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更新日:2011年2月24日

市立大学企画

 私は、円山動物園の情報化に関する研究課題を担当しています。専門は、デジタル技術や、マルチメディアといった、電子情報を扱ったデザイン分野です。これまでに、昨年の3月に開催された、「円山スネークアート展」でのインタラクティブ映像展示や、年末から年始にかけて札幌市立大学が主催した、「弟路郎ファミリー実証実験」でのライブカメラ映像配信などを担当してきました。

 研究を始めた当初は、生きている動物のリアリティーと、電子情報技術との間には大きな隔たりがあるように感じていました。生きている動物はナマで観察するのが一番ですし、現在の映像技術や情報技術は、こうした動物の生態を伝えきることはできないと考えていたからです。ところが、いくつかの実験を進めていくと、動物園での動物観察に足りないことがらや、動物の生態に親しむための手助けの必要性が感じられるようになってきました。これまでの実験は、そうしたことを技術的に解決しようとする試みであったと思っています。いくつかの事例を具体的にお話しましょう。

 円山スネークアート展では、飼育員さんのお話しを聞くことで、至近距離からの視点が必要だと感じました。何かと嫌がれるヘビも、その肌合いや模様をじっくり観察することで芸術品にも勝る美しさを感じることができます。人間は、ヘビ革を装飾に利用することがありますが、ヘビへの恐れの陰に、誰もが感じられる美しさがあることに気づいたのです。スネークアート展では、透明で平たい飼育箱を用意し、皆さんが至近距離でヘビを観察できるような生態展示スペースを設けました。それに加え、さらに近い距離からヘビの体皮を観察できるよう、小型のカメラを飼育箱の中に仕込み、拡大映像をすぐそばのモニターに映しました。優雅な動きをともないながら移り変わる模様は、現実のヘビと共に観察することで新しい観察の視点を提供したと考えています。

 「弟路郎ファミリー実証実験」では、円山スネークアート展とは全く異なる動物観察の方法を試みました。インターネットを使って遠隔地からオラウータン(弟路郎)の観察を行なう環境を用意したのです。事前調査でオラウータンに魅力を感じられている皆さんと関わり、類人猿はとても知的な動物であることに気がつきました。人間が、オラウータンと同じ「生き物」として関わろうとすることで、弟路郎の反応も大きく変わります。このことを支援するために、「弟路郎ファミリー実証実験」では、さまざまな試みを行ないました。紙面の都合で詳しくは書けませんが、全ての試みが弟路郎との直接的な交流(獣舍で行なった「ふれあいタイム」)を基盤にしています。私が担当した実験では、獣舍に来てくださった方々が感じた親しみを、自宅に帰ってからも暖められるよう、インターネットを用いた映像配信(ライブカメラ)を用意しました。
 スネークアート展のように、迫力ある映像は配信できませんでしたが、自宅にいても弟路郎と「つながっている」感覚を提供できたのではないかと思っています(私自身、いつも弟路郎が何をしているかが気になるようになり、頻繁に利用しました)。将来は、弟路郎との交流自体もインターネット越しに再現できないかと考えています。もちろん、獣舍での交流が一番なのですが、動物が好きでも頻繁に動物園に来ることのできない人や、病院に入院している患者さん、動物学者の方々など、情報技術の支援によって、よりいっそう動物が好きになるきっかけをつくることができると思います。

 札幌市円山動物園の皆さん、そして、動物園に来られる皆さん、これからもよろしくお願いいたします。

(2008年9月3日・細谷多聞)

画像:細谷多聞さん
札幌市立大学 デザイン学部 准教授 細谷多聞(ホソヤタモン)さん

プロフィール
1965年 東京生まれ
1996年 筑波大学芸術学系 助手
1997年 九州芸術工科大学 工業設計学科 助手
1998年 博士(デザイン学)筑波大学
1999年 九州芸術効果大学 工業設計学科 助教授
2001年 財団法人 国際メディア研究財団 研究員
2006年 公立大学法人 札幌市立大学 デザイン学部 准教授

所属
札幌市立大学 デザイン学部 デザイン学科 コンテンツデザインコース

専門分野
デジタルデザイン、メディアアート、インターフェースデザイン

研究のテーマ
コンテンツ制作システムのデザイン


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