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平成16年6月の(社)日本動物園水族館協会北海道ブロック春季飼育技術研究会における
ホッキョクグマの繁殖と環境整備に関する河西飼育員の発表
※2003年(平成15年)12月のツヨシ出産・成育後の発表です。
●ホッキョクグマの繁殖と環境整備について
札幌市円山動物園 河西 賢治
■はじめに
当園では世界のクマ館で、ホッキョクグマのオス(出生1993年/来園1995年)とメス(出生1994年/来園1996年)を飼育している。メスは平成12年から平成14年までに3回、計5頭を出産しているが、いずれも仔グマの成育には成功していない。
平成15年度はこれまでの反省を活かし飼育環境の改善を行ったところ、仔グマは現在も順調に成育している。これらの改善内容の概要について報告する。
■餌について
メスの餌は通常、人参・リンゴ・クマペレット(株式会社オリエンタル酵母)・ホッケ・ZOOソーセージ(日本農産工業株式会社)または馬肉を合計6kg与えている。今回は出産に備え9月末から馬肉と鶏肉の給餌量を徐々に増やし、12月1日の給餌中止時には総給餌量は倍の12kgまで与えた。
■産室ほか施設の概要
産室は別紙1を参照。床材として松材のチップを敷いた。
監視小屋として、廃車を利用した車両内部に録画装置と音声設備を用意しクマ館脇に設置した。
■前回(平成12年~平成14年)までの問題点
・ オスとの別居が11月上旬頃と遅い(出産予定日が12月に対して)
・ オスと別居させてから産室に閉じ込めるまでの期間が短い
・ メスを産室に閉じ込めてから産室内の手入れを実施(カメラやマイク位置の調整等)
・ 給餌量を増加させる期間が短くメスの体ができていない為に、出産前日まで給餌を実施
・ 他のクマへの給餌作業のため、出産予定日間近までクマ館内に人が入っていた。また作業車もクマ館に近寄っていた。
・ 産室を出来るだけ静寂化させるために防音材の取り付けや園内放送の中止は行っていたが、入園者の観覧中止までは実施していなかった。
・ 産室の正面の窓に板を張り暗くはしたが、光を完全に遮断できてはいなかった。
・ 産室の数が3つあったが、明らかに一つは使用していなかった。
・ オスとの別居は隣のますに移動させただけで、カウンター扉の間からお互いを確認できる状態であった。
■今回の改善点
ホッキョクグマの出産成育に必要なのは、狭くて暗い産室、オス等が周りにいない静寂でストレスを感じない環境であり、それを飼育下でどれだけ実現できるかが重要と考えた。野生下では、出産前に餌を十分に食べ栄養を蓄え産室にこもる。産室にいる間は一切餌を食べない。この習性を念頭において今回に臨んだ。
【今回と前回との出産までのタイムテーブルの比較】
平成15年度 | 項目 | 平成14年度 |
4月8日 | 最終交尾確認日 | 4月8日 |
9月末 | 給餌量の増量開始 | 10月末 |
10月12日 | オスと別居 | 11月5日 |
11月3日~5日 | 産室手入れ マイク等の設置・防音・遮光材設置・産室増設 |
10月26日~12月8日 |
11月8日 | メスを産室に収容 ホッキョクグマ舎観覧中止 |
11月30日 |
12月1日 | 給餌中止(飲水は常時少量給与) クマ館内立ち入り禁止 監視小屋にて観察開始 |
|
12月11日 | 2頭の仔グマの声を集音マイクにて確認 | 12月15日 |
【飼育管理上の事項】
・ オスとの別居を10月上旬とした。(→まだ産室には閉じ込めない。)
・ オスをメスのマスから一つ飛ばしたマスに移動。(姿を見せなくするため)
・ メスが落ち着いたところで、11月8日(出産1ヶ月前)産室に収容。前回は常同行動が頻繁に見られたが、今回は一切見られず非常に落ち着いていた。
・ 11月下旬より残餌が見られたので12月には担当者もクマ館への立ち入りを中止した。メスはかなり脂肪が付き、産室にこもれる状態となった。
・ 他のクマに与える餌も併せて増量した後、給餌作業を中止し12月上旬には人が館内に入らなくても済むようにした。これにより通常は毎日クマ館にくる飼料運搬車の進入も必要なくなった。
・ 観客の観覧はメスを産室に閉じ込めた時点でホッキョクグマ舎を、12月上旬にはクマ館周辺を順次閉鎖し、担当者が監視小屋に行く以外は人・車の往来を禁止した。
【産室等の改善事項】
・ 産室改良の作業はメスを産室に閉じ込める前に全て完了させた。
1) 産室を増設(別紙1の産室C)
2) 過去3回とも使用実績のない産室の廃止
3) カメラ2台、マイク2本を産室に設置
4) 防音材(スタイロフォーム)の増設
■まとめと考察
前回までの失敗は、産室の環境整備が不十分だったことと、オスとの別居の時期・産室に閉じ込める時期が遅かったことの両方が考えられた。メスが産室に入り出産後、落ち着いて仔グマを育てられる環境をいかに作れるかが最も重要であることを今回で再確認できた。
・ メスを産室に閉じ込めても非常に落ち着いていた。これは防音と遮光の効果が高かったためと思われる。
・ クマへの給餌作業を不要とすることと、12月上旬からクマ館内への立ち入りを中止したことも静寂を保つのに非常に効果があった。
・ 防音材として使用したスタイロフォームが、クマ館周辺を立ち入り禁止にしたことで、今回は防音というより主に遮光の面で役に立ったと思われる。
・ 産室にカメラを設置したが、カメラの撮影範囲では産まず、出産確認がマイク音だけでしかできなかったのは失敗だった。出産後のデータ(一日何回授乳しているのか・授乳時間帯等)が取れなかった。
・ 今回はまず成育させることを最優先し、新しいカメラを気にする可能性があったため、あえて途中でカメラの増設はしなかった。次回は予め全ての産室にカメラを取り付けたい。また、マイクと別のものではなく映像と音が一体化したカメラで記録を撮ることとする。
・ 産後、親に餌を与える時期は60日目ぐらいを目安としていたが、その前に親が産室から出てきた事、その時の様子が落ち着いていたことなどから54日目に与え始めた。しかし仔が自力で産室から出てきたのが産後70日目であったことを考えると、もう少し後の方が良かったかもしれない。
・ 今回はオスと別居させた時点でメスが既に落ち着いていた。理想を言えば交尾確認後、直ぐにオスとメスとを分けるのが望ましい。しかし、飼育場所等の制約の問題があるため難しい。
・ 期間中は作業車や人を通行止めにしたが(仔グマが産室から出てくるまで)観客がホッキョクグマ以外のクマを観覧出来なくなる。継続してホッキョクグマを繁殖するためには別棟の産室が必要である。
■感想
観察しながら、今回は成功するかもしれないと感じたのは、早期にオスと別居させ、前回は常同行動ばかりしていたメスが、今回は非常に落ち着いており、産室に閉じ込めた後も同様であったのを確認できた時である。これは、オスと別居させる時期と産室の改善が効果を上げたものと思われた。
当園のクマ館は、他の種類のクマと合同で飼育管理する形態のため、ホッキョクグマの繁殖だけを考えて飼育することは非常に困難を伴う。将来的に継続してホッキョクグマの繁殖を行うためには、別棟の独立した専用の施設が必要と今回の調査を通して感じた。
ララとツヨシ
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