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類人猿館の庭(屋外放飼場)の改修前の熱画像
類人猿館の庭(屋外放飼場)の改修後の熱画像
最近、円山動物園の動物たちの住み処、動物舎が徐々に様変わりしていることにお気づきの方も多いのではないでしょうか。これらのデザイン面では、建物の姿・形、色などの「目に見える」美しさに配慮する必要がありますが、動物園での野生下とは異なる動物たちの暮らしを考えると、光や熱の流れ、水や空気の循環など、「目に見えない世界」をデザインすることも重要です。わたしの専門である「建築環境学」は、この「目に見えない世界」のデザインの鍵となる学問領域です。
具体例としては、円山の人気者「オランウータンの弟路郎(ていじろう 雄12歳)」のいる類人猿館の庭(屋外放飼場)における、熱環境のデザインがあげられます。彼は毎年、夏になると庭に出ますが、リニューアル以前はほとんど動かずに奥の日影で時間を過ごしていました。ボルネオで暮らす野生のオランウータンの生活環境を写真や映像で見ると、高木の樹幹下の陰になるところで手足を巧みに使って移動する姿があります。動物園にボルネオの生活環境そのものを再現することは難しいですが、それに少しでも近づけるように飼育員さんと話し合いを重ねながら、コンクリート床から土壌にし、放飼場全体にたくさんの植栽や水場(池)、遊具を設けました。その結果、あまり広い庭ではないですが、暑いところ、涼しいところ、冷たいところと、敷地の熱環境に変化が生まれました。皆さんもご存知のように、リニューアル後は庭を元気に動き回る弟路郎が見られるようになりました。そして、弟路郎の様子を度々見に行っているうちに確認できたことですが、弟路郎だけでなく観察している皆さんにとっても観覧スペースに日陰ができたことで涼しい空間が生まれ、長時間、動き回る弟路郎の姿を身近に楽しめるようになりました。
オランウータンだけではなく、円山動物園にいる動物たちの住まいには、この「目に見えない世界」をいかに上手にデザインするかが問われているように思います。特に、光や熱環境のコントロールが生死を分ける動物たち(爬虫類・両生類など)は、その重要性が限りなく大きいと言えます。限られた空間の環境を構成する光や熱のコントロールは、対象が動物であろうと私たちヒトであろうと共通して安全で安心、健康で快適に過ごすことが可能な空間を創りだすために必要不可欠なことであると考えます。
動物園プロジェクトでは、多くの異分野の専門家が協力しあうことも大切な条件で、その一部をマネジメントする機会をいただいたことは貴重な経験となっています。「大学人」であるわたしにとって、動物たちはもちろんですが、飼育員である「動物園人」の方々との出会いは、自分の専門性を地域に活かす機会となるだけでなく、命の尊さや希少種の繁殖の喜びなど、本来の生きる上での原点を改めて気づかせてくれました。わたしの今後の生き方に大きな影響を与えることと思います。
いま動物園では、ホッキョクグマの双子の赤ちゃん誕生の話題で盛り上がっています。もともと北極海などに生息しているホッキョクグマにとって、「快適に暮らせる(動物園での)人工環境とはどのようなものなのだろうか?」「繁殖が今まで以上に活発になる諸条件とはなにか?」。そんなことを考えながら、公開になる日を心待ちにしています。今後も円山動物園に住まう動物たちの住まいの環境は徐々に様変わりしていきますので、皆さんも大いに期待していただき、ぜひ動物園に足を運んでみてください。心が癒されること間違いありません。
(2009年3月26日・斉藤雅也)
札幌市立大学 デザイン学部 専任講師 斉藤雅也さん(建築環境学)
プロフィール
1999年武蔵工業大学大学院工学研究科建築学専攻 博士後期課程 満期退学
2000年博士(工学)。武蔵工業大学 客員研究員
2001年札幌市立高等専門学校 インダストリアル・デザイン学科 建築デザイン 専任講師
2003年コーネル大学人間環境学部環境デザイン分析学科 客員研究員(文部科学省・在外研究員)
2007年4月より現職
所属
札幌市立大学 デザイン学部 デザイン学科 空間デザインコース
専門分野
建築環境学、熱力学、住環境教育
研究のテーマ
動物園舎の熱環境デザイン、動物舎を活かした住環境教育(光、熱、雨水)のプログラム開発
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