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※札幌市が平成26年度に開催した「第1回生物多様性さっぽろ絵本コンテスト」の優秀賞受賞作品。
遠い昔から、札幌の藻岩山には妖精のポロンがすんでいます。
ポロンは不思議な力を持っていました。
それは、どんな生き物の願い事も一つだけ叶えることができるのです。
ただし、ポロンは深い山奥でひっそりと暮らしていますから、誰でもそう簡単に出会えるわけではありません。
そんなある日、山のふもとにすむチョウ族とガ族が、一列になって一生懸命にやってきました。
「うわぁ、きれいだなぁ。」ポロンが見とれていると、
「ようやくお会いできましたね、ポロンさん!どうか私たちの願いを聞いてください。」
チョウ族は「私たちの大切な幼虫を食べてしまうスズメバチがいなくなりますように。」
ガ族は「私たちの天敵のコウモリがいなくなりますように。」と、それぞれポロンにお願いしました。
そこで、ポロンは、札幌にすむスズメバチとコウモリたちに、隣町へ引っ越すよう、おまじないをかけました。
すると、どうでしょう。たちまち、スズメバチもコウモリもいなくなり、みんな大喜び。
ところがー
しばらくすると、札幌の空は一面真っ暗になってしまいました。
今まで、スズメバチやコウモリに食べられていた蚊やハエたちが次々に増えてきたのです。
さらに、チョウやガの幼虫たちも葉っぱをもりもりと食べつくしてしまい、木々も枯れ出しました。
「こんなはずじゃなかったのに……。」
チョウ族とガ族は困り果てました。
すると、そこへ、ハヤブサ族の群れが飛んできました。
「あ、ポロンさんがいた!」
「ポロンさんにお願いがあるのです。」
「我々は小鳥などをエサにしているのですが、最近、小鳥が減ってきて困っているのです。
どうか、札幌の沼や池、湿地のような、水のある場所を原っぱに変えてくれませんか。」
「わ、わかりました。やってみます。」
とても体力のいるおまじないでしたが、ポロンはがんばりました。
札幌の街にある水辺を、全て原っぱに変えました。
「ありがとう、ポロンさん!」
「これで、我々も小鳥を捕まえやすくなります!」
ハヤブサ族の読み通り、原っぱが好きな小鳥たちがたくさん増えてきて、ハヤブサ族は大喜び。
おかげで、この年、ハヤブサ族のヒナたちはエサをおなかいっぱい食べて、すくすくと育つことができました。
ところが、その翌年になるとー
なぜか、小鳥たちはとても少なくなっていました。
決して、ポロンのおまじないのせいではありません。
この年の春、小鳥たちの間で病気がはやってしまったのです。
自然界では、時にそのような非常事態が起こることもあります。
それでも、病気に強い小鳥も少しはいたので、ハヤブサ族はわずかな小鳥やネズミなどを捕らえて、なんとかヒナを育てていました。
しかし、夏になると、ヒナの食欲はさらに旺盛になり、いよいよエサが足りません。
「今までなら、夏にはトンボがたくさん飛んでいて、ヒナに食べさせられたのに……。」と嘆いているのは、昆虫もエサにしていたチゴハヤブサです。
そうは言っても、もう札幌には、ヤゴのすみかである水辺がないのですから、トンボが育つはずもありません。
次の年は不思議なことが起きました。ヒグマと人間が同時にポロンを訪ねてきたのです。
偶然にもはち合わせてしまったふたりは、しばし、黙って見つめ合いました。
そして、ヒグマが「わしらがちょっと山を下りただけで、人間は大騒ぎする。縄張りが狭くなって困っているのはわしらの方だ。人間の数を減らしてくれ。」とポロンに頼むと、
「家のすぐそばまで来られて、危ない思いをしているのは私たちの方だ。」と人間が言い返し、ポロンの前でふたりは大げんか。
その騒ぎを聞きつけて、他の生き物たちも次々に集まってきました。
「ポロンさんがいるらしい!」「ここだ、ここだ!」「僕らも願いを聞いてもらおう!」
「いつの間にか、すみかもエサも減っているようなのです。昔はいなかった動物に奪われたのかもしれません。どうか彼らを追い出してください。」
「どこもかしこも乾いてしまって、もう住める場所がありません。もっとジメジメとした場所を増やして下さい。」
「仲間が減ってしまって、卵を産むこともままならない。このままでは滅びてしまいます。助けてください。」
「おいしいエサが山にたくさんあればなぁ」
「とにかく森を」
「いや、林を」
「街の水辺をつないでください」
ポロンはすっかり困ってしまってー
「みなさん、ごめんなさい!」
「ぼく、みなさんの願いを全て叶えるためには、どうするのが一番いいのかわかりません。良くなると思ってやってみても、結局、あとでひどいことが起きちゃうし、もう、あまり力も残ってないし……。」
「だから、思いきって、最後のおまじないをかけてみます。」
そう言って、両手いっぱいに温かな光を浮かべました。
「これは、相手のことを“かっこいいな、素敵だな”と思う心です。みなさんにこれを差し上げます。きっと、このおまじないが効いてくれば、みなさんがこの街でいつまでも暮らせるようになるはずです。うまくいくかわからないけど……。」
そうして、光が消える頃には、ポロンはすっかりくたびれてしまって、山の更に更に奥へと一人で隠れ、眠ってしまいました。
一方、その場に残された生き物たちはー
「素敵だなぁ。こんなに小さいのに、昔からがんばって生きてきたんだね。」
「かっこいいなぁ。水の中でも、陸の上でも平気だなんて。」
「あなた方こそ。“キツネの子別れ”の儀式は、そりゃあ見事だと聞きましたよ。」
「素敵だなぁ。あなたのおかげで、こうして木が芽吹くんだね。」
「みなさんだって、そうでしょう。かっこいいなぁ。」
大きな者、小さな者、強い者、弱い者、きれいな者、地味な者。それぞれの素敵なところが見えてきて……。
「みんないてほしい。」
「みんないてくれないと、ずっと続かないもんね。」
「すめる場所は違うけど、いろんな場所が必要だよなぁ。」
そんなことを言い合いながら、みんな、自分たちのすみかへ帰っていきました。
それからしばらくの間、ポロンのおまじないが効いたのか、誰も独りよがりなお願い事はしなくなりました。
札幌ではいろいろな環境が育ちー
今でも、毎年たくさんの生き物たちが、それぞれの場所で、せいいっぱい命をつないでいます。
ぼくのおまじない、まだ効いていますか?
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