講演会「未来のまちに動物園を残そう!」実施結果
日時 |
令和元年11月1日(金曜日)10時00分~11時30分 |
場所 |
円山動物園 動物園センター内情報ホール |
参加者数 |
約30名 |
基調講演
「我が国の動物園政策の新たな地平を開く―円山動物園の挑戦」
神奈川大学法学部准教授 諸坂佐利 氏
内容
- 日本動物園水族館協会は、動物園水族館の社会的役割として4つ挙げるが、地方公共団体の設置する動物園は市民の福祉の増進(環境教育やレクリエーション)が第一責務となり、その上で種の保存に寄与することが必要であること。
- 国内の法制度では、動物園を包括的に保護又は規制する法律や動物の「福祉」に関する法律は無いこと。
- 動物の「愛護」と「福祉」は違うこと。
- 種の保存や環境教育など生物多様性の保全に係わる動物園の社会的役割を将来に向けて継続的に果たしていくためには、動物園が行うべきことや動物園の基盤となる飼育動物のケアの方法などを規定する何らかの法制度が必要であること。
パネルディスカッション
パネリスト
小菅 正夫(札幌市環境局 参与)
諸坂 佐利(神奈川大学法学部 准教授)
伊勢 伸哉(日本動物園水族館協会 副会長、おたる水族館 館長)
司会進行:加藤 修(円山動物園 園長)
内容
愛護と福祉の違いについて
- 愛護とは、個体(「種」ではない)への人からの愛情、主観的、感情的なもの。
- 福祉とは、基本的に動物の種(「個体」ではない)を対象とした客観的、科学的データに基づき考えるもの。動物園では野生動物が自然界で行っている行動に限りなく近いことを行える状況にすること。
- 水族館や動物園でのショーは、人を楽しませるという要素だけでなく、動物の習性にあった行動を見せること、採血など健康検査のためのトレーニング、運動不足の解消を目的に行われるようになっている。
- 人の福祉と動物の福祉は異なる。
テーマ1.「動物園ってどんなところ?」
- 動物愛護管理法では、飼養、管理、展示する事業者という位置づけしかない。博物館法では、動物園を博物館として登録することが可能だが、登録は任意であり動物園の定義はない。 ちなみに、動物園・水族館として博物館登録しているのは数園館となっている。
- 日本動物園水族館協会においても動物園水族館を定義していない。入会審査があり、4つの目的(種の保存、教育、調査・研究、レクリエーション)を含む活動をしているかを審査している。
テーマ2.「条例はどうして必要なの?」
- 首長が代わることで、動物園の方針等が安易に変わってしまうことがある。
- 市民の代表機関である議会によって決定する条例で動物園を規定することで、市民が円山動物園とはこうあるべきという意見を表明することができる。また、条例違反に対して処分、処罰することができる。
- おたる水族館には行動規範や運営理念が定められておりこれを変更するには理事会での決定が必要で社長の一存では変えられない、民間企業のこれに代わるものが地方自治体では条例になるのではないか。
テーマ3.「条例を制定すると何が変わるの?」
- 動物園の運営方針が示されることで、海外や国内の動物園との交渉において信頼性を確保できる。
- 動物園や動物、動物園で働く人々を守ることができる。
- 他の自治体に条例策定の動きが広まることで、国全体としての動物園の使命として生物多様性保持や野生動物保全活動などが認識されることの底上げになるのではないか。
アンケート結果(関係項目抜粋)
【問】あなたは円山動物園にどのような社会的役割があると思いますか。
役割が「大いにある」と「ある」を合わせた回答のみとなったのが、「ア動物に関する知識の提供」、「ウ動物を通じて命の大切さを学ぶ機会の提供」、「コ絶滅が心配される動物の飼育や繁殖」の項目となりました。
【問】講演会を聞いてあなたは動物園のことを定める条例は必要だと思いますか?
- 動物園のあり方を定める等方向づけや位置づけを統一させるためには必要。だが環境の整っていない施設にとっては管理面で維持できないかもしれないから。
- 動物園の本来の目的を明確にし、動物と動物園を維持するため。
- 今まで曖昧だった事が不思議、条例を制定するためのハードルは何なのか知りたい。
- 動物園という存在そのものの曖昧さにびっくりするとともに、これからの動物園の理念を守るためにも条例は必要と考える。
- 私も動物園が何なのかわからないことがあり、そのような人が動物園を理解しより良くしようとする行動につながるために必要だと思う。
- 未来に動物園を残すためにも必要だと思う。動物を守り、動物園を守り、そこで働く人を守ってもらいたいので。
【参加者からの主な意見】
- 動物(人間を含む)・地球・生命を考えることのできる動物園にしてほしい。
- 北海道を代表する動物園としての存在価値を今後一層高めてほしい。
- 博物館施設の視点からの話は大変勉強になった。
- 動物にとってより良い環境づくりを継続してほしい。
- 積極的に飼育設備の修繕の予算を増やし、福祉の向上にさらに取り組んでほしい。
- 専門員の制度が始まり、改善され動物達に好影響がみられる所と残念な所がある。専門知識を大いに生かし動物本来の動きや福祉に貢献することを望む。そのためにももう少し専門員の人数を増やしてほしい。
- 「福祉」と「愛護」の話を聞いて、生物学、獣医学などの化学的研究だけでなく文化人類学などの質的研究も役に立てる部分があると思った。
- 今回のような講演会をまた開いてほしい。