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更新日:2019年12月2日

コラム:動物園水族館を法制度から考える

動物園・水族館を知らない人は、たぶんいないと思います。では、「動物園って何?」「水族館って何?」という問いに答えられる方は、いるでしょうか?
実は、動物園・水族館業界にいる我々でさえも、「動物園・水族館とは何か」「どういった要件をクリアしたら動物園・水族館なのか」ということに対する統一した答えは持っていません。それはなぜかというと、現在、少なくとも我日本国には、「動物園・水族館」の定義が存在せず、法律の規定もないからです。
一般的には、博物館法や動物の愛護及び管理に関する法律(以下「動物愛護法」)で規定されていると考えられていますが、これらの法律には、「動物園」や「水族館」という言葉は一つも書かれていません。
博物館法は、博物館の定義について第2条で『歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成を含む。以下同じ。)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業を行い、あわせてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関』と定めていることから、自然科学等に関する資料を収集し、保管、育成という面から類推解釈し、動物園・水族館は、同法の範疇であると捉えられています。
また、動物愛護法は、動物園・水族館を第一種動物取扱業者と位置付けて、登録を義務付けていますが、このカテゴリーには、ペットショップやサーカスなども入りますし、法律では、「動物の販売、保管、貸出し、訓練、展示を業として行う」ことを第一種動物取扱業としているだけで、動物園・水族館という言葉は出てきません。
では、動物園という言葉が出てくる法律が一つも無いかというと、実は、都市公園法と自然公園法に出てきます。しかしながら、これらの法律では、公立動物園について、「公園施設」や「公園事業となる施設の種類」として、植栽やベンチ、駐車場、休憩所、便所などと同列に規定しているだけです。
絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律にも、動物園・水族館という言葉が出てきます。この法律には、第2条に「動物園、植物園、水族館その他野生動植物の飼養又は栽培(以下「飼養等」という。)及び展示を主たる目的とする施設として環境省令で定めるもの」という規定があるので、『おっ!環境省令に定義があるのか?』と一瞬期待させられますが、環境省令には、第1条の3にその他の施設の説明として「昆虫館又は動物園、植物園、水族館若しくは昆虫館に類する施設」と規定されているだけで、どういうものが動物園・水族館なのかという疑問には答えてくれません。
このように、法律的には、動物園・水族館は、明確な定めがないのが、日本の現状なのです。
札幌市では、このような状況を踏まえ、将来にわたって動物福祉に配慮した動物園運営を担保するとともに、今後も持続可能な動物園運営を行っていくための国内外の動物園・水族館との連携・協力の強化に向けて、信頼をさらに深めていくため、「動物園条例」を制定することといたしました。
具体的には、これから学識経験者のお力添えをいただきながら、市民の皆さまと一緒に検討していきますが、札幌市が考える動物園・水族館の意義や役割など、大きな視点から動物園・水族館の普遍的な姿を定める条例にすることとしています。検討期間は約1年半を想定しており、令和3年度の早い時期の制定を目指しています。

令和元年(2019年)12月

札幌市円山動物園 園長 加藤 修

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