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更新日:2011年2月28日

学会発表抄録(2002年)

日本動物園水族館協会第50回動物園技術者研究会

「兎ウイルス性出血病の発生について」

萬 順一 他

 1994年以来、本邦で散発的な発生が報告されているカイウサギの急性、高致死性感染症である兎ウイルス性出血病(RHD)が、2002年の春から夏にかけて札幌市円山動物園で発生したことから、その経過等について報告する。
 本年4月末に生後1ヶ月齢程度と思われるウサギ24点を動物業者から導入して以来、導入個体14点が死亡した。7月に入ってからは、以前より飼育していた成ウサギ等を含め、22点中15点が急死した。このため死体と共に、生存していた7点について石狩家畜保健衛生所へ病性鑑定を以来したところ、RHDの発生が確認された。
 剖検所見は、肝臓が黄褐色~赤褐色化し脆弱化・煮肉感を呈し、肺の充出血、腎臓の出血斑と皮質表面の窪み、脾臓の軽度腫脹が認められた。病理組織学的検査では、びまん性肝細胞壊死および脾臓リンパ球の顕著な減少が見られた。そのほか、RT-PCR法でRHDウイルス遺伝子が検出され、抗RHDウイルス抗体による免疫組織化学的検査、接種試験および赤血球凝集試験においても陽性反応が出たため、RHDと診断された。
 感染経路については、導入ウサギが既にRHDに感染していた可能性が極めて高いが、来園者を介した感染も否定できない。なお、淘汰後の消毒処置(日本バイエル社製アンテックビルコンS の散布)により、現在はRHDの発生はない。


日本動物園水族館協会北海道ブロック秋季飼育技術者研究会

「猛獣舎の改築について」

三原嘉之

 本園の熱帯動物館は1966年竣工され、36年間を経過しているが、本園で最大規模の総合的な動物舎で、現在哺乳類14種31点を飼育展示している。全館を対象にした建て替は現状では困難であり、建物の延命措置として、1998年に電気設備、暖房設備、給排水設備改修、1999年に外壁鉄平石落下防止工事、2000年には屋上防水工事を実施している。
 今回、鉄部の腐食、コンクリートの亀裂・破損等による万が一の動物脱出を未然に防ぐために、2001年に猛獣舎屋外放飼場の改築、本年には猛獣舎屋内展示室の改築を実施している。
 今回の改築にあたり、多くの制約の中入園者に喜んでいただけるよう次のような工夫を行った。
1 屋外については、動物舎の高さを高くし、コンクリート床から土床に変更
2 止まり木、ベッド等を立体的に配置
3 屋内については、トラおよびライオンにガラス越し展示を取り入れる
4 スポット照明の有効活用
 なお、総工費は屋外改築工事が7千3百万円、屋内工事が6千7百万円の計1億4千万円であった。

 

 

「グラントシマウマの常同行動を排除するために施した飼育環境の改善とその効果について」

 

足利真宏

 当園では現在、グラントシマウマの成オス1点、成メス1点、幼メス1点(2001年9月生まれ)を飼育している。(現在繁殖制限のため、成オスについては他の2点とは別展示場にて飼育)
 成個体2点については以前より、日中の屋外飼育時間中(9時00分~16時00分)のうち、屋外にて与える青草をほぼ食べ尽す14時00分以降、隣接するダチョウ放飼場との境界のフェンス際を往復する常同行動が観察されていた。(室内に収容している時間帯においては観察されていない)そこで、本年4月、この行動を排除する目的で、常に歩いている経路の上に丸太を4~5本置き、常同行動をする上での障害とした。
 丸太を置き始めた4月から現在に至るまでの、屋外における行動を観察したところ、完全に消失したとはいえないが、以前のような常同行動は観察されなくなった。しかし、最近では丸太を跨いで歩くようになったため、常同行動の原因や排除する手段について検討中である。


日本動物園水族館協会北海道ブロック春季飼育技術者研究会

「モモイロインコの繁殖について」

朝倉卓也

 今回、本園のタスマニア館でモモイロインコの繁殖に成功したのでここに報告する。親のペアは1989年、タスマニア館の開館に合わせてオーストラリアのタスマニア州政府より寄贈されたもので(入園時の年齢は不明)、1998年まではキバタンと混合飼育を行っていた。1998年11月より繁殖を目指し種単独で飼育を始め、飼育スペースのレイアウト、巣箱、巣材、飼料等の工夫をしたところ、2002年3月に初めて産卵し、そのうち1羽が4月1日孵化した。孵化した雛は5月17日に巣立ち現在も順調に成育している。

 

 

「飼育下におけるアオダイショウの冬眠と繁殖」

 

本田直也

 当園では、日本産爬虫類の飼育下における飼育・繁殖技術の確立を目的に、アオダイショウを含む6種23点を飼育展示している。
 飼育下における温帯産爬虫類の繁殖において、毎年定期的な繁殖を誘起するためには、冬眠は必ず必要な条件とされている。アオダイショウを、7℃に設定した恒温器に冬季約2ヶ月間収容し、野生個体の冬眠時と類似の環境条件に置いたところ、冬眠に至った。
 冬眠明けの3月4日にペアリングを行ったところ交尾を確認し、交尾から36日後の4月9日に9個を産卵した。卵は孵卵器内で人工孵化とし、産卵から53日後の6月1日に全て孵化した。
 動物園等の爬虫類飼育施設においては、往々にしてその施設内の気温が一年を通して一定で、それが故に冬眠に適した環境を作ることが困難であり、温帯産爬虫類の繁殖が困難とされてきた。しかし今回、恒温器を用いることによって、容易に繁殖させることが可能であることを証明することができた。

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