながります。この3本の動画で学んだことで暑い夏をしっかり乗り切ろうね。すずりん。
すずりん:はーい。皆さんも熱中症を予防して元気にお過ごしくださいね。お疲れ様でした。
※これらのセミナー動画は、(独)環境再生保全機構の「令和7年度地方公共団体における効果的な熱中症対策の推進に係るモデル事業」の一環として作成しました。