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更新日:2023年2月16日

中間報告、オンラインコミュニティの議論

札幌・北海道の未来の姿に多様な見解、「五輪・パラ」でも討論

2022年に市政100周年を迎えた札幌市は次の100年に向けどんなまちづくりをするべきか。そして2030冬季オリンピック・パラリンピックの招致でまちにどんな「効用」がもたらされるのか。そんなテーマを議論し、市政に生かすため、札幌市とNewsPicksは9月にオンラインコミュニティ「SAPPORO FUTURE COMMUNITY」を連携して立ち上げました。週ごとに投稿された3本の記事を題材に、コミュニティ内では参加者105人が記事へのコメントの形で意見を交わしていました。そして、10月11日にオンライン会議システムを使って直接議論し合うイベントを初開催しました。

105人参加のコミュニティ、多様な意見

SAPPORO FUTURE COMMUNITYは、札幌市のまちづくりと未来を語り合うため、札幌市とNewsPicksが9月20日に立ち上げたものです。公募に応じた札幌市民や、まちづくりの有識者、経済界のキーパーソンなど、さまざまな立場の105人が参加しています。

参加者105人の内訳
全体 公募に応募した60人、札幌市・北海道の経済界から19人、有識者26人
居住地別 札幌市内63人、北海道内6人、北海道外36人
年代別 20代6人、30代38人、40代34人、50代17人、60代以上8人、無回答2人

公募の60人のうち、論点の一つとなる札幌オリンピック・パラリンピック招致について、賛成25人、中立10人、反対25人

 

コミュニティ内では、札幌市のまちづくりに関する記事が共有され、参加者がその内容についてコメントを投稿するほか、参加者同士でもコメントを重ねることで意見を述べ合っています。

こうした議論によって、「札幌の未来像」をどう考えるか、札幌・北海道の魅力をどう高めるか、そのためには何が必要か、

といった内容について、参加者が理解を深めることを目指しています。

また、議論を通じて2030年大会の札幌への招致について考えることも意識されています。

コミュニティではこれまでに3本の記事が公開され、参加者からさまざまな意見が出されています。記事の概要とコメントは次の通りです。

札幌・北海道の持続可能な成長を目指し、次の100年を語ろう(1本目記事、9月26日公開)

【記事概要】

2022年8月に市制施行100周年を迎えた札幌市。北海道経済において第3次産業を軸とする中心都市として、50年ごとに人口が100万人単位で増えるなど大きく発展してきました。

しかし次の100年に目を向けると、全国の自治体と比べても急激な人口減少・高齢化が懸念され、さらには新型コロナウイルス感染症の拡大による人々の行動の変化やデジタル化、環境問題など、さまざまな課題が重くのしかかってきています。

札幌市は現在、今後10年のまちづくりを見据え「第2次札幌市まちづくり戦略ビジョン」の策定を進めています。これは「『ひと』『ゆき』『みどり』の織りなす輝きが、豊かな暮らしと新たな価値を創る、持続可能な世界都市・さっぽろ」を、目指すべき都市像とした基本計画です。

札幌市はさらに、そのまちづくりを加速させるためのマイルストーンとすべく、2030年冬季オリンピック・パラリンピックの招致を進めています。ただ、市民の中には招致に対する反対の声も多くあります。

オンラインコミュニティ「SAPPORO FUTURE COMMUNITY」ではこれから、札幌市や北海道においてさまざまな地域課題を解決しながら、持続的に地域を発展させていくために何が本当に必要かについて、さまざまな視点から考えていきます。

寄せられたオンラインコメント数:117(2022年10月17日現在)

【コメントの概要】

「私は旭川出身で東京に出てJターン移住で札幌に住んでいますが、その観点からすると、私のようにあまり地縁のない札幌で暮らしていく人や、U・Iターンを増やして、まちを発展させていくためには、地域に根差したコミュニティの存在が大事だと思います」(9月26日)

「とりわけ世界的に見ても特異な気象条件、立地条件にある北海道は見せ方やハード面ソフト面の整備を官民一体となり行えば世界一の観光都市を目指せるポテンシャルはあると考えています」(9月26日)

「まずは色々な方に北海道に来て頂く機会を作ること。そうすれば自ずと札幌にも足を運ぶし、新たな価値観が生まれるチャンスも増えるかなと思いました!」(9月26日)

「まちづくりのプランの10年なんて一瞬でしょう。地域経済の目先の短期的な利益のことしか考えていないような文言が語られるのはどういうことでしょうか。インフラ整備も結構ですが、市民生活のために整備するのであればオリパラを『加速させるためのマイルストーン』とする必要はありません」(9月27日)

「2030年ごろにある新幹線やオリンピックなど大きなイベントは札幌市としての注目は集まり注力すべきなのは理解できるのですが、ただそこがゴールではなく、その先にも札幌市は続いていくので、それ以降も見据えた明確な未来を見据えないと、暮らしやすい街はつくれないと思っています」(9月28日)
「ビジョンとして札幌市側が推し進めたいことと、札幌住民である私の感覚になんとなく距離感が生じているような気がしました。賛否はともかくとしてうっすら『オリパラありき』のようなビジョンであると思ってしまいました」(9月28日)

五輪・パラは札幌・北海道の未来に必要か 東京五輪事件で不信感も(2本目記事、10月3日公開)

【記事概要】

2030年の冬季オリンピック・パラリンピック大会の招致を目指している札幌市。開催されれば、50年前の1972年冬季大会とはまったく違う「効用」が得られると、市は主張しています。札幌市が考えている「効用」とは何を指すのか?そして、どうすれば「効用」が得られるのか? 改めて、1972年冬季大会でもたらされたもの(レガシー)や、サステナビリティ(持続可能性)の観点などから検証し、札幌・北海道の未来のまちづくりに「冬季オリ・パラ」の招致は本当に必要なのか、議論を深めます。

寄せられたオンラインコメント数:87(2022年10月17日現在)

【コメントの概要】

「東京五輪事件の不信感で諦めたり縮こまったりせず、ひっくり返して塗りつぶすくらい『突き抜けた正しさ』で進めて欲しいですね」(10月3日)

「東京五輪の良かった点・課題点(特に、話題となった“カネの不透明性”など)を踏まえた戦略の計画はしっかり採るとるべきかと思います」(10月3日)

「例えば、ボランティア活動にも子供から高齢者まで誰もが参加できる条件や、障がい者や認知症の人にも観戦しやすいデザインや工夫をしていただきたいと願います」(10月3日)

「あくまでオリンピック・パラリンピックはまちの未来をつくる手段。もし実施するなら、異常なほど『情報開示』を重視した大会を実施してもらいたいです」(10月4日)

「第2次札幌市まちづくり戦略ビジョンの中で札幌オリパラをどう位置付けるか。ここを明確にして、はじめて議論が深まると思います」(10月4日)

「結局オリパラは誰がやりたいんだろう?何したいんだろう?どうして2030年なんだろう?ということが見えてこないし(一部の人の利益にしかならないし)反対です」(10月4日)

「スポーツでビジネスしてるのに、現場をボランティアでほぼただ働きさせて、『一緒に感動を味わったからいいよね』みたいな気持ちを押し付けて、上の方の人たちは高給と賄賂をもらって予算を無視したお金の使い方をしてるのは、一般市民の感情としては、納得いきません」(10月4日)

「オリンピック・パラリンピックが北海道の未来に必要かと問われると必要無いと考えます。しかし、世界の未来の為に必要かと問われると必要だと考えます」(10月5日)

【五輪・パラ招致】課題どう解決?識者「変革の機会に」「透明化を」(3本目記事、10月11日公開)

【記事概要】

札幌市が招致をめざす2030年冬季オリンピック・パラリンピック大会。市民の中に反対の声も多く、慎重に議論を重ねる必要があります。東京大会でのスポンサー選定をめぐる汚職事件が明るみになったこともあり、透明性と公平性の確保への関心も高まっています。

大会招致をめぐっては、大会運営費には札幌市の負担はないものの、施設整備費に450億円の負担が必要なことや、1972年大会で使用し老朽化した施設が改修するだけで本当に使用できるのかなど、さまざまな乗り越えるべき課題があります。

札幌市は五輪招致で未来のまちづくりの目標をより早く達成する効果を期待していますが、課題をどう乗り越えればいいのでしょうか。コミュニティでの議論に参加する有識者にポイントを聞きました。

寄せられたオンラインコメント数:89(2022年10月17日現在)

【コメントの概要】

「お祭りをきっかけに世界的認知度を上げ盛り上げるまちづくり、というスタンスはいいと思います。ただお金の使い方や、誰目線、どこベースで招致しようというイベントなのか、納得できる説明がなければやっぱり反対です」(10月11日)

「東京五輪の汚職捜査が進んでいる中での招致活動には強烈な向かい風が吹いており、これを払しょくするには公金を一切投じない形での大会運営などドラスティックな形での開催を打ち出すしかないのではないか」(10月11日)

「『とにかく賛成』『何が何でも反対』ではなく、まずはその目的に最適な選択となるのか、という部分を少し冷静に見つめて頂くことが大事になろうかと存じます」(10月11日)

「ここまでいろいろな議論がありましたが、賛成の方の意見には、夢とか希望的観測しか見られないのが残念です。残り少ない議論の時間ですから、賛成派の方の一段踏み込んだご意見が聞きたいです」(10月12日)

「賛成・反対意見はとても勉強になります。一方で『費用対効果』に目が行きがちなのですが、中長期視点で一過性で終わらせないためには? という議論もしたいですね」(10月12日)

「札幌オリンピックの課題ってそもそもネガティブな思想だと思います。今回開催されれば日本で5回オリンピックが開かれる訳でこんな国はないでしょう。僕はとっても素晴らしい事だと思います」(10月13日)

イベント参加者「しびれるディスカッション」(10月11日開催オンラインイベント)

これら3本の記事の公開とコメントを受けて、10月11日に初開催されたオンラインイベント。札幌市のまちづくりやオリンピック・パラリンピックの招致などについて、参加者はそれぞれの立場から熱っぽく語り合いました。

「札幌市がめざす都市像への手段として五輪を使うのはいいのでは」

「市がアンケートで説明していることがあやしいと感じる」

「賛成の方も反対の方も、確固たる意志を持っている。しびれるディスカッションでした」

こんな率直なやり取りに加えて、「こうしたコミュニティで市民の声をまとめ上げて行政に引き込む方法を展開してほしいと思います」などと、札幌市に対するさらなる情報公開を求める声も多く聞かれました。参加者が引き続き議論を行っていくことの重要性を口々に語る中で締めくくられました。

イベントは、これまでオンラインコミュニティ向け記事へのコメントの形で議論してきた参加者が直接意見を交わす場として初めて開催し、17人が参加しました。主に11日午前に公開した、オリンピック・パラリンピックについて識者へのインタビューから読み解く記事(『【五輪・パラ招致】課題どう解決?識者「変革の機会に」「透明化を」』)についてオンライン会議システムを通じて意見を交わしました。

イベントは白熱、予定時間オーバー

10月11日夜のイベントでは参加者が自己紹介した後、3グループに分かれて意見交換をスタート。2030冬季オリンピック・パラリンピック招致などのテーマについて、参加者が賛成や反対、中立それぞれの立場から、突っ込んだやり取りを行いました。

オンライン議論会の様子

午後7時に開始したイベントは、午後8時半までの予定でしたが、議論が白熱し、20分オーバーの午後8時50分ごろに終了しました。

議論の題材となった11日午前公開の記事は、札幌市が目指すまちづくりの視点に立って、オリンピック・パラリンピックの招致の「効用」と大会開催にあたって超えなければならない壁などがテーマでした。賛成・反対それぞれの立場から識者2人の意見も盛り込まれました。

この記事について、オリンピック・パラリンピックに対して賛成・反対・中立それぞれの立場から次のような意見が出されました。

【賛成】

  • 1972年冬季五輪を機に、札幌市の都市基盤が整備された。札幌市が目指す理想の都市像があれば、手段として五輪を使うのはいいのではないか

【反対】

  • 五輪が開催されないとバリアフリーを実現できないのか。除雪など、まちづくりでいろいろとお金をかけるべきところはあるのではないか

【中立】

  • 五輪が未来のまちづくりの最適解かは、開かれた場でしっかり議論をしていく必要がある

五輪・パラ開催「判断材料が足りない」

3グループに分かれて行われた意見交換の内容は、イベントの後半で全員に概要が共有されました。

オンライン議論会の様子

【グループ1で出た意見】

  • 五輪を良い機会として、おもてなしを草の根から行い、札幌に来ていただいた方々に素晴らしい体験を作って何度でも来ていただくようにしたい
  • 大会に関する経費を減らせばいいということは一概に言えない。それに見合った投資ができているかどうかについて検証していくことが必要だ
  • 五輪招致を盛り上げると税収が見込めるようになるんだよということを札幌市が伝えていくことが必要だ

オンライン議論会の様子

【グループ2で出た意見】

  • 五輪をきっかけとしたPR効果は、経済効果以外の面で大きいのではないか。ただ、PRした先が札幌・北海道にお金を落としてくれるのか。賛成派はメディアに乗せられているということも考慮に入れたらいいのではないか
  • 五輪に関して出ている情報は限定的で、札幌市も五輪を開催したいという方向ありきとなっている
  • 税金投入などについて透明性を持たせたうえで、どういうデメリットがあるかについて話せるだけの材料を整える必要があるが、判断材料がそろっていないし、足りない

オンライン議論会の様子

【グループ3で出た意見】

  • 過去の1972年札幌大会で都市基盤がよくなったことを話す方や、五輪憲章に賛同するという方もいた。また、オリパラを通じて北海道・札幌を輝くまちにした方がいいという意見もあった
  • 老朽化したインフラの状態で五輪を開催できるのか、スポーツが育つ環境にあるのか。そもそも行政の対応が悪いのではないか

「さまざまな意見を聞く機会は学び」

イベントの最後に、参加者が気が付いたことをそれぞれ共有しました。

オンライン議論会の様子

「いつも職場の人としか顔を合わせていないので、違う年齢の方や、北海道外の方とも話せて素晴らしい機会でした」

「オリンピック・パラリンピックに賛成、反対、中立の方もいましたが、相手にわかってもらおうというよりも、相手の意見も聞いてそういう考えがあるんだなと知るだけでも前進になり、ありがたかったです」

「いろんな人の、いろんな立場が聞けて学びがありました。一つの記事を読んで一緒に議論できるのが斬新でした」

また、11日午前に公開された記事にオリンピック・パラリンピック招致に反対の立場からコメントを寄せた専修大学経済学部の小川健准教授は、イベントの最後を、次のように締めくくりました。

小川健さん(本人提供)

「五輪招致について賛成する方も、反対する方も、意見が近い方同士だからこそできる議論と、立場が違う同士だからこそぶつかって議論できることはあると感じました」