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更新日:2021年6月7日

開催レポート:オンラインセミナー「ひとをつなぎ、巻き込む活動の種」

開催概要

  • 日時:2020年12月22日18時30分~20時15分
  • 場所:オンライン(収録:札幌市図書・情報館1階サロン)
  • 登壇者:
    永田宏和 デザイン・クリエイティブセンター神戸 副センター長
    岩田拓朗 札幌文化芸術交流センター SCARTS テクニカルディレクター
    淺野隆夫 札幌市教育委員会中央図書館 利用サービス課長(前札幌市図書・情報館長)
  • 司会:カジタシノブ 札幌市インタークロス・クリエイティブ・センター ディレクター

2020年12月22日、ユネスコ創造都市ネットワークでつながるデザイン都市・神戸とメディアアーツ都市・札幌の事例を交換するオンラインセミナーを開催しました。ゲストは、デザイン・クリエイティブセンター神戸(愛称:KIITO/キイト)から副センター長の永田宏和さん、そして札幌市民交流プラザ内の2施設、札幌文化芸術交流センター SCARTS(スカーツ)テクニカルディレクターの岩田拓朗さん、札幌市図書・情報館の初代館長淺野隆夫さんの3人。「ひとをつなぎ、巻き込む活動の種」をテーマに事例提供とディスカッションを行いました。

神戸市民全員がクリエイティブになるためのセンターを目指すKIITO

まずは、2012年に開館したKIITOの事例を永田さんからご紹介いただきました。

永田KIITOは神戸三宮駅からフラワーロードというメインストリートを海側に下って、20分ほど歩いた先にある、重厚な外観の歴史的建造物に作られました。元々生糸検査所だった建物で、全国で生産された絹糸がここに集められ、品質検査を経て世界に輸出されていました。生糸を紡ぐイメージを継承し、人と人を紡いで場やプロジェクトをつくりたい、という想いを込めて愛称をKIITO(キイト)と名付けました。

KIITOの外観・内観

現在、KIITOでは自主企画のほか、施設内にあるホールや会議室を貸し出すレンタルスペース運営事業、そして、現在35社程度が入居するクリエイティブスタジオ運営を事業の柱としています。
神戸市民全員がクリエイティブになるためのセンター(中心)になろう、あらゆる世代を対象とした創造教育の拠点を目指そう、ということで「+クリエイティブ(プラスクリエイティブ)」とスローガンを掲げ、実践の場をつくる、担い手をつくる、プロジェクトを通して担い手を育成する、交流の場をつくりながら活動を発信する、この4つを方針に据えた活動に取り組んでいます。

KIITOがつくった種(プロジェクト)をまちのみんなが育てる

KIITOの事業活動理念を永田さんは「風・水・土・種」に例えて説明します。

KIITOの事業活動理念図

永田KIITOは風のポジションにいます。土のポジションであるそこに居続ける神戸市民のために、活動やプログラムの種を風に乗せて運んでいく。昔は地域コミュニティ(土)が豊かだったので、お祭りをしたり餅つきをしたり自分たちだけで成立していました。しかし、今は同じ種を植えてもなかなか芽が出ません。そういう地域の課題を見据えてKIITOはその種を品種改良して、乾き切ったコミュニティに強い種を運んでいこうと、ひたすら種づくりを頑張っています。私たちがつくった種に、市役所や区役所、社会福祉協議会、企業、団体、大学、さまざまな人がまちの応援団となって水をやってくださる。そういう構造・役割分担です。

さらに、永田さんは今までのKIITOでの経験から魅力的な種づくりのポイントについても語られました。

永田つくってきた種が最終的にコミュニティに馴染んで自走していかなくてはなりません。種は必ずみんなが関われるような作りになっています。関わっていくうちにカスタマイズできたりローカライズできたりしてきてだんだんと自分たちのものになっていきます。そういうことができるよう関わりしろ、余地をしっかり残した種を作っていくことが大事です。
ただ、余地を残しても魅力がなければそもそも興味を持ってもらえません。クリエイティブな発想で種を魅力的にする。楽しい、美しい、夢のよう、そんな修飾語で形容される魅力化ができれば、みんなが興味関心を持って近づいてきてくれて、手を加えてくれるようになる。誰かが作ったものを受け身でそのままやるのではなく、関わって手を加えてつくり直していく。そのプロセスが実は結構大事ということがやっていく中でわかってきました。

「+クリエイティブ」で楽しく巻き込む

まちづくり、教育、観光、防災、環境、高齢者問題など、あらゆる社会課題が「+クリエイティブ」の対象になります。

子どもの教育+クリエイティブ=ちびっこうべ

永田子どもたちが、まちのプロに学びながら、ゼロから自分たちでまちをつくる「ちびっこうべ」という事業を2012年のKIITOオープンから実施しています。神戸を中心に活動する建築家、シェフ、デザイナーを中心としたワークショップの中で、学校ではできない創造教育をしています。例えば建築家のチームはスケッチからスタートして模型を作り、最終的には実際のお店まで作ります。できたお店の運営や、それらが沢山あるまちの運営も子どもたちがします。そこに、たくさんの子どもたちが遊びに来て体験します。そこでは生き生きした子どもたちの姿をたくさん見ることができます。
また、支援してくださる大人の人とも一緒に考えつくっています。ラジオ局をつくったら、地元のラジオ局が運営をサポートしてくれるといったように、みんなのまちになっていきます。一緒の釜の飯を食ったというわけではないのですが、そこに本当の関係が生まれ、これが次につながっていきます。

ちびっこうべのワークショップの様子

男性高齢者問題+クリエイティブ=パンじぃ

永田まちづくりの観点から見ると、今、まちのプレーヤーはどんどん高齢化して担い手不足。一方、高齢の男性はリタイアすると家でテレビを見るばかりで、他に居場所がなくて困る、ということがあります。つまりリタイア直後の男性高齢者は貴重な人材なのですが、その方々が地域活動に入ってないことに気づきました。
どうやったらこういった人たちにまちのエンジンになってもらえるのだろう、昔の仕事の自慢話をするよりも例えば「俺はおいしいパンが焼ける」というのは良いのではないかと考えました。そこで先ほどの「ちびっこうべ」で一緒に活動しているパン屋さんやシェフたちにお願いしたところ、皆さんが快く協力してくださり料理教室やパン教室が始まりました。概ね1回3-4時間ほどの教室でおじいちゃんたちが本当にパンを焼けるようになっていくのです。
但し、その後が大事で「パンを焼けるようになったから、あとは頑張ってね」ではなく、地域につながなければいけない。「つなぎのデザイン」として、例えばコミュニティカフェで月1回パンを焼くというゴールを決めます。そこへ向けて練習していくのです。

パンじぃのコミュニティカフェの様子

今は5期まで回数を重ねていますが、1期生のおじいちゃんたちは、その後、年に1回の「オープンKIITO」というイベントに毎年参加し、また、子どものプログラムでは「パンじぃとパンをつくろう!」という子どもたちにパン作りを教えるイベントを開いています。定年後のセカンドライフの見つけ方というテーマで、講演やレクチャーも行うなど地域イベントに引っ張りだこです。


他にも、「シビックプライド+クリエイティブ」のスローガン「BEKOBE」、いい種を育てるリサーチ人材育成を目的に、市民や学生に「こんな課題があるけど、一緒に考えないか」と呼びかけて、最終的には事業化する「+クリエイティブゼミ」、企業や地域から依頼された駅から美術館までの道のデザインが、その後のまちの賑わいづくりにインストールされていった「美かえるカラフルプロジェクト」など、KIITOの事例をたくさん紹介していただきました。

地域や社会の課題を「+クリエイティブ」をコンセプトに、解決する種をつくり、魅力を加えて人を巻き込みながら活動をまちに根付かせてきたKIITOですが、今後は、講習やゼミを通して社会人や地域とのハブとなり、アウトリーチなどまちに向かってさらに積極的に働きかける活動も展開していくそうです。

札幌の事例から その1「ひと・もの・ことをつなぐ。創造性の光を結ぶ。」札幌文化芸術交流センター SCARTS

2018年、札幌市の中心部に開館した札幌市民交流プラザは、アートセンター、劇場、図書館からなる複合施設です。その中のアートセンターである「札幌文化芸術交流センター SCARTS」は、大小の諸室と、誰でもアクセスできるパブリックスペースを有し、「ひと・もの・ことをつなぐ。創造性の光を結ぶ。」というスローガンを掲げて、人と人をつなぐハブの役割を意識しながら、主催、貸館、連携の3事業を進めています。

SCARTSモール(屋内広場)の様子

SCARTSのテクニカルディレクター岩田さんは、テクニカルスタッフとして創作活動に関わる意義を次のように解説しました。

アートセンターにテクニカルスタッフがいる意味

岩田:SCARTSの展示空間や施設自体は、多くの美術館やアートセンターとそんなに違いはないと思います。しかし、テクニカルスタッフがアートセンターに常駐しているという例は、全国的に見てもそれほど多くありません。
テクニカルスタッフの重要な役割は「作家と共に新しくアート作品を制作しよう」というときに、率先して手を動かしモノを組み上げる、コンピューターを使用してプログラムを組むなど<技術的な観点から、作品をより良い形に向上させること>にあると考えています。そのような人材が施設の内部にいることで、作品制作に多くのトライ&エラーを取り込むことができ、クオリティやスピード感がすごく上がるのではないかと考えています。

アートとテクノロジーがまちのみんなの創造交流のハブになる

開館からまだ2年のSCARTSですが、既に「つなぐ」事例が進行中。例えば「アートコミュニケーター」は、市民の有志の方と一緒に対話型鑑賞を実践。作品の説明ではなく、見たときに自分がどう思うかを、作品を鑑賞しに来た一般の方の言葉を引き出す形で対話し、みんなが作品を見る角度を共有していく取組です。

SCARTSアートコミュニケーターの活動の様子

SCARTS ART&TECHNOLOGY Project “++A&T”(プラプラット)

そしてもう一つが、ユネスコ認定のメディアアーツ都市・札幌を背景に、「アートとテクノロジーの関わり」をテーマとして、アーティストや研究者とSCARTS、そしてワークショップの参加者が共に創造の「場」をつくっていくプロジェクトです。
なんだか難しく聞こえますが、作品をつくるときに、今やテクノロジーを使わざるを得ない状態になっている、それが作品にどう作用しているのかをみんなで一緒に考えようと思って立ち上げた、と岩田さんはその狙いを語ります。

岩田:館内には勉強場所として来ている学生がたくさんいるのですが、そんな中高生を対象としてワークショップで実際に作品をつくり、インスタレーションとして展示します。展示中にも、再度ワークショップを行って、1回目に参加してくれた中高生たちが、今度はファシリテーターとして参加する取組を行っています。関わり方が広がることで見えてくる景色が変わっていくのではないかと。
例えば、2019年には、札幌出身の映画監督をお招きして、講師兼作家として高校生たちとスマートフォンだけで撮影から編集まで行い映画をつくりました。一番身近なガジェットであるスマートフォンでも映画が撮れるということを実際に体験し、撮影した映画は館内で展覧会として公開しました。

SCARTSプラプラット「映画のワンシーンを監督してみよう!」の様子

岩田:今年2020年は、「バーチャル避難訓練」という題で実施しました。新型コロナウイルス感染症が拡大する中で着想した部分があって、実際の避難所ではなくバーチャル空間に自分のアバターをつくって、どう逃げるかを実践した催しになっています。

SCARTSプラプラット「バーチャル避難訓練」のビジュアル

ひと・もの・ことが連動し、成長していくプロジェクトが継続していくためには、新しい未来に向けてどう改善していくか探っていくことと同時に、どう「伝達」するかを考えることが大切だと岩田さんは語りました。

札幌の事例から その2 「WORK」「LIFE」「ART」の視点で「はたらくをらくにする」
札幌市図書・情報館

淺野:突然ですが、クイズです。昭和42年まである場所が札幌市の図書館でした。みなさんはそれがどこか知っていますか。

そんな問いかけから、札幌市図書・情報館の初代館長でもある淺野さんの話題提供が始まりました。

淺野:正解は札幌市時計台です。札幌市図書・情報館は時計台のすぐ隣ですので、図書館が都心回帰できたのかと思いきや、形や機能が相当変わっている、というお話をしたいと思います。
札幌市図書・情報館は「はたらくをらくにする」をコンセプトに掲げ、蔵書は「WORK」「LIFE」「ART」の三つのジャンルに絞っています。小説や絵本のコーナーはありませんし、最新の情報が常に棚にある状態をつくるため、図書の貸し出しも行っていません。

司書がテーマを考え、つくる本棚

札幌市図書・情報館内で書棚と向き合う司書の様子

淺野:ほかの図書館と違うのは、本棚の上から下まで1人の司書がつくっていること。司書にとっては花壇をつくっているようなものだと思っています。例えば、「LIFE」の「働く」というテーマ棚では、上段から順に「働き方を考える」、「働かない方法を考える」、「やりたいことをやってみる」「だましだまし働く」、そして「働きつづけること」というテーマで本を紹介しています。遊んでいるわけではなくて、本当に人の役に立つにはどうしたらいいのだろう、と考えてつくっています。
また、いろいろな人を巻き込むことにも取り組んでいて、近隣のIT企業の方と棚を一緒につくったこともあります。多様なコラボレーションが生まれるセミナーを開催したり、近隣のビジネス関係の人に来ていただいて、お金のことやビジネスプランの相談に乗れる体制をつくったり。開館年度の1年間で11件の起業があったと聞いています。

札幌市図書・情報館の書棚について、ITエンジニアと司書が相談する様子

これからの図書館はインプットからアウトプットの場所へ

開館から11か月で100万人、1日3,000人ペースの来館者を得た図書・情報館。2019年には、これからの図書館のあり方を示唆する先進的な活動を行う機関に贈られる賞「Library of the Year 2019」の大賞とオーディエンス賞をダブル受賞しました。

淺野:図書館という場所で「何をなせたのか。」ということがこれからの価値を決めていくのではないかと考えています。そういった視点で図書館の次のビジョンがあるとすると、それは「インプットからアウトプット」だと思っています。これまでは、よい本を読んでくださいとインプットする場所として機能していましたが、これからは、司書が本と人をつなげることは変わらないまま、司書の工夫が図書館に利用者を呼び寄せ、本を借りる場所からアイデアや解がどんどん飛び交う、そういったことが起こるアウトプット場所になっていけたらと思います。

神戸×札幌 人をつなぎ巻き込む活動の種を育むために(意見交換)

互いの取組を共有したところで、札幌市のクリエイティブ産業を支援する施設、インタークロス・クリエイティブセンター(ICC)のディレクターを務めるカジタシノブさんの司会で、ゲストと意見交換を行いました。

淺野:すごいと思ったのが、KIITOは仕組みをつくることをしていますね。そこから逆算している感じがします。仕組みとしてまちに溶け込ませるのだ、その汎用性のあるやり方として、パンづくりに目をつけている。先ほどのパンじぃの話、おじいさんたちはどうやって募集したのですか。

永田:担当のスタッフによると、おじいちゃん自身は腰が重いので、ご本人が直接申し込んでくることはほとんどないそうです。始めるとすこぶるノリノリになるのですけれども、そこまでは照れくさい気持ちが勝つのかもしれません。実際は家族の方に「あんた家にばかりいないで行ってきなさい」と言われて来たという方などが多いです。そのために婦人会にチラシを配ったりしていますね。

――そのワンクッションが必要なのですね。

永田:ターゲットによって、巻き込み方、くすぐり方といったものがあると学びました。そういうことはやっていくとはじめて分かるので最初はわからない状態でも「とりあえずやってみよう」と動くことが多いです。やってみたことで見える世界があるので、見えたものをどんどん反映させていく。それを実現できる理由としてはクリエイターやスタッフ、一緒にできる仲間が近くにいるところが一番のポイントだと思います。

――どんどんつないでいくということで言うと、岩田さんも、ただ鑑賞やワークショップをするだけでなく、それが次の伝え手になることがある、と言っていました。似ている部分があると思ったのですがどうでしたか。

岩田:僕が働いているのはアートセンターなので、一概には比較できないところもありますが、誰でも来られていろいろなクリエイターになれるというのは、取組の目線としてすごく面白いし、参考になると感じました。

――「デザイン」という言葉は、一般的に装飾というか、色や形の意匠として捉えられがちだと思うのですが、KIITOの場合は、食など、いろいろな要素を取り入れ、そこにデザインを足すというやり方をしていますね。

永田最初は「分かりにくい」と多方面から何度も言われました。社会課題解決型のデザインで、色や形ではなく、考え方やプロセスもデザインと考えられるし、生活デザイン、暮らしのデザインなどと言うでしょう?と説明していました。実践の中で関わっている人が増え、形になるものが増えたことで、賛同者・理解者が徐々に増えてきていると思います。でも、いまだに分かりにくいと言われるんです。時代的には社会課題解決が一つの潮流ですけれども、デザイン・シンキングの定着まではもうちょっとかかる、まだ頑張らなくてはいけないという気がします。

――アートの部分でもデザインの部分でも、「自分には関係ない」と思ってしまう人が一定数いる。そういう人にどう仕掛けて興味を持ってもらうかはすごく重要です。それは図書館も一緒かもしれません。図書・情報館ではそのあたりをどのように取り組んでいますか。

淺野まず、公共施設は、一般にマスを相手にする感じだと思うのですが、図書・情報館は、個というか「あなたにこれを贈っているのです」というメッセージを込めて棚をつくっています。そうすると棚を見ているだけで「同じことで悩んでいる人がいたんだ」と思ってもらえるとか、「この棚はすごく自分にフィットするけれども、これは誰がつくったのだろう」と、そんな風に棚を通して利用者と司書の関係性が生まれている、そこが今までの図書館と違うのかなと思っています。

――公と公ではなく、個人と個人の単位で、本を通して共通項を生み出したりするのですね。

永田今日、図書・情報館の館中を案内していただいたのですが、棚と対話している感じでとても楽しくなったのが新鮮でした。普段、図書館にいっても自分で探している本以外を見ることはないのですが、ここでは棚が面白過ぎて、次に何と書いてあるのかと見てしまう。棚を見てるだけでくすっと笑ってしまったり。図書館にこんな可能性があるのだと、びっくりしました。

――KIITOにも今後、図書館が仮移転してくるということですが、参考になりますか。

永田図書・情報館のパンフレットに「課題解決型の図書館」と書かれていて、僕らも課題解決を目指したリサーチをKIITOでやる中で、いろいろな本を読んで学ぶので、そういう可能性も含めて妄想が広がっています。

淺野情報は活動と必ず一体でなければ活きていかないと思っています。課題解決を目指して本を読んでやる気になっても、活動できなければ意味ないですね。活動すると、もっとやりたくなって、ほかの人はどのようにやっているのだろうと知りたくなる。その循環の中に図書館はあると思います。

――岩田さんには、隣に図書館があることの利点を感じることはありますか。

岩田まず図書館を目指してお客さんがたくさん来ますよね。SCARTSで展示企画をしたときに図書館のお客さんの何パーセントかの方だけでも、見てもらえるという状態があります。これは図書館があるからこそ。美術館で入場料金を取る形態だと、同じ企画をやってもお客さんの数はもっと少なくなってしまうと思います。

淺野図書館は毎日通えるところなのです。本も入れ替わりますしね。

永田司書さんがクリエイターだと強く思いました。僕らはシェフもクリエイターだと思って取り組んできたけれど、図書館になると司書さんがクリエイターなのだと。今まで図書館に行っても棚を介して司書さんと対話できたことは一回もなくて、そう知れたことがとても面白かったです。

――オンラインで「司書に求められる力量が大きいように感じますが、開館当初どのように司書さんを集めたのですか」という質問が来ています。

淺野「本」始まりではなくて、「人」始まりというか。本の守り人ではなくて、どういう人をどういう状態にしてあげたいか、という問いにピンとくるメンバーがそろっていますね。

――SCARTSで行っている++A&Tなどは、そこで参加者が得られたものがさらに外へと伝播し広がっていくのが理想的だと思いますが、一番時間のかかる部分でもあります。今後こうなっていくとよいと考えていることはありますか。

岩田対象が中高生というのは教育普及的な観点に立つと、結構遅いくらいではあるのですが、館に勉強しにきている高校生たちが、勉強するだけでなく、ここにどう楽しく来てもらうかを考えたというのが背景にあります。そして彼らが大学生になって、札幌の大学でアートの勉強をしていれば、強い味方になってくれる可能性が高いわけです。高校2年生だと、2年後には大学生。時間もあまりかかりません。そんな彼らが++A&Tに参加することで色々なことを吸収してもらうことは、その後活躍してくれる状態になりやすいと言えると思います。

永田KIITOは高校生対象の事業はやっていないので、とても興味があるのです。映画監督さんやゲームのアバターを使うプロジェクトもご紹介いただきましたが、高校生はそういうものにどんな反応しますか。

岩田わっとはしゃぐ感じではないのですが、集中し出すと止まらないというか、楽しんでくれている実感があります。

永田高校生とそれらの掛け合わせ方にものすごく可能性があると思って見ていました。わたしたちは高校生に対する見方にレッテルを貼りがちですが、写真を見ているだけでもとても楽しそうにやっているので。

――KIITOは今後アウトリーチに取り組むとのことでしたが、既に十分外に向かっているんじゃないかと思うのですが「より外へ」というのはどういうイメージですか。

永田子どもたちへの創造教育で言えば担い手育成という意味でのアウトリーチですね。神戸のまちを元気にするにしても、KIITOが全部を受け持って回れるものではないですし、地域のことは地域の人たちがやる状態が理想だと思っています。地域の人たちが、パンじぃのように、無理するのではなく、楽しみながら地域活動に入っていく。高齢者は一つの可能性があるけれども、もっといろいろな人材が地域に埋もれているように思います。ここに来て、司書さんができることにまだまだ未知なる可能性があるとさらに思いました。そこをみんながハッピーになる感じでしていけたらいいと思います。

淺野:僕は、「普通の人」は、いないと思っています。普通に見える人でも、いいところや興味に反応してあげると、いろいろな役割を果たしてもらえる。パンじぃも、もしかすると普段は普通のおじいちゃんに見えるのかもしれないけれど、パンじぃをしてる時はすごくいい顔をしていますね。

永田:楽しそうだし、それを支援している私どものスタッフも、毎回ニコニコしながら僕のところにこんなことがあったと報告しに来るのです。そういうふうにみんなが楽しそうにしているのが、単純な話ですがめちゃくちゃいいんじゃないかと思います。

セミナー会場で議論する登壇者の様子

――KIITO、SCARTS、図書・情報館。それぞれが人とつながりながら、種植えというか、何かを考えて人の関係性をつくっていき、どんどん広がって、まちにばらまかれていく、そんな拠点になっていると今日のお話を聞いて思いました。

永田:今回は、互いの種を紹介できて、本当に来てよかったと思っています。

――それぞれが、取り組みを紹介するだけでも、うちでもやれるかもとか、逆に、そっちでそういうことをしているのなら、ちょっと来てねということができる。今後も、創造都市のネットワークを通じて、この関係性が続いていくことを願っています。それでは、本日はこれで終了したいと思います。皆さん、ありがとうございました。

以上


施設概要

主催等

  • 主催:札幌市、札幌市図書・情報館(札幌市教育委員会)
  • 共催:札幌文化芸術交流センター SCARTS(公益財団法人札幌市芸術文化財団)、デザイン・クリエイティブセンター神戸
  • 協力:神戸市
  • 助成:令和2年度文化庁 文化芸術創造拠点形成事業

このページについてのお問い合わせ

札幌市市民文化局文化部文化振興課

〒060-0001 札幌市中央区北1条西2丁目 札幌時計台ビル10階

電話番号:011-211-2261

ファクス番号:011-218-5157