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今回の「さっぽろ創造仕掛け人」は
「札幌国際短編映画祭」のプロデューサーであり、
「インタークロス・クリエイティブ・センター」の
チーフコーディネーターも務める久保俊哉さんを紹介。
さまざまな角度から札幌のクリエイティブ産業に貢献する
久保さんに「創造都市」を目指す札幌市の未来や可能性、
さらには若きクリエイターに向けてのメッセージを聞いた。
久保さんは小樽市に生まれ、幼少期を札幌で過ごした後、東京へ。中学生の時に音楽や写真に目覚めたといい、大学は日本大学芸術学部放送学科に進学する。卒業後はまったく畑違いの農業関係の会社に就職するが、その会社で札幌に転勤したのを機に「ふるさと意識に火がついた」と、30歳のときに札幌の広告代理店に転職した。その後、ゲーム会社やCGアニメーションの会社などで経験を積んだ久保さんは1998年にフリーのプロデューサーとして独立。現在は、自身が立ち上げた有限会社マーヴェリック・クリエイティブ・ワークスでメディア・プロデューサーとして活動しながら、札幌国際短編映画祭のプロデューサーや、インタークロス・クリエイティブ・センター(通称:ICC)のチーフコーディネーターなどを務め、札幌のクリエイティブ産業の発展に向けた一翼を担っている。
フリーになって最初に手がけたデジタルクリエイター発掘プロジェクト「メディア・ハンティング」のパンフレット。アートディレクターのウイルソン・タンさんと久保さんが考案したメインキャラクターの「Little Terra」は、当時のNTTドコモのCMにも使われ、いわばバーチャルキャラクターの先駆けともいえるキャラクターだ。
久保さんは自分自身のことを「好奇心旺盛であまのじゃく」と分析する。「これまでにたくさんの仕事を経験しましたが、最初に務めた農業関係の会社では社会人としての基本、広告代理店では企画書の書き方、ゲーム会社では外資系ということもあって英語や当時はまだ珍しかったインターネットやEメールと、多くのことを学び、そのすべてが今につながっています。また、常に誰もやらないことに興味があって、広告代理店では広告を売るよりもオリジナルのレコードを作ったり、ゲーム会社では魚の燻製を販促ツールに使ったり、みんなとは違うことばかりしていましたね(笑)」。そうしたいつも新しいことや人と違うことにチャレンジする姿勢は、プロデューサーとなった今も一貫して通じており、久保さん自身の大きな魅力にもなっている。
久保さんのクリエイティブの原点にある写真と音楽。「写真は究極のショートフィルム。ピンク・フロイドの『狂気』は中学生の時に聞き、生まれて初めて音を“見る”という体験をしました」。
ICCとは、映像制作やカメラマン、Webデザイナーなど、さまざまなクリエイターを支援するために札幌市経済局が2000年に創設した施設。久保さんがチーフコーディネーターとしてかかわることになったのは、「札幌市の依頼で『SAPPORO FUTURE SQUARE』というホームページの編集長を引き受けたのがきっかけ」だった。「編集長としての仕事が一段落したころ、次のミッションとしてICCを創設する話を持ちかけられたんです」。施設を見たときに「バウハウス(世界初のデザイン学校)を連想した」という久保さんは、「ここがいろいろなムーブメントが起こるきっかけの場になるにはどうしたらいいか」と企画を練っていき、その答えを「インタークロス(異種交配)」というワードに見いだした。「クロス(☓)は掛け算の記号であり、どこかパワーを感じさせるとひらめいたんですね。何より、農業や畜産などでは異種交配によって、新たな種が誕生しますが、同じようにさまざまなものを掛けあわせることで新しいものが創造されていくのではないかと思ったんです。そして、それらを統合する技術がデジタルなのではないかと仮説を立てて、インタークロス宣言を書き上げました」。
クリエイティブは、インターナショナルな共通言語。ICCでは資料や広報物をすべて英語とのバイリンガルで制作している。
久保さんは入居するクリエイターに「めげずにやり続ける精神を持ち続け、情報をオープンにすることを大事にして欲しい」と願っている。「人は一人ではたいしたことはできません。しかし、人脈はいろいろな人を紹介することで広がっていき、知識や技術は共有したり、掛け合わさっていくことでビジネスチャンスが増えていきます」。そうした久保イズムは多くの入居者に浸透し、ICCは設立から11年の間に有限会社イオシスやピコグラフ、さらには冒険家の栗城史多さんといった、さまざまなジャンルのクリエイターを多く輩出してきた。「札幌は四季の変化に富み、クリエイティブな刺激の多いまちだと思います。ICCはそうした札幌というまちで育まれたクリエイターたちに脚光を集める火付け役にもなることができたのではないかなと思っています」。
久保さんがプロデューサーとして今、最も力を入れているという「札幌国際短編映画祭」は世界各国から集めた30分以下の短編映画を上映する国内最大規模のショートフィルムの祭典。現在の名称で札幌独自の映画祭となったのは2006年のことで、以前は2000年より開催した俳優の別所哲也さん主催の「ショートショートフィルムフェスティバル in 北海道」として親しまれていた。だが、久保さんにとっての歴史はそれよりも前、1990年まで遡る。当時、広告代理店で働いていた久保さんは先輩の勧めでフランスの短編映画を鑑賞。その面白さに魅了され、先輩と一緒に「The Festival Of Short Film & Arts」というイベントの企画書を書き上げた。「それは短編映画を核としながら、若手アーティストの発掘や国際見本市も視野に入れた、まさに現在の映画祭の原型となるものでした。ですが、ゼロから映画祭を立ち上げるには多額の予算が必要です。先輩と奔走したものの、当時は実現まで至りませんでした」。別所哲也さんが「ショートショートフィルムフェスティバル」を立ち上げるニュースを久保さんが知ったのはそれから9年後。すぐに東京に飛び、「札幌でもやりたい」と持ちかけた。
1990年に書き上げた当時の企画書。一緒に取り組んだ先輩は志し半ばでこの世を去ってしまったが、久保さんは札幌独自の映画祭が誕生した裏に「先輩の後押しがどこかであったと感じています」と偲ぶ。
「ショートショートフィルムフェスティバル in 北海道」では、初年度から北海道オリジナルのプログラムを企画。さらに海外の映画祭とも積極的に交流して独自に姉妹提携を結んでいった。そうして2006年、札幌市の全面的な支援を受けて念願とも言える札幌独自の国際映画祭が誕生した。
今年は88の国と地域から2291本の応募作品が集まり、延べ6万8000人の観客を動員する大盛況で終えた札幌国際短編映画祭。だが、3.11の東日本大震災があった今年は「開催すること自体、実行委員会でかなり議論しました」と久保さんは振り返る。財政的にも社会情勢的にも厳しい中で開催を決める後押しとなったのは、実行委員会に世界中から寄せられた多くの励ましのメッセージだった。「改めて世界とのつながりを感じ、国際映画祭として何ができるかを考えさせられた」という久保さんは、映像作家の菱川勢一さんに監督を依頼し、1本の短編映画を制作した。それが、映画祭の上映前後やホームページなどを通じ、世界に向けて公開された3分間のアニメーション。大貫妙子さん、リー・トンプソンさんがそれぞれ日本語と英語で女性詩人のtotoさんの詩を朗読する「"Thank You World" Message from Japan」には、震災に屈するのではなく、復興に向けた日本人としての強いメッセージが込められている。
開催から6年が経ち、120を超える国と地域とつながりを持つまでになった札幌国際短編映画祭は、今年から観光庁の後援がつくなど大きな成長を遂げている。久保さんも今年の映画祭が終了後、チリのサンティアゴ国際短編映画祭に国際審査員として招待された際、そのプレスリリースが外務省を通じて発信されたことに「日本を代表する国際映画祭としての地位が確立されてきたのかな」と手応えを感じている。「これからも世界の架け橋となれるよう努力していきたいですし、何より映画離れが進んでいる若い人にも興味を持ってもらえるよう、出張上映会や大学などでの講義などを積極的に続けていきたいと思っています」。
チリのサンティアゴ国際短編映画祭では、日本の短編映画産業に関するプレゼンテーションも行った久保さん。趣味の写真も「2000枚近く撮りましたね」と笑う。
「またICCに関しても、「クリエイターが育っても、ビジネスの場が札幌にはまだまだありません。映画会社やレコード会社など、メーカーを育てていくことが次の目標ですね」と語る久保さん。そうした想いは決してすぐに達成できることではなく、これまでの札幌国際映画祭、ICCが歩んできたのと同じくらいの時間を要することかもしれない。「僕は自称ファイヤーアーティストと称していて、キャンプではいつも火起こし係を任されます。限られた燃料で火を一気に燃やすと、当然ですが燃料はなくなります。産業も同じで、1度に予算をかけて何かをするのではなく、じっくりゆっくりと続けていかなくてはいけない。そうしていると誰かがさらに燃料をくべてくれるかもしれないし、チャンスは広がっていくんですよね」。常に時代の一歩先を見通しながら、一つ一つの階段を着実に登り続ける久保さん。札幌のクリエイティブ産業は、今新たなステージへと向かいつつある。
久保さんは北海道の魅力を「治安はいいし、環境も素晴らしい。食材も料理もおいしくて、海外に行く度に北海道の料理が恋しくなります。かなり誇っていいと思いますよ」と語る。
所在地 |
札幌市中央区伏見3丁目15-36 電話:011-512-3704 |
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設立 | 2002年4月 |
資本金 | 300万円 |
代表取締役 | 久保俊哉 |
従業員数 | 1名 |
事業内容 |
クリエイティブ産業の企画・プロデュース・コンサルティング、コンテンツの企画・制作 |
取材・文 : 児玉源太郎
撮影 : 山本顕史(ハレバレシャシン)
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