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更新日:2011年2月28日

学会発表抄録(2009年)

● 日本動物園水族館協会北海道ブロック秋季飼育技術者研究会
 「巣穴展示式獣舎によるプレリードッグの飼育経過」~繁殖と群れの同居訓練について~

中居幸世、三浦 圭、田中聖二

 2008年4月18日、札幌市円山動物園基本構想(2007年3月策定)の基本理念「人と動物と環境の絆をつくる動物園」を実現するため、こども動物園の一部を改修した際に、プレリードック舎は巣穴を観覧できる獣舎に変更をした。
 繁殖に関しては、2008年11月29日には発情行動が見られ、個体間の安定を図る為に、獣舎内に数箇所仕切りを設けて別飼いを開始。2009年1月19日に交尾を確認、3月2日には、幼獣と思われる声を確認した。4月2日に幼獣数頭を初認、4月27日までには、15頭の幼獣を確認した。
 幼獣の発育状況としては、初認後約4日後には親と同一の餌の採食行動を確認。日を追う毎に巣穴から地上にある給餌スペースまでの移動なども容易になり、成長と共に体力もつき行動範囲が広がった。
 別飼いとしていた家族間では、獣舎の仕切り越しに互いを意識する行動が多くなった為、2009年5月31日より仕切りを一部開放しての同居訓練を開始した。途中雌のみを別飼いして同居の訓練を行った際には、雄が育児行動を見せるという新たな発見もあった。6月13日には、日中のみ仕切りの全部を開放、6月24日には、仕切りを終日開放できるようになり、全ての個体間での闘争もなく、挨拶行動も順調に見られるようになった。
 現在、巣穴展示式獣舎では、プレリードッグ本来の巣作り行動やタウンでの共同生活、繁殖や育児など、「動物が過ごしやすい環境」となっており、来園者には「体験、感動、環境や命の大切さを学べる」施設へと一歩前進したのではないかと考える。
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 「類人猿館の屋外放飼場施設改修とオランウータンの導入について」

吉田 淳一

 札幌市円山動物園の類人猿館は1977年に竣工したが、老朽化とエンリッチメント充実の観点から、2008年に施設改修を実施した。
 改修前の屋外放飼場は、観覧スペースとの間に深さ4mの堀があり、観覧者は動物が遠いながらも障害物なしで観覧できる展示手法がとられていた。また、清掃を容易にするため床をコンクリート仕上げとしており、衛生面を最優先した展示施設であった。
 ハード面の「環境エンリッチメント」は、高さ2mほどのコンクリート製の擬木と鉄製の鎖のみで、行動パターンは、壁際に座っているか横になっている事が多くみられていた。そのため、観覧者の多くは生体の動きがあまり活発ではないことから滞在せずに通り過ぎる傾向にあった。
 今回の改修では、堀を土で埋め、全面アクリルガラス窓として、動物と観覧者との距離を近くし間近での観察を可能とした。また、2面ある放飼場の間に観覧者が入り込む屋根付き観覧スペースを設置した。
 「環境エンリッチメント」は見晴台的な居場所の設置、先端がカーブした鉄製の遊具ポール3種を設置し、ロープによる連結で、空間を移動できるようにした。さらに、地面には緩い起伏をつけ、芝生や潅木、中木を植えることにより飼育員が撒く餌が窪みや草木に隠れるほか、草や木の葉、実などを食べるなど、採食行動の拡大が見られた。
 雄個体(12歳)は、2000年に釧路市動物園から導入し、これまで単独での飼育であったが、2008年5月にインドネシアから雌個体(11歳)を導入したので、その経緯についてもあわせて報告する。
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日本動物園水族館協会第57回動物園技術者研究会
 「環境教育教材として動物園で作成したワークブックについて」

山本 秀明

 これまで、小学校の総合学習等で利用されてきた学校側で作成したワークシートは、「考える、観察する」を主眼にしており、「事実或いはその動物の特徴を知る」ことで、目的が達成されるケースが多かった。
 しかし、このワークシートでは、「事実或いはその動物の特徴を知る」ことが児童の試行の最終地点となり、「動物と人間とのつながり」や「動物と自然環境のかかわり」等の動物園が伝えるべき側面につなげていくことが困難であった。
 そこで、円山動物園では、楽しみながら命の大切さや環境メッセージを伝えるため、2008年度、主に小学校の総合学習での活用を想定した教材ワークブックを教員・研究者らと動物園スタッフで共同開発した。
 このワークブックは、小学校低学年用と高学年用からなり、各々いくつかの教材を用意している。
 低学年用は、クイズ形式やぬりえなど、楽しみながら命の大切さを感じ、環境教育の基盤となる「気づき、発見」を習得できるように、また高学年用は、動物を取り巻く問題を「身近な問題」として捉え、自分たちの生活とどのようなつながりがあるかを考えるきっかけとなるように工夫を凝らしている。
 また、ワークブックの設問内容は、実際に動物をじっくりと観察しなければわからないものが多く、答えも一つに限らず、個々人の完成により変わってくるようにしたのが特徴である。
 教材はすべてホームページからダウンロードすることが可能であり、教育関係者が児童の実態に合わせて、自由に選択することができる。
 さらに、Word形式で配信しているため、教育関係者自らが、カスタマイズすることも可能である。
 2009年4月から配信し、各学校で独自の活用ができるため、利用状況の詳細な把握が困難であるが、これまで、小学校での活用に当園職員が参加したケースが二件あり、ワークブックの内容について検証することができた。
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 「ホッキョクグマの繁殖に関する一考察」

河西 賢治

 円山動物園では2000年から2008年までに、ホッキョクグマの雄(1993年生まれ)と雌(1994年生まれ)のペア飼育により、計7回の出産にいたっている。
 2000年から2002年にかけての3回の出産において、5頭の出生を確認しているが、いずれも食害により死亡している。 2003年及び2005年の出産時には、飼育環境の改善により3頭のうち2頭の繁殖に成功した。
 2007年には出産時の園内環境の変化により、出産の形跡を確認したものの、仔の確認にはいたらなかった。
 2008年には前年の教訓をふまえ、さらなる飼育環境の改善に努めた結果、2頭の繁殖に成功した。
 本報告では、これらの出産事例より、ホッキョクグマの出産から成育にいたるまでの要因について考察する。
 2000年から2002年の3回の死亡例では、出産前後の雌個体に対するストレス軽減処置が十分ではなかったと考えられる。
 そのため2003年は、断熱材を用いた産室の防音及び遮光の徹底、給餌量の増加、雄個体との早期別居および飼育場所付近への立ち入り制限を実施したところ、出産を確認した2頭のうち1頭の繁殖に成功した。
 2005年の出産時においても、2003年と同様の対策を実施し、1頭の繁殖に成功した。
 2007年の出産例では前2例と同様の対策を実施したが、出産時期と新施設の建設工事時期が重複していたため、工事車両通行時に、ストレスと考えられる、雌個体が産室を出入りする行動が観察された。
 同年、出産の形跡を確認したものの、繁殖にはいたらなかった。
 そのため2008年の出産時は、雌個体へのストレスを軽減するため、産室防音壁にグラスウール材を追加した結果、同年12月9日に2頭の出生を確認、現在まで順調に成育している。
 以上の経過から、防音遮光を徹底した環境づくり、出産に向けた母体の体づくり、雄個体との早期隔離によるストレス軽減等が、繁殖の成功に結びつくものと考えられる。
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日本動物園水族館協会北海道ブロック春季飼育技術者研究会
 「シンリンオオカミの出産に至らなかった妊娠兆候について」

弓山 良

 札幌市円山動物園では、シンリンオオカミ♀(キナコ 9歳)を2002年より飼育しており、2008年施設新築に伴い同年7月♂(ジェイ 4才)を導入し、繁殖を試みた。
 1月27日に発情出血が見られ、2月20日には初めての交尾を確認した。交尾期間は4日間続き、数日あけて約1週間続いた。一ヶ月も経つと座っていることが多くなり、放飼場内に深い巣穴を掘ったりするなど行動に変化が見られるようになった。
 4月末あたりから腹部が膨らみ始め、さらにその1週間後には腹部の毛が抜け始めた。翌週には乳頭も目立ち始めた。5月11日で最終交尾日より数えて65日目となり、このあたりを予定日として準備を始めたが、予定日を大幅に過ぎても出産は見られなかった。
 予定日より2週間が過ぎた5月26、27日の両日にレントゲン撮影にて検査をしたところ、妊娠していないことが判明した。
 残念ながら妊娠・出産には至らなかったが、発情が始まってからの4ヶ月間に見られたいくつかの妊娠兆候について報告する。
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 「左前肢の成長線骨折により保護されたエゾシカの野生復帰について」

伊藤 真輝

 平成20年7月8日、札幌市北区丘珠の農地で左前肢を骨折しているメスのエゾシカが発見され、札幌市円山動物園園内動物病院に収容された。収容時の体重は30kgであった。
 X線撮影により左尺骨遠位部および橈骨成長線骨折が判明したが、開放骨折ではなかったため患部の汚染が少なかったこと、成長線の損傷がSalter-Harrisの分類のTypeIに該当するため、予後は比較的良好であることから、整復治療を実施することとした。
 はじめに橈骨近位部から中手骨にかけてギブスによる固定を行ったが、X線検査で骨折端のずれが確認されたことから、7月15日に創外固定による整復を行った。創外固定にはIMEX社製K-E創外固定器(中型)を使用した。
 橈骨及び中手骨に振るピンを1本ずつ刺入し、橈骨遠位端にフルピンとハーフピンを1本ずつ交差させて合計4本のピンで骨折部位の固定を行ったが、固定が不完全なために骨折端の転位が見られた。
 翌7月16日に再手術を行い、橈骨側と手根骨側にそれぞれ2本ずつフルピンを刺入して固定強度の強化を図った。
 その後、2度のX線撮影で患部の癒合を確認し、9月4日にピンを抜去、15日にはリハビリのためエゾシカ舎呼び放飼場に移動した。移動後しばらくの間は、環境の変化に戸惑って暴れることが多く、跛行が見られたが、徐々に症状は緩和し、ほぼ正常に歩行が可能になったことから、10月28日に豊平峡ダム近辺の林道で放野を行った。
 今回、エゾシカの成長線骨折の治療法として創外固定を選択したが、創外固定はプレート、螺子固定に比べて固定の安定性では劣るが、組織に対する侵襲が少なく、感染を最小限にとどめることが確認出来るなど利点は多く、体重45kgまでの中型の動物の骨折に対しては非常に有効であることが確認できた。
 今後、さらに手術手技を精査し、当園の飼養動物の骨折整復に応用していきたいと考える。
alt=""本文 ※ファイルサイズが大きいため、分割しています。
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 6~10ページ(PDF:1MB)
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 18~20ページ(PDF:845KB)
 21~23ページ(PDF:1MB)
 24、25ページ(PDF:639KB)
 26~28ページ(PDF:1MB)
 29、30ページ(PDF:736KB)
 31~33ページ(PDF:1MB)

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