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更新日:2020年12月10日

第3部パネルディスカッション「動物園を支えるとは?」

パネリスト

佐渡友 陽一(帝京科学大学)
小菅 正夫(札幌市環境局参与)
加藤 修(円山動物園)
司会進行:須永 絵美(円山動物園)

第3部(前編) パネルディスカッション「動物園を支えるとは?」

第3部(後編) パネルディスカッション「動物園を支えるとは?」

記録

(※読みやすいように整理しているため、実際の発言とは一部異なります)

日本の動物園の成り立ち、存立基盤

須永

時間に限りがありますので、早速、始めさせていただきます。
私の方が少々緊張しているのですが、皆様、どうぞよろしくお願いいたします。
早速ですが、本日の講演で、佐渡友先生には、海外、日本の動物園の成り立ちから、いい動物園とはどういったものなのか、また、加藤園長からは、生物多様性保全のための取組として円山動物園の野生動物の調査及び研究についてお話いただきました。
本日のパネルディスカッションですが、お二人の講演内容を少しおさらいし、振り返りながら、生物多様性と動物園、そして、市民との関係性に注目し、動物園を支えるとはどういうことなのか皆さんと考えながら進めてみたいと思います。
まず、動物園とは何かを考えるに当たって、世界の動物園が何を目指してきたのか、おさらいになりますが、佐渡友先生から簡単にお願いいたします。

佐渡友

先ほどお話をしたロンドン動物園ができた時代の話をちょっとだけさせてもらいます。
昔々、ヨーロッパで動物園をつくったときは、そもそも、生きた動物のコレクションを世界中から集める、世界にどんな動物がいるのかを研究するのだということがスタートでした。見せるということよりも、どちらかというと、生きているものを集めて飼うということです。こうするためにはお金が必要ですから、ロンドン動物園は、お金を集めるため、会員制みたいなものをつくったのです。つまり、研究がスタートだったのですが、見せるということにもなっていたので、そこに教育やレクリエーションというものがついてきました。ですから、19世紀の動物園は、基本的には今言った研究、教育、レクリエーションの3つだったのですね。
ブロンクス動物園は19世紀の最後にできた動物園ですが、この動物園ができたときにうたったのもこの3つです。でも、ブロンクス動物園では、できたときからアメリカバイソンの保全もやっていましたので、4つ目がもう付いていたのです。そして、それからはこの4つ目がどんどん定着していきます。
それはなぜかというと、ヨーロッパバイソンやシフゾウ、あるいは、アラビアオリックスという動物園人にとっては非常に有名な動物なのですけれども、野生では絶滅してしまった動物がいるのです。それを動物園で増やして野生に戻すということをやった動物たちです。そういうことが行われることで4つ目の目的が言われてきて今に至るというのが大きな流れとなります。

須永

現在の日本の動物園でも言われている4つの役割は既に1800年代にはもう掲げられていたということになるのですね。

佐渡友

そうですね。1800年代の末には出てきていたということですね。

須永

なぜ欧米の動物園は、その時代から野生動物の保全を早々に目的として掲げてきたのでしょうか。

佐渡友

アメリカやヨーロッパの動物園は、何かをやるとき、まずお金を集めるのです。ロンドン動物園をつくるときにお金を集める、あるいは、ブロンクス動物園のときもお金を集めるということが前提にあるのです。つまり、お金が集まらないとそもそも動物園ができないというところからスタートするのです。
そのため、動物園ができたらこんなことができますよとPRするのです。動物園ができれば、教育やレクリエーション、そして研究、さらに保全といったことができるのですとうたったのです。
この入り口のところが日本の動物園が世界の動物園と違うベースでやっている1つの大きな理由だと思います。

須永

世界で最初にできたロンドンの動物園から56年がたった後、日本で最初の動物園と言われている上野動物園ができたわけですが、佐渡友先生からは、ヨーロッパを視察した人が見誤ったといいますか、勘違いをしたことで、公立の動物園が日本ではどんどんできていったという流れの話がありました。
でも、その当時の日本の設立の目的が欧米とは異なっていたということになりますか。

佐渡友

1つには、まず見せるというところから入ったので、最初の研究の部分がなかったのです。
研究にはキリスト教的な発想があって、神がつくった動物を人間が理解しようという意識があったのですけれども、そんな意識は日本人にはないですよね。そのため、生きた動物を見せるというところから入る、つまり、教育とレクリエーションから理解されたということがあります。
また、ほかにも重要なことがあります。
戦前の上野動物園のお話をしましたけれども、明治政府の方針として、今だと考えられないのですが、公園というのはそもそも独立採算しなさいというものがあります。明治というのは本当にお金がない時代でして、公園に税金が入るようになったのは1970年ぐらいです。それまで、公園行政はお金のない中でやっていたのですね。そこで、動物園で稼いで、公園をつくるというようなことをやっていたのですけれども、世界から見ますととても非常識な話だったということになります。

須永

動物園は、日本にはいない動物を見ることができるような場所、あるいは、親が子どもを連れていく場所といった認識で利用している人が大多数のように思うのですが、4つの役割のうち、野生動物の保全、調査研究の役割という認識が薄くなっていったしまった理由が設立の根本に大きく関わっているということですね。

佐渡友

そうですね。
ですから、保全や動物福祉に全く気が回らないような状態で日本の動物園は長らく運営されてきてしまったわけです。それが重要だと世界の動物園が動いている中、日本の動物園はキャッチアップしていなかったということです。でも、動物を交換しようと思ったら相手と対等に付き合う必要があるわけです。欧米の動物園と日本の動物園はちゃんとお付き合いできますかと言われ、今困っているのが実情かなと理解しております。

須永

では、実際の動物園でどうだったのかです。
加藤園長、円山動物園の開園は1951年で、上野動物園ができてから六十数年がたった後となるのですが、設立理由はどういうことだったのでしょうか。

加藤

1951年ですから、戦後間もなくです。戦争が終わって五、六年ということでして、円山動物園のスタートは癒やしですね。戦争で疲れた人々、市民の心を癒やすことを目的に市長がつくりました。
この頃についてですが、前の年には浜松や小田原でできました。また、同じ年には横浜の野毛山、そして、ライチョウをやっている大町市の山岳博物館もできました。このように全国で動物園がどんどんとできてきたのです。博覧会なんかも多く行われ、そこで飼育されていた動物が動物園に移行してきたということもあると思いますけれども、全国で動物園ができてきた頃であります。
そして、現在についてです。先ほど海外の動物園と日本の動物園にはかなり差があると言われましたが、何とか追いついていかなければいけないですし、海外の動物園と対等にお付き合いができなければ動物園の動物を維持できないということがあり、日本の動物園でも生物多様性保全に力を入れていかなければいけない状況にあると思っています。

須永

それでは、小菅参与にお聞きします。
およそ40年前、先ほど紹介がありましたけれども、生物多様性の保全という世界の大きな潮流ができたとほぼ同時期に、保全が日本でもうたわれ始めたというようなお話がありました。小菅参与は、1970年代から1980年代の頃に動物園に入られたかと思うのですが、現場で働いている側ではどういった状況だったのでしょうか。

小菅

先ほど園長が1951年に円山動物園ができたと言われましたが、その16年後の1967年に旭山動物園ができたのです。また、今、札幌市がつくろうとしているものとはかなり質が違いますが、そのとき、旭川市では旭山動物園条例もつくりました。
佐渡友先生が先ほど目的が何かということを盛んに言っていましたが、旭山動物園条例では、科学的知識を高め、保健休養に資するために動物園をつくると書いてあります。でも、保全や福祉については一切書いていません。あくまでも市民の保健、休養が目的なのです。
先ほどから佐渡友先生が言っていたとおり、教育とレクリエーションを目的としてつくったのです。そして、動物園ができて6年目に私が旭山動物園に入りました。司会の方がおっしゃいましたが、1973年、昭和48年です。
そのときは、日本で一番北にある動物園とはいえ、動物園とはどういうものを目指すのかなどを自分たちでいろいろと考え、様々な物を読んだり、海外ではどうなっているのかを調べたりしました。でも、ちょうどその頃、動物園否定が始まりました。動物園は存在していいものかという根本問題です。そういうことがあって動物園なんか要らないという運動が世界中で起き始めた時代でもありました。
そのとき、動物園側が旗印として上げたのがまさに保全だったのです。要するに、動物園とは、多くの人に生物の多様性を直接感じてもらう施設であり得るのだと言ったのです。
先ほどはブロンクス動物園でしたか、絶滅の危機に瀕しているアメリカバイソンを何とかしよう、野生復帰させようという活動をやっているとありましたが、そういうことを世界の動物園でやり始めた頃です。
私も若かったですから、これは絶対に旭川でもやらなければいけないと思いました。そこで、僕らが考えたことは、要するに、札幌や東京など、お金があるところは、大きな動物園だから、そこでは世界の動物たちを対象にしてやればいいのだ、俺たちのところはちっちゃい動物園だから、とにかく地元の動物に特化した研究をやっていこうということで、在来の動物の繁殖研究、生態研究をやり始めました。結構な成果を出して、いろいろな動物の繁殖に取り組んできたのですが、これが動物園の中の飼育係からの発想です。
物すごく面白い例があるのですが、ヒヨドリという鳥がいますよね。あれを繁殖させたのです。いろいろと研究し、思考錯誤の末、ようやく繁殖させ、日動水協から繁殖賞をもらい、新聞にもでかでかと載りました。
このことで、ようやく繁殖できた、これをいろいろな生き物に生かしていかなければいけないねと僕らが言ったとき、市役所が何と言ったかです。そんなどこにでもいる鳥を増やして何の意味があるのよと言ったのですよ。これで市役所が何を考えているかを理解してもらえると思います。
さらに、僕たちは、エゾライチョウやナキウサギの繁殖研究もやって動物園に入れなければいけないということを考えていました。それで本当に研究を始め、エゾライチョウは実際に自分たちで飼いました。それから、ナキウサギについては、富良野岳のところに生息地があるものですから、そこへしょっちゅう行って研究し、環境省とも付き合いましたが、環境省からは、ここまでちゃんと研究をやっているのだから、きちんとした施設があって目的があれば捕獲許可、使用許可を出すよという話までいったのです。それで、私は喜んで企画書を書きました。当時、ぼろぼろの爬虫類舎があったのですが、そこを改修し、ナキウサギ舎にしたいと思っていたのです。そうしましたら、そんなネズミみたいなウサギみたいなものを飼って市民が喜ぶのかと言われて、あっさり却下されました。
今、2例をお話ししましたが、これだけでも分かると思うのです。動物園の人たちは真剣に保全、研究を考えていました。しかし、残念ながら設置者である旭川市にはそんな意識が全くなかったです。
でも、多分、これは旭山動物園だけの特例ではなく、佐渡友先生、日本中でそうだったのではないですか。そんなような気がしています。私はそういう時代を何とかくぐり抜けて今も動物園にいます。
でも、先ほどの加藤園長の話を聞いていても、様々なことをテーマにした研究をされていると分かり、非常に喜んでおります。

佐渡友

今お話をいただいたので、ちょっとお話しします。
まず、研究と一言で言ってもいろいろなレベルのものがあるので、少し区分けして考えなければいけません。
在来の動物は自治体にとっても手を出し得るものだし、国内の動物は環境省が手を出し得るので、この文脈でまず攻めるというのは正解です。その意味で、動き始めたのが早いのは東京の上野動物園です。トキやコウノトリについては早かったですね。それは、環境省になる前、当時の環境庁ですが、そういうところとタイアップしながら、むしろ環境庁のお尻をたたくみたいな動き方を動物園がしていた時代があります。
でも、そうして動けたのは、正直なところ、東京都が大きいからです。東京都の人間、特に上野の人間は、国は動物園を持っていない、俺たちがやらなくて誰がやるのだというプライドの持ち方をしているのです。
ほかでも、大都市に行くとそうで、横浜や名古屋、大阪ではそういう動きができていまして、市民の誇り、都市の格という言い方をします。その意味では、札幌市も動けるはずなのです。でも、そういった文脈がちょっと使いにくい、私がいた静岡市ぐらいになると違ってきます。
実は、静岡市はライチョウの南限を抱えているのです。静岡市は縦にすごく長い市なものですから、南アルプスは静岡市で、ライチョウの南限が静岡市にあるのにライチョウの保全になかなか手が出せないのです。私が静岡市役所にいたとき、本当はそれを何とかしたかったのですけれども、動き切れないのです。そこには都市の格みたいなものを感じざるを得ないところはありましたね。

須永

動物園の保全という役割では、設立の目的から根本的な大きな影響をすごく受けてしまったということ、また、動物園側といいますか、実際に働いている人間の意識が非常に高かった時代においても、それを周りの人に伝えていく、うまく浸透をさせることができなかったということ。さらには、今お話にありました都市格、自治体の規模も大きく影響を受けるだろうということでした。

生物多様性と市民の関係性、生物多様性と動物園の関係性

須永

先ほどから動物園は生物多様性の保全のために取り組むべきといったお話が再三にわたって出てきています。ここにいらっしゃる皆さんは意識が高いので、ご存じかなと思うのですけれども、近年、地球環境をはじめ、様々な環境問題がニュースで取り沙汰されていますし、温暖化の影響なのかなと私たちでも思うような、札幌でも非常に熱い夏が続くということもあるかと思います。さらには、甚大な災害もニュースでよく目にするようにもなりました。こういったことと私たちの暮らしを変えていくことが必要ですと叫ばれているのですが、そうしたことと生物多様性という言葉があまりリンクしてこないということがあると思うのです。
そこで、生物多様性の保全とはどういったことなのか、これもおさらいになるかと思うのですが、佐渡友先生にお話しいただきたいと思います。

佐渡友

先ほど加藤園長からも話がありましたが、結局、生物の多様性がないと人はちゃんと暮らせないよねという認識が今は大分できるようになってきたとは思います。でも、その生物多様性を守るために私たちには何ができるのか、行動を変えることができるのかといったときにまたハードルが上がるのです。でも、そこで環境教育という言葉が出てくるわけです。
私たちの豊かな生活は生物多様性に支えられています。都市というのは、その背景に山々をはじめとしたいろいろな自然がなければ当然成り立ちません。これは地球レベルでも同じことが言えて、動物園はその象徴で、凝縮されたもので、世界の生態系が豊かでなければ動物園は成立しないというお話を差し上げたわけですけれども、どこの地域でも同じことが起きてくるわけです。だから、地球レベルで生物多様性を守っていかないと、地球レベルでの人類の豊かさが担保できないのです。
そこで、これからの将来世代に豊かな地球を受け継いでいく、そのための行動を私たちは取れるのか、それが今まさに突きつけられている問題なのだと思います。

須永

先ほど円山動物園の野生動物保全の取組を加藤園長に紹介いただきましたが、そうした活動も私たち人間の暮らしを守ることにつながっていくということになるのでしょうか。

加藤

先ほどの佐渡友先生のお話の中に、保全には市民の税金が使いにくいというお話がありましたが、我々はそこをどうしていくかです。
結局、市民一人一人の行動、活動によって地球温暖化が起きてきており、野生動物が減っていったり、困ったりしているのです。そこで、例えば、我々円山動物園がカナダのホッキョクグマの保全をするということは巡り巡って札幌市民にもつながっているのだという理屈で市役所を説き伏せているのです。ですから、我々の活動は決して市民に歓迎されていないわけではないというような話をしています。
また、生きた動物を飼育し、展示しているのは動物園、水族館だけです。テレビやYouTubeで絵は見えるでしょう。声は聞けるけれども、においは感じませんし、息遣いや気配は感じられません。五感で感じてもらい、必要性を伝えるのが我々の仕事で、そこで学んだものを、ちょっとずつでもいいけれども、一人ひとりの生活を変える、環境に対する負荷を減らすことにつなげていければ、それが我々の仕事であり、活動なのかなと思っています。
だから、先ほども話していましたけれども、身近な動物の保全もしますし、世界の動物の保全もします。本当は先ほど小菅参与がおっしゃったように、身近な動物を中心にやれればいいのだけれども、皆さんの気持ちに入ってきやすい象徴的な動物もやらなければ伝わりにくい部分もありますし、動物園として世界中の動物を飼育している以上、世界中の動物を守っていく責任もあるかなと思っているところです。

須永

直接、その生き物を守る活動のほか、動物園には多様性の保全を世間一般に知らせていくメッセンジャーという役割があるということもかなり重要だということですね。
小菅参与、そういったことは世界中の動物園で取り組んでいることなのですか。

小菅

先ほど、世界の動物園といっても、リーダー的な動物園、ある程度の基準以上の動物園、そして、その他大勢の動物園があると佐渡友先生からあり、なるほど、そうだなと思っていたのです。ですから、世界中の動物園がやっているかというと、そんなことはないということですけれども、少なくとも動物園と標榜している動物園、私たちの知る動物園というところではしっかりとやっていますね。
動物園で環境への思いをはせる、お客さんが動物を見て思いをはせることが重要なのだと言っているのですが、まさにそのことができるのが動物園です。例えば、オランウータンが命をつないでいます。私たちとしては、このボルネオオランウータンを見て終わらない展示をしっかりやらなければ駄目だと思っています。ここからボルネオの自然の中で暮らしているオランウータンに思いをはせてもらえるような活動を動物園はやらなければならないのです。
ですから、その活動を通し、展示を通して皆さんがボルネオオランウータンのファンになり、オランウータンがこんなに好きな私はあのボルネオの森を維持するような活動していかなければならないねとなってほしいのです。
先ほど、行動変容と言っていました。コロナ以来、行動変容という言葉がよく使われるようになりましたが、そう変わっていってもらえる可能性があるのが動物園なのです。ですから、コロナ禍で多様性は非常に意味のある言葉になってくるのです。
ボルネオの中でオランウータンが生きていくためには何が必要なのかというと、豊かなボルネオの森、まさに多様性の高い森が必要なのです。それがボルネオのオランウータンで代表されているわけです。
ホッキョクグマはホッキョクグマで、ホッキョクグマの育んでいる自然環境が大事なのです。動物園という一つの世界の中にいろいろな種類がいて、多様性を持つことにより、地球上で多様性がどう維持されていくかを理解されていくのだと思います。
そして、それをしっかりやるためにはどうするかです。
先ほどテレビの中のシマウマは本物かという話がありましたし、園長も息遣いが聞こえる、熱が伝わるかもしれないと言っていましたが、そういう生き物から伝えられるものがやはりあると思うのです。そういうものが動物園の中でしっかり生き続けていき、しかも、それが保全と関わりを持った中で生存しているとなっていなければならないと思うのです。
そのためには、皆さんご存じのように、CITES、ワシントン条約です。
ワシントン条約が発効されたのは今から40年ぐらい前の1975年ですよね。その頃から動物園の世界ではもう覚悟を決めているのです。もう野生から捕ってくるのはやめにして、動物園の中でしっかり繁殖させましょうとなっているのです。でも、それは一園ではできないわけです。そこで、いろいろな動物園と関係性を持ちながら、例えば、国内にはホッキョクグマが何頭いるのか、何施設で何頭いるのかを把握し、それを一つの個体群として考え、次の世代へ命をつないでいかなければならないのです。飼育下の動物だけで維持できる技術をちゃんと身につけていきましょうというようなことがこれからますます強く求められていくと思うのです。そこでは、いろいろなところに移動させていかなければなりません。そして、国際的にもそういう活動をしていかなければなりません。
そういう意味では、園長が先ほど言ったことですが、カナダのマニトバ州と連携し、札幌のホッキョクグマの個体群とカナダのマニトバ州の個体群との関係性をきちんとつくり上げていくのはとても重要なことで、そうやって飼育下での個体群も維持し続けることが動物園の大きな役割の一つなのだろうなと思います。

須永

動物園は保全活動を行うべき施設、かつ、今、上のスライドに出ていますが、市民の人にそういった活動を伝えていく重要なメッセンジャーの役割を持っていますという話でした。
先ほどの加藤園長のご講演の中では円山動物園は野生動物の保全活動をすごく一生懸命やっているというお話があったと思うのですが、円山動物園でもその役割を十分に果たせているのでしょうか。

加藤

すごく一生懸命やっていると自慢できるほどはまだやっていないのではないでしょうか。そちらの仲間にやっと入れてもらえつつあるというぐらいで、まだまだ実績は上がっていませんし、もっとやっていかなければいけないと思っています。また、飼育下個体群も大事ですが、野生がないと飼育もないわけで、そちらにも力を入れていかなければいけないなと思っています。
一方、先ほど言ったものですらなかなか知られていないのが現実です。今年、市民意識調査で円山動物園のことを調査したのですが、動物園が生物多様性の保全活動をやっていることを知っていますかという問いに対し、知っているとの回答が42%の割合でした。知らなかったという回答が55%です。ですから、まだ半数にも知られていないということですね。
これをどう評価するかです。半数の方に知っていただいていることでよしとするのかどうかですが、ひとえにきちんと伝えていないということだと思うのです。伝える努力をしないと伝わらないわけですし、伝わらないとやっている意味がありませんので、我々としてはもっと努力をしなければいけないかなと思っています。
一つ面白いデータがあって、動物園に一番来られている年代は30代で、60%となっております。一方、生物多様性の保全の取組を一番知らないのが30代で、33%でした。
先ほどの佐渡友先生の話を聞いて、この答えの一つが見つかったような気がしたのです。結局、30代の方はお子さんを連れてきているので、動物を見ていなければ、動物園の展示も見ていないのです。動物園という場所でお子さんを見ているのです。だから、生物多様性の保全を知らないのではないかと思いました。
でも、子育てをしている方は環境保全のキーマンになり得るわけですし、子どもを通じて学んでもらうということは非常に大事なので、そういった方々に我々の活動を知ってもらうための活動をこれからもっとしていかなければいけないかなと思っています。
市民理解はやはり大事で、市民の皆さんの税を使わせていただいているので、皆さんにちゃんと理解をしてもらって、なおかつ、一緒に活動していただける仲間をどんどんどんどん増やしていかないとやっている意味が薄いですから、そこに努力をしていきたいなと思っています。

動物福祉について

小菅

今、園長が保全の話をずっとされていましたけれども、動物園をやっていく上でもう一つ絶対に外してはいけないのは動物福祉の問題です。
人の福祉というと、何となく、こんなものが駄目で、こうすればいいのかなというものが分かるのですが、動物の福祉ではどういうことを目指すかは、多分、皆さんの中ではぼんやりだと思うのです。でも、ここを避けたら動物園は存在できなくなります。
私もお客さんに言われたことがあります。こんな飼い方しかできないのだったら、動物がかわいそうでたまりません。まさにここなのです。そんなふうに思わせたら動物園は負けです。そこのところをしっかりとやっていかなければいけないのです。
動物福祉というのは何か、私が思うのは、カバを見たとき、ああ、何てカバらしい暮らしをしているのだろう、ザリガニを見たとき、何てザリガニらしい生き方をしているのだろうと思えるような飼育をして、初めて動物福祉に配慮したというか、動物福祉をちゃんと維持できている動物園と言われるのかなと思うのです。
でも、変な話ですが、例えば、オランウータンが旭山動物園にも2頭いたのですね。オランウータンは、もともと、単独で暮らす生き物ですから、まず、雄を展示して、昼になったら交換して雌を展示していたのです。そうしたら、親子連れの方から、ああ、何てかわいそうなの、独りで暮らしているのと言ったのです。
これはヒグマもそうですが、独りで暮らすのが彼らの生活スタイルから考えたら当たり前の話なのです。でも、人間の側から見て、何かかわいそうと思うのです。このことをお客さんにもちゃんと理解していただけるように工夫しながら、これが本来の動物の暮らしなのだよというところをしっかり見せるような活動はこれから絶対に求められていくと思うのです。
まさに、今、条例を制定していただこうとしている私たちとしては、保全というのは目的で、動物福祉はベースです。これをしっかりと備えていなければ動物園としてこれから胸を張ってやっていけないと思うので、ここのところは非常に大きなポイントになってくると私は思います。

佐渡友

今、小菅参与から動物福祉のお話があったので、研究者目線から言葉の使い方だけ少し整理しておきたいと思います。
皆さん、動物園条例制定に向け検討していますという資料をお持ちですね。これは非常にいい資料でして、3枚目を見てもらってもいいですか。そこに動物福祉、AnimalWelfareってなんだろうと、ばっちりと解説されています。この解説で正しいのです、確認だけしておきます。
福祉という言葉ですが、人間の世界では福祉行政というふうに使っているので、すごく狭い理解をするのですけれども、憲法に書いてある福祉、公共の福祉は人の幸せみたいな話なのです。でも、動物福祉と言ったときの福祉はまたちょっと違っています。
動物福祉ってなんだろうというところのすぐ下に書いてあるのですが、動物福祉とは、動物の身体的及び心理的状態のことです、小菅参与のおっしゃったことを正確に言うと、動物園は動物福祉をよい状態に保つことが大切だということになります。
そして、それは具体的にどういうことなのかというと、これも下に書いてあるとおりでして、いろいろな側面から見て、肉体的にも健康だし、精神的にも健康な状態に動物を保つことです。つまり、オランウータンはオランウータンらしく、ゾウはゾウらしく、そういった生活ができるような環境を整えていく、そのように飼育員が常にサポートをしていくということが求められているのです。
実は、動物福祉とは科学でして、科学にはゴールがないのです。あくまでも、よりよいものを求めていきます。科学というより、研究者はそういう姿勢があるのです。そして、よりよい福祉状態を実現するため、日々奮闘していらっしゃる研究者や飼育員がいっぱいいるのが現状かなと理解しています。

須永

皆さん、動物福祉という言葉を初めて聞いた方は少ないかもしれないのですが、自分たちの感覚とは少し違ったかなといった感想を持たれている方が多いのではないかと思います。
加藤園長、動物福祉について、円山動物園で実際に行われている取組を皆さんにご紹介いただけますか。

加藤

一番端的な話はゾウ舎です。ゾウがゾウらしく生きていくためにはどういう施設がいいのか、また、今考える中でどういう飼育の方法がいいのかを考えて建てました。準間接飼育と言って、人間と直接関わらず、おり越しで飼育をする方法を取っています。あるいは、砂を敷き詰めたり、いつでも餌を食べられるように上からつるし、それもタイマーで降りてくるようにしたり、冬でも室内プールに入られるようにということに配慮した施設としています。
ただ、施設をつくって終わりではありません。あの中で、日々、ゾウをどうやって飼育していくかを模索し、どうやって動物福祉の良好な関係を整えていくかということを考えています。
また、餌についてです。キリンにはカシの枝を上げていますが、なるべくもともと食べていたものに近いものを与えるということが彼らの本当の欲求を満たすという意味では必要なのです。
例えば、おいしい果物をプレゼントしていただくのは非常にうれしいですし、ありがたいことですけれども、特別なときは別として、ふだんであれば、冬の間に木の枝があるといいな、緑の葉っぱがあるといいなということが我々の願いなのです。
それから、整理をしなければいけないのは、動物の福祉と愛護は全然違うものだということです。日本では、動物愛護法をWelfareと英語で訳し、海外に発信していますが、あれは眉唾物です。福祉というのは、先ほどありましたように、科学的に評価された客観的なものなのですね。でも、愛護というのは人間側の主観的なもので、かわいい、かわいそう、喜んでいるように見えるとかというものですから、全く違う概念なのです。
だから、おいしいものをいっぱい与えてかわいがっているというのは愛護的にはいいのかもしれないのですが、その動物の健康やもともとの食性を考えているかというと福祉的にはバツだということが起き得えます。動物園の職員としては、そこをきちんと区別し、考えてやっているのですが、そこをうまく伝え切れていないところがあるのかなと考えています。

須永

愛護と福祉の概念は異なり、管理する側がきちんと理解して動物を見ていくことが大事ということですね。また、ゾウの施設の関係から、動物の本来持っている様々な行動を引き出すような施設をつくりましたというご紹介と、本来の生態を理解し、野生で食べていたものをあげる、野生に近いものをあげる、もしくは、餌の上げ方を工夫するなど、そういったことも動物福祉を良好に保つことにつながっていくのだという話だったかと思います。
また、先ほど見ていただいた動物福祉の資料の冒頭にも条例の検討をしていますといったタイトルがついていたかと思うのですが、小菅参与の方から、条例の制定を検討しており、保全を目的に、動物福祉をベースにといった考え方を盛り込んでいくのだというお話もありました。

いい動物園として進化し続けるために必要な市民の支え

須永

日本の動物園では、三つの存立基盤、本物を見る場、子育ての場、思い出の継承の場となるという話が佐渡友先生からありましたが、野生動物を飼育する動物園は、野生動物の保全を行います、生物多様性の保全に注力していきます、飼育する動物たちの健全な姿を確保していきます、ということを将来的にも実践していかなくてはならないということです。そのために条例の制定も検討していますよというお話でした。
佐渡友先生の講演では、保全の取組や動物福祉の取組は、金銭面において、動物園単独では難しいのではないかということでした。民間であれば収支に見合う運営を行うだけで大変といった実情もありますし、公営であれば、市民の税金、そもそも市民に直接還元されるサービスといった側面に使うべきといった考え方もありますので、生物多様性の保全に十分なだけ充足することは難しいといったお話がありました。
その点について、加藤園長、円山動物園では今後どのようにしていこうと考えていらっしゃるのでしょうか。

加藤

円山動物園は、やはり、気高き動物園といいますか、高みを目指していかなければいけないと思っています。
そのとき、先ほど三角形が出されましたけれども、今、円山動物園はどのポジションにいるのかはそれぞれに思いがあるのかもしれません。もしかしたら一番上のつもりになっている3番目なのかもしれないと思ったりすることもあったりするのですけれども、飽くなき追求として一番上を目指していくわけです。
ただ、このとき、一つ資金面も大事ですし、マンパワー的にも限界があります。
資金面については、先ほどもありましたように、寄附を募られるように基金をつくっていきたいと思っています。円山動物園の課題として単年度で終わっているという話がありましたが、基金ができると、お金を貯めて大きなことができるということがあります。
今、たくさんのご寄附をいただいて非常に感謝をしています。サポートクラブにおいては、この動物のこれに欲しいとした寄附のお金がどのように使われたのかは分かるのですが、札幌市に対してご寄附をいただき、それを円山動物園にというものは動物園でどう使われているのかが見えないのです。また、大きなお財布の中で薄まっていくので、動物園で使われているのかが分からないということもあります。
ですから、円山動物園のための基金をつくり、必ずそこにお金が入るのだよとなると、絶対に円山動物園に使われるということが見えますし、手の挙げ方として、こういうことに今困っていますよと我々もちゃんと伝えれば、そのことに使われるのだなということが分かるので、そういった皆さんにご協力をいただきやすい仕組みをつくりたいと考えています。
そして、マンパワーの面についてです。
やはり、職員だけではできないこともいっぱいあります。特に観察や研究については、皆さんに参加をしていただくような仕組みをたくさんつくっていければいいなと思っています。
動物福祉の向上についても終わりはありませんし、動物園の高みを目指していくことにも終わりはないわけですから、円山動物園はここにあるよねとみんなに言ってもらえるような施設となるよう頑張っていきたいと思います。

須永

ありがとうございました。
世界の動物園、水族館から日本の動物園の保全の取組は随分遅れているのではないかという見方をされることも多いですし、実際に施設の規模を見ますと、そもそも、動物福祉の対応をやっていけるのかといったような見方も出てくるかと思います。
市民の参加を得て寄附を募ってということですが、今後、保全と福祉に対応しながら日本の動物園は進んでいくことができるでしょうか、小菅参与、お考えをお聞かせいただければと思います。

小菅

先ほどの佐渡友先生の講演を聞きますと、佐渡友先生はアメリカの何とかいう動物園に行って、これは日本ではできないと思ってやめてしまったという話がありましたけれども、あのときに突然思い出したのです。
僕はシンシナティー動物園に野生動物の研究と飼育下動物の研究をどうやってリンクするかという会議に行けと言われ、行かせてもらったのですが、シンシナティー動物園の研究所や施設を見て打ちひしがれました。絶対にこれはできないと思いました。でも、やめようとは思わなかったのです。できないのだったらどうするのだ、旭山でできることをやればいいのだと思い、私は旭山でできることをしっかりやりながら生きていこうと決めたのです。佐渡友先生は大きく広がって大学の先生になったということですが、そういうことを先ほど思い出しました。
だから、僕は今すぐに世界の有名な動物園にとは思っていません。だって、アメリカにはインドのイノシシの保全までやっている動物園があるのですよ。そういうところに今すぐ追いつくというのは、多分、そう簡単にできることではないと思います。ただ、方向性を目指して、保全という星を掲げて、そちらに向かって少しずつ歩んで行くことはできると思います。
先ほど寄附の話などもありましたが、私は、皆さんの意思が、札幌市民の意思がそこにあれば、当然、市役所の意思もそうなってくると思っているのです。市役所が円山動物園を誇りとして、これだけ自然環境に恵まれた札幌市の象徴として円山動物園があるのだという意識を強く持つようになって、そのために市民からの尊い税金の一部を保全活動に入れていくのだと、要するに、そういう意識でお金を入れていくのだという市役所になるかならないかは市民の皆さんの意思そのものだと思うのです。
市民の皆さんの意思がそうなっていけば市役所は絶対に蹴っ飛ばすはずがありません。だって、市民全ての合意が市役所の決定ですから。僕はそう思っているのです。
だから、佐渡友さんの話もそうですが、財源不足は僕も痛感しています。当時は税制から考えても寄附なんかはなかなかもらえないなと思っていました。この寄附をもらう努力もそうだけれども、市役所にしっかりと活動を理解してもらい、市からしっかりとした予算をいただいて活動をしていくということも日本の動物園の一つのやり方なのではないかと思うのです。
でも、それは市の一部である動物園が言ったって絶対に市役所はしてくれません。やはり、市民が主役でして、市民が自らの意思で動物園はかくあるべきなのだという意識を強くし、市にしっかりと訴えることができれば、市も少しずつ変わっていって、それでは、円山動物園の保全活動の一部は税金で負担しましょうとなるかもしれません。そういうような動物園になっていけば、佐渡友先生が日本にはこういうすばらしい動物園がありますよと世界に向けて宣伝をしてくれるようになるような気がしています。
そういう夢を描き、しっかりと動物福祉をベースに置いて、保全を目指して一歩一歩進んでいくことは日本の動物園でも十分に可能だと考えています。

須永

力強いお言葉をありがとうございました。
佐渡友先生は海外と日本の動物園の経営比較がご専門ですが、その視点において日本の動物園の将来は明るいとお考えでしょうか。

佐渡友

明るいか暗いかを端的に答えろと言われると、とりあえず暗くはないだろうと思っています。
というのは、動物園関係者は非常に努力してきているのです。小菅参与のお話もまさにそうですし、あるいは、加藤園長のマニトバ州と組んでやろうとしている取組も明らかに先端を行こうとしているのです。
それは、札幌市が市民の誇りとして、ホッキョクグマに対し、そこまで積極的に踏み込めるというのは、今まさに小菅参与がおっしゃった札幌市が動くという話でして、すばらしい話だと思います。
ただ、確実に明るいとまでは言い切れないと同時に思っているのです。
というのは、私が学生だったときの上野動物園の園長は増井光子さんという有名な人でして、もうお亡くなりになったのですが、今から25年ぐらい前に言われて忘れられない言葉があります。それは、「日本の動物園の課題は20年間から変わっていないのだ。それがなかなか解決できないのだ」ということです。それが25年たって変わっているかというと、よくはなっていますけれども、根本的には変わっていないのです。
上野動物園の歴代園長が頑張ってきてもなかなか変えられない問題は何かというと、園長のレベルで変えられないもっと上のレベルのことだからです。経営という視点から言うと、園長から下の部分をマネジメントと言い、それよりも上の部分をガバナンスと言うのです。このガバナンスのレベルでやっていかないと変えられない部分がどうしてもありまして、その中に税金を使うという問題があって、ここを変えていかなければいけないのです。
それで、それは市民の誇りという文脈もそうだし、私がお話ししたファンドレイジングという文脈もそうですけれども、結局、市民の皆さんのお力が反映されていくところなのです。日本の動物園を変えていくために必要なのはここでして、この点が動き始めれば日本の動物園の未来は一気に明るくなると思います。
ですから、私の言う動物園が市民と地球をつなぐという役割を果たし、世界の動物園と対等に協力して活動するために必要なのは市民の皆さんのサポートなのだろうということです。

須永

ありがとうございました。
本日、3人のご意見を通じまして、動物園が求められている役割として、野生動物の保全、ひいては生物多様性の保全が重要視されているということ、そして、生物多様性の保全は私たちの暮らしに直接影響があるものだということが分かりました。
また、今お話にもありましたが、動物園は保全のメッセンジャーとして、市民と地球をつなぐ、そういった窓になれるという重要な役割を果たせる存在であるということが分かったかと思います。
そして、そうした重要な存在である動物園を支えるということは、私たちの暮らしに直接影響のある生物多様性の保全活動を支えることにもつながっているということです。人々の思いの力、先ほど支援という言葉が何度か出されましたが、そういった力によって動物園の保全活動はもっと広がっていくということです。

質疑応答

須永

お時間が過ぎてしまっているのですが、大変貴重な機会ですので、時間が許す限り、質問をお受けする時間を取ります。ご都合の悪い方は途中で退席いただいても構いません。ただ、その際にはアンケートへのご協力をよろしくお願いいたします。
それでは、どなたか質問のある方はいらっしゃいますでしょうか。

フロア

とても貴重なお話をありがとうございました。
動物園というのは、やはり、社会にとって、人類にとって必要なものなのだなと痛感した次第です。
佐渡友先生にお伺いしたいのですが、アメリカでは寄附によって3分の1が賄われているということでした。今後、日本の動物園でも寄附のウエートが高まりますと、札幌市ではそういうことはないと思うのですが、寄附がこれだけあるから税金を投入しなくてもいいよね、自力でやっていけるよねといって財政支出を削減する、もしくは、やめてしまう自治体が出てくるのではと危惧しています。
そうならないためにどうしたらいいか、名案はありませんでしょうか。

佐渡友

そのお話は国立の独立行政法人化された博物館でものすごくホットな話題なのです。それをやられてしまうと元も子もありません。しかも、国は、このとき、そういうことはしないという約束をしていたにもかかわらず、そうなってしまったのです。
大学もかなりそれに近い状態でして、そうならないための仕組みをきちんとつくるのは非常に重要だというのはおっしゃるとおりだと思います。ただ、これは一発で何とかなるものではなく、常にモニターしていく仕組みが必要です。
具体的に言うと、今、天王寺動物園が独立行政法人化をしようとしていますが、その中でそういったことが起こらない仕組み、これを法人のインセンティブというような言い方をしていますけれども、経営努力をした分、例えば、自分でお金を集めた、経費を削減したとなれば、その自分たちの努力によって動物園をよくしていける仕組みをきちんと構築し、それが守られていることをモニターする仕組みを構築していくことが大切だと思います。
これは経営的には結構面倒くさい話ですが、とても重要なことだと思います。

小菅

寄附がたくさん集まってきたら、それでは、君たちはこの寄附でやっていきなさい、必要なものは十分あるのですね、役所からはもう出さないよと言われることは十分に考えられます。
先ほど園長から基金という何年か越しに使えるようなお金を集めるという話がありましたが、その使途を限定してしまえばいいと思うのです。要するに、経常費には当てないで、施設整備にだけ当てるときちんと最初からつくり上げておくのです。
運営費については、入園料のほか、いろいろなものでやり、足らない部分は市役所から補助が入るわけです。そして、寄附については施設整備のためだけに使えるとしておけば、今、あなたが質問してくれたように、お金があるのならこれで運営できるのではないかとはならないのではないかと思うのです。僕はそうやったほうがいいのではないかと思っています。

佐渡友

それは本当におっしゃるとおりです。
私も、経常経費と施設建設費と研究保全がどの財源で行われるかという表を出しましたけれども、善意の資金を使うべきは施設建設と保全研究です。やはり、そこでちゃんとやる仕組みをつくることはとても大切だと思いますし、基金というのは大変有効なやり方だと思います。

須永

基金の設置に対しても、先に使途を明確にして設置すべきということでした。
園長から何かありますか。

加藤

そこは非常に大事なところだと思います。
全国の動物園の中には指定管理制度を取っているところがあって、そこではまさしくそういうせめぎ合いを自治体としているわけです。
指定管理制度というのは、人件費も含めて金額を決めて運営をしてもらうという仕組みですが、収入が上がると、それでは市から払う分を減らすとなってきているのです。でも、そうならないように今おっしゃったような仕組みをつくる必要がありますし、逆に、本当に運営できるぐらいにたくさん集まるのであれば、これは個人的な考え方ですが、それで運営していけるのであれば、役所からのお金は要らないけれども、口出しもしないでよというのが一番シンプルな形なのかなという気もしています。
そこまで行くには、スミソニアン博物館ではないですから、なかなか難しいとは思いますが、それぐらい認められる動物園になりたいなという気はします。

須永

そのほかご質問をされたい方はいらっしゃいますでしょうか。
では、時間も過ぎていますので、これで終わります。
皆様、3人のパネリストの方々にもう一度拍手をお願いいたします。

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