ここから本文です。

更新日:2016年1月6日

他誌投稿

他誌投稿抄録-年報第37号(2010年) 

 

バイオマーカーを用いた幼児における受動喫煙の実態調査―保育園児での検討―

第34回札幌市医師会医学会誌113-114,2009

矢野公一、福士勝、花井潤師、吉永美和、他

尿中コチニンをバイオマーカーとして、家族による保育園児の受動喫煙の実態を明らかにした。父親に比べて母親の喫煙による児へのタバコ曝露の影響がより大きかった。また、屋外での喫煙など児に配慮した家族の喫煙行動によって、児の受動喫煙が軽減されることを示した。児への受動喫煙防止に向けた家族の喫煙に関する啓発活動が重要である。
 

濾紙血の目的外使用に関する説明と同意の書式の標準化に関する研究

平成21年度厚生労働省化学研究費補助金(子ども家庭総合事業)成育疾患のデータベース構築・分析とその情報提供に関する研究 分担研究報告書13-15,2010

芳野 信*1、鈴木智恵子*2、渡辺順子*1、福士 勝、原田正平*3

 

タンデムマスによるマススクリーニングの試験運用を行っている施設で使用中の同意書の書式を分析したところ、現行6疾患に関する説明、検査費用、個人情報の保護の3項目は必要事項との共通認識があると考えられた。いっぽう、タンデムマス検査の対象疾患、新生児マススクリーニング検査の体制に関する説明、濾紙血の長期保存の目的と保存期間に関する説明、検査に関するQ&A、撤回書の添付については多様であり、今後これらについて統一的な記載が必要であると考えられた。

*1久留米大学、*2福岡女学院看護大学、*3国立成育医療センター

 

新技術による新生児マススクリーニング対象疾患の登録・追跡・解析システムの構築に関する研究

平成21年度厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)成育疾患のデータベース構築・分析とその情報提供に関する研究 分担研究報告書82-86,2010

山口清次*1、長谷川有紀*1、小林弘典*1、重松陽介*2、大浦敏博*3、福士 勝、鈴木 健*4、田崎隆二*5

2009年11月までにタンデムマスによる新生児スクリーニングで発見された症例は87例で、発見頻度は9,000人に1人であった。疾患の内訳は有機酸代謝異常症50例、脂肪酸β酸化異常症27例、尿素サイクル異常症10例である。予後が明らかな71例の90%が現在まで正常に発達しており、短期的な予後は非常に良好である。しかし、発見例には軽症例も含まれていることから、今後自然歴を明らかにするための追跡システム構築が強く望まれる。

*1島根大学小児科、*2福井大学看護学科、*3仙台市立病院、*4東京都予防医学協会、*5化学及血清療法研究所

"Water and Public Health(水と公衆衛生)"をテーマに開催?第137回米国公衆衛生協会年次総会に出席して平成21年度地域保健総合推進事業(国際協力事業)「米国保健医療事情調査報告」(その1)

公衆衛生情報4,46-49,2010

古屋 好美*1、矢野 公一、若井 友美*2

地域保健業務において日々体験するさまざまな事象については、関連した事件報道や公表されるデータによって裏づけられ、「わが国の社会は急速に変わりつつある」ことを、認識させられる機会が少なくないと感じています。そうした目まぐるしく変化する社会情勢に対して、他の先進国の地域保健においては、どう対応しているのだろうか、よりよい対応方法はあるのだろうか、と比較調査したいと考えていたところ、平成21年度地域保健総合推進事業において再度、2009年11月8~13日にかけて、米国保健医療事情調査を実施する機会をいただきました。今回は、同年十一11月7~11日に米・ペンシルベニア州フィラデルフィア市で開催された第137回米国公衆衛生協会(APHA)年次総会に出席したほか、調査先として、フィラデルフィア市公衆衛生局(DOPH)、フィラデルフィア小児病院(CHOP)などを訪問しました。今回の報告は、平成21年度の報告であるとともに、これまでの3年間の調査1~4を振り返る総括的な報告となります。今号では、APHA年次総会等のもようについて紹介いたします。

*1山梨県中北保健所長、*2日本公衆衛生協会

 

自動時間分解酵素測定法(AutoDELFIA法)を用いたTSHと17-OHP測定の評価に関する研究

平成21年度厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)「タンデムマス等の新技術を導入した新しい新生児マススクリーニング体制の確立に関する研究」分担研究報告書119-122,2010

穴澤 昭*1、桜井恭子*1、鈴木 健*1、北川照男*1、山上祐次*2、河地 豊*3、大竹治美*4、酒本和也*4、稲岡一考*5、田崎隆二*6、福士 勝

わが国の先天性甲状腺機能低下症と先天性副腎過形成症の新生児スクリーニングでは、それぞれろ紙血中のTSHと17-OHPが測定されており、その測定方法としてELISA法が用いられている。今回、新しい測定法である自動時間分解酵素測定法(AutoDELFIA法;パーキンエルマー社製)を用いて6施設でTSHと17-OHPの同時測定を行い、並行測定したELISA法の測定値と比較検討した。その結果、本法によるTSHと17-OHPの測定値はいずれもELISA法とよく相関し、再現性も良好で、ELISA法で発見された患児を見落とすことなくスクリーニングが可能であることが示唆された。

*1東京都予防医学協会、*2神奈川県予防医学協会、*3愛知県健康づくり振興事業団、*4大阪市環境保健協会、*5大阪府立母子総合医療センター、*6化学及血清療法研究所

 

 

新生児マススクリーニングの新技術開発への濾紙血の利用説明と同意書の標準化にむけての調査報告

平成21年度厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)「タンデムマス等の新技術を導入した新しい新生児マススクリーニング体制の確立に関する研究」分担研究報告書117-118,2010

芳野 信*1、鈴木智恵子*1、渡邊順子*1、福士 勝

タンデムマスによる新生児マススクリーニング検査技術の開発のための検査済み濾紙血の活用(目的外使用)に関する「説明と同意書」の標準化を図る目的で、現在タンデムマスなどの試験研究を実施中の施設でしようされている「説明と同意書」を収集し、提供を受けた11資料につき記載内容の分析を行った。その結果、現行の6疾患に関する説明、検査費用、個人情報に関する情報など基本的な項目は全ての資料で網羅されていたが、新しい対象疾患の選定と説明および検査済み濾紙血の長期保存に関する記載については今後、検討の余地がある。

 *1久留米大学小児科

 

 

タンデムマスによる新生児スクリーニングにおけるCDC精度管理検体を用いた内部精度管理について

平成21年度厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)「タンデムマス等の新技術を導入した新しい新生児マススクリーニング体制の確立に関する研究」分担研究報告書107-110,2010

花井潤師、野町祥介、雨瀧由佳、福士 勝、矢野公一

札幌市で実施しているタンデム質量分析器(以下、タンデムマス)を用いる代謝異常スクリーニングにおいて、これまで行ってきた新生児スクリーニングで導入している内部精度管理方法を参考に、タンデムマススクリーニングで必要とされる内部精度管理システムを構築し、その有用性を検討した。内部精度管理システムは、毎アッセイ測定している米国疾病予防管理センター(CDC)の4濃度に調整されたQuality Control用検体の測定値の他、1アッセイ内の新生児初回検体の測定値平均、安定同位体内標物質のイオン強度平均を指標として使用し、それらの変動をグラフ化することで、目視確認できるものとした。その結果、各精度管理指標により、各物質のばらつきの傾向や特徴などが把握でき、タンデム検査のための内部精度管理システムとしてきわめて有用であった。今後、タンデムマススクリーニング実施施設において、内部標準精度管理指標として、スクリーニングに積極的に導入すべきと考える。

 

 

タンデムマススクリーニングにおける精度管理検体の作製

平成21年度厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)「タンデムマス等の新技術を導入した新しい新生児マススクリーニング体制の確立に関する研究」分担研究報告書103-106,2010

渡辺倫子*1、木村委美*1、鈴木恵美子*1、野町祥介、福士 勝、石毛信之*2、鈴木 健*2、木下洋子*3、山上祐次*3、稲岡一考*4、酒本和也*5、重松陽介*6、原田正平*7他

タンデムマスによる新生児マススクリーニングの精度管理に対応するため、C0,C2,C3,C4,C5,C5DC,C6,C8,C10,C12,C14,C16の12種類のアシルカルニチンを添加した精度管理検体を作製した。13施設で測定した結果、一部の物質で添加量に対して、測定平均値が±25%を越えていたが,Iその他はおおむね良好な結果だった。また-20℃保管では、400日経た検体でも測定値に変化はなかった。

*1日本公衆衛生協会、*2東京都予防医学協会、*3神奈川県予防医学協会、*4大阪府母子保健総合医療センター、*5大阪市環境保健協会、*6福井大学、*7国立成育医療センター

 

札幌市におけるタンデムマスによる新生児マススクリーニング:パイロットスタディ4年7か月の実績とこれから

平成21年度厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)「タンデムマス等の新技術を導入した新しい新生児マススクリーニング体制の確立に関する研究」分担研究報告書68-70,2010

野町祥介、雨瀧由佳、花井潤師、福士 勝、矢野公一、窪田 満*1、長尾雅悦*2

札幌市では2005年4月から、タンデムマスによる新生児マス・スクリーニングを研究的に開始した。2009年10月まで、73,665人(希望率98.7%)を検査し、221例(0.30%)を要再採血、18例を要精査とし、精査となった18例のうち10例を患者と診断した。患者の内訳はプロピオン酸血症5例、カルニチントランスポータ異常症2例、グルタル酸尿症2.型1例、MCAD欠損症1例、VLCAD欠損症1例であった。うち1例は亡くなったが、他の9例は治療により良好に経過している。これまで、尿中有機酸検査を中心とした補助診断体制の構築、倫理環境の整備、追跡調査体制の整備等を並行して検討してきたが、今後は、加えて事業として検査レベルを維持する恒常的なシステムの構築と、追跡調査による有用性の評価の継続が必要である。

*1手稲渓仁会病院小児科、*2国立西札幌病院小児科

 

新生児ろ紙血液のグリコサミノグリカンの測定と新生児スクリーニングの可能性

平成21年度厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)「タンデムマス等の新技術を導入した新しい新生児マススクリーニング体制の確立に関する研究」分担研究報告書53-55,2010

木田和宏*1、窪田 満*2、藤井 正*3、小熊敏弘*4、野町祥介、花井潤師、福士 勝

我々は、MS/MSを用いて新生児ろ紙血中のGAG量測定を試みている。KS,HS,DSのそれぞれについて測定した結果を報告する。出生体重別での比較ではGAG量にはっきりとした差はなかった。患者ろ紙血とも比較し、明らかな差がみられたが、新生児期の患者検体との更なる比較は必要である。しかし、検体採取法、処理等についてなお検討すべき点はあり、これらも併せて報告する。

*1北海道大学大学院小児科学分野、*2手稲渓仁会病院小児科、*3札幌イムノダイアグノスティックラボラトリー、*4第一三共株式会社薬物動態研究所

 

タンデムマスによる新生児マススクリーニング体制の検討-タンデムマスによる新生児マススクリーニングの検査費用の低減化と体制整備に向けて-

平成21年度厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)「タンデムマス等の新技術を導入した新しい新生児マススクリーニング体制の確立に関する研究」分担研究報告書43-45,2010

福士 勝、山口清次*1

タンデムマスによる新生児マススクリーニングを導入する場合、現行のマススクリーニングシステム体制に悪影響を及ぼすことがないようにするために、全額公費負担または一部受益者負担のいずれ場合でも、原則として都道府県・政令指定都市が行政の母子保健サービスとして実施すべきである。我々の試算によると、現行スクリーニングと同時に同一施設で年間5万検体の検査を実施すれば、現行の標準検査単価2,220円/1検体と比較して100円強の追加費用で実施可能であると推定された。従ってタンデムマススクリーニングをできるだけ低コストで実施するためには、検査機関の集約化が重要となる。一方、現行マススクリーニング検査実施施設でタンデムマスによる検査ができないためにタンデムマススクリーニングだけを外部の検査施設に依頼する場合でも、タンデムマス検査施設で年間検査数が年間5万検体以上検査するならば、1検体あたり約600円の増額で実施可能である。この場合は検査結果の迅速な提供のため採血用ろ紙の様式の変更とろ紙血液検体の送付システムの変更が必要となる。
*1島根大学医学部小児科

 

Elevated Free Thyroxine Levels Detected by aNeonatalScreening System

Pediatric Research 66,312-316,2009

Toshihiro Tajima*1, Wakako Jo*1, Kaori Fujikura, Masaru Fukushi, and Kenji Fujieda*2

*1 Hokkaido University School of Medicine
*2 Asahikawa Medical College School of Medicine

 

Prevalence of selected disorders of inborn errors ofmetabolism in suspected cases at a tertiary care hospital in Karachi

Journal Pakistan Medical Association 59,815-819,2009

Hema Satwani*1,Jamal Raza*1,Junji Hanai,Shosuke Nomachi

To study the prevalence of selected disorders of inborn errors of metabolism at a tertiary care hospital in Karachi by performing selective screening of high risk clinically suspected individuals. Methods: Cross sectional comparative study, was done at the Paediatric Endocrine Unit 2 of National Institute of Child Health Karachi in collaboration with Sapporo City Institute of Public Health, Japan. Sixty-two children age < 1 month-10 years meeting the inclusion criteria (Undiagnosed family history of similar illness or deaths, history of recurrent episodes of severe or persistent vomiting for which no infection or surgical cause was found and history of undiagnosed neurological symptoms and developmental delay) were enrolled in the study. Routine workup of inborn errors of metabolism was done in each child and their dried blood samples (DBS) and dried urine samples (DUS) were send to IEM Selective Screening Unit Japan. SPSS version 10 was used to derive results and p-value of

*1 National Institute of Child Health, Karachi

 

 Novel CYP17A1 mutation in a Japanese patient withcombined 17α-hydroxylase/17,20-lyase deficiency

Metabolism 59,275-278,2009

Noriyuki Katsumata*1, Eishin Ogawa*2, Ikuma Fujiwara*2, Kaori Fujikura

Combined 17α-hydroxylase/17,20-lyase deficiency is caused by a defect of P450c17 that catalyzes both 17α-hydroxylase and 17,20-lyase reactions in adrenal glands and gonads. In the present study, we analyzed the CYP17A1 gene in a Japanese girl with 17α-hydroxylase/17,20-lyase deficiency. The patient was referred to us for clitoromegaly at the age of 3 years. The karyotype was 46,XY. The patient was diagnosed as having 17α-hydroxylase/17,20-lyase deficiency based on the clinical and laboratory findings. Analysis of the CYP17A1 gene revealed a compound heterozygous mutation. One mutation was a deletion of codon 53 or 54 encoding Phe (TTC) in exon 1 (ΔF54) on a maternal allele, which has been previously shown to partially abolish both 17α-hydroxylase and 17,20-lyase activities. The other was a novel missense mutation resulting in a substitution of Asn (AAC) for His (CAC) at codon 373 in exon 6 (H373N) on a paternal allele. Functional expression study demonstrated that the H373N mutation almost completely eliminates enzymatic activity. Previous studies have demonstrated that replacement of histidine by leucine at position 373 causes complete loss of both 17α-hydroxylase and 17,20-lyase activities with a defect in heme binding due to a global alteration of P450c17 structure, indicating the importance of H373 for P450c17 structure and function. Together, these results indicate that the patient is a compound heterozygote for the ΔF54 and H383N mutations and that these mutations inactivate both 17α-hydroxylase and 17,20-lyase activities and give rise to clinically manifest combined 17α-hydroxylase/17,20-lyase deficiency.

*1 Department of Endocrinology and Metabolism, National Research Institute for Child Health and Development
*2 Department of Pediatrics, Tohoku University School of Medicine

 

Spondylocostal Dysostosis Associated with Methylmalonic Aciduria

Genetic Testing and Molecular Biomarkers 13,181-183,2009

Honjo RS*1,Casella EB*1 Vieira MA*1, Bertola DR*1, Albano LMJ*1, Oliveira LA*1, Shosuke Nomachi, Junji Hanai, Benoist JF*2, Ellard S*2, Young E*3, Kim CA*1

Spondylocostal dysostosis (SCD) is a genetic disorder characterized by vertebral segmentation and formation defects associated with changes of the ribs. Autosomal dominant and recessive modes of inheritance have been reported. Methylmalonic aciduria (MMA) is an inborn error of propionate or cobalamin metabolism. It is an autosomal recessive disorder and one of the most frequent forms of branched-chain organic acidurias. Here we report on a case of a Brazilian boy with both diseases. As we know, it is the first case in the literature with the occurrence of both SCD and MMA-the first a skeletal disease and the latter an inborn error of metabolism

*1 Instituto da Crianca, University of Sao Paulo, Sao Paulo, Brazil
*2 Hopital Robert Debre, Paris, France
*3 Royal Devon and Exeter Foundation Trust, Exeter, United Kingdom

 

北海道・東北・新潟ブロックにおけるパルスフィールドゲル電気泳動システム(PFGE)の精度管理方法と検体の輸送方法の検討

厚生科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業)「広域における食品由来感染症を迅速に探知するために必要な情報に関する研究」、平成20年度分担研究報告書、27-35,2009

清水俊一*1、山口敬治*1、森本 洋*1、駒込理佳*1、和栗 敦*2、八柳 潤*3、藤井伸一郎*4、高橋雅輝*4、谷津壽郎*5、金子紀子*6、菅野奈美*7、加藤美和子*8、廣地 敬、沼田 昇*9

PFGEによるパルスネットの構築のためには、各検査施設における精度管理が重要となる。精度管理方法としては、共通の菌株を各検査施設に送付してPFGEを行い、その結果を集計するという方法が一般的である。しかし、病原菌の輸送には多くのリスクが伴う。今回、北海道・東北・新潟ブロックにおいて、PFGEの精度管理方法の検討としてプラグの送付による精度管理を試みた。プラグは通常の郵便で各施設に発送した。到着までの日数は最長が3 日で、プラグの破損その他は認められず、泳動結果への影響も認められなかった。通常郵便での輸送の場合、輸送コストの軽減につながり、また、発送後3日程度で到着するため、定期的な精度管理のための送付方法として有用であると思われた。制限酵素はメーカー、量、反応時間で泳動像への影響は認められなかったが、2施設において高分子領域に薄いバンドが多数認められ、制限酵素の不良が疑われた。クラスター解析ソフトを保有する9施設での解析結果は同一菌株をそれぞれ同一のクラスターに分類できたが、菌株間の相同性では、菌株A、Bと菌株Cを別のクラスターに分類できたものの、菌株Aと菌株Bを別のクラスターに分類できた施設は3施設であった。これらのことからプラグの送付による精度管理方法は、制限酵素処理、泳動、分析の部分における各施設間の格差を把握する上でも有用であった。

*1北海道立衛生研究所、*2青森県環境保健センター、*3秋田県健康環境センター、*4岩手県環境保健研究センター、*5宮城県保健環境センター、*6山形県衛生研究所、*7福島県衛生研究所、*8新潟県保健環境科学研究所、*9仙台市衛生研究所

 

札幌市における新型インフルエンザA/H1N1sw1初期対応と今後の変異・拡大への検討について

平成21年度厚生科学研究費補助金(厚生労働省科学特別研究事業)「地方衛生研究所における検査能力の検証と今後の在り方検討」、分担研究報告書、2010

矢野公一、田中智之*1、宮村達男*2、菊地正幸、村椿絵美、伊藤はるみ、扇谷陽子、水嶋好清、小田切孝人*2、横澤真喜子*3、高橋豊*4、大島美保*5

新型インフルエンザの世界的な流行が起こり、札幌市における検査、調査についての準備及び初期対応について感染症対策担当部局である保健所と連携をとり、対策においても検討や助言を行い、健康危機に対応した。検査法については、発生早期に検査可能となり、緊急性や検体数にあわせた組織体制で対応することができた。保健所の発熱相談センターの一元管理体制としたが、国からの通知の変更で札幌市の対策もたびたび変更する必要があり、地域の実情と必ずしも一致しないこともあったが、積極的な対策によって初期、蔓延期に対応できたものと思われる。
緊急PCR検査と、培養による定点ウイルスサーベイランスを並行して実施することで、迅速に診断しなければならない個別事例と全体の感染状況が把握できるウイルスサーベイランスにより、行政の政策判断に科学的根拠を提供することができた。また、タミフル耐性解析も積極的に実施し、416検体中2株の耐性株を検出した。さらに、新型インフルエンザに対する血清HI抗体価調査を行い、患者の抗体獲得の状況や、ワクチンの評価を行った。

*1堺市衛生研究所、*2国立感染症研究所、*3札幌市保健所、*4KKR札幌医療センター、*5札幌徳洲会病院

 

 

地方衛生研究所における検査能力の検証と今後の在り方検討

平成21年度厚生科学研究費補助金(厚生労働省科学特別研究事業)「新型インフルエンザ(インフルエンザA/H1N1sw1)発生への検査、調査についての準備及び初期対応と、病原体検査や感染者に関する今後の国と地方との連携強化及び対応能力強化に関する緊急研究」、研究分担者総括報告書、2010

田中智之*1、矢野公一、斎藤博之*2、中西好子*3、倉田毅*4、皆川洋子*5、高橋和郎*6、田中敏嗣*7、北堀吉映*8、調恒明*9、平良勝也*10

今回の新型インフルエンザA/H1N1sw1パンデミックに対して、地方衛生研究所、国立感染症研究所は協働して迅速に対応した。メキシコでの発生情報入手から間髪を入れず遺伝子検査試薬配布による診断検査体制の確立、検体取り扱い施設基準の見直し、遺伝子検査の精度向上のための様々な情報提供が行われた。このスクラムを組んだ臨戦態勢が本邦における新型インフルエンザ感染対策に大きく貢献した。
診断検査を担う地方衛生研究所はこのような連携を背景に、新型インフルエンザ全数把握対応時には、膨大な数の臨床検体を処理することが出来た。サーベイランス体制への移行後においても、個々の事例を詳しく解析し、今後の感染対策の資料に供した。一方、アンケート調査から、各自治体では検査機器整備、検査人員体制の充実等に迅速な対応がなされたことが判明した。
健康危機管理において国立感染症研究所の役割、地方衛生研究所の取り組みが効果的に機能し、自治体に大きな貢献を果たした。今後とも厚生労働省、国立感染症研究所および地方衛生研究所等それぞれの役割と連携システムの再構築とその位置づけの法制化等により各機関、特に地方衛生研究所の役割をより明確にすることが不可欠な課題である。

*1堺市衛生研究所、*2秋田県健康環境センター、*3東京都健康安全研究センター、*4富山県衛生研究所、*5愛知県衛生研究所、*6大阪府立公衆衛生研究所、*7神戸市環境保健研究所、*8奈良県保健環境研究センター、*9山口県環境保健センター、*10沖縄県衛生環境研究所

 

LCRを用いた簡便なタミフル耐性鑑別法の開発

平成21年度厚生科学研究費補助金(厚生労働省科学特別研究事業)「地方衛生研究所における検査能力の検証と今後の在り方検討」、分担研究報告書、2010

斎藤博之*1、田中智之*2、矢野公一、中西好子*3、倉田毅*4、皆川洋子*5、北堀吉映*6、高橋和郎*7、田中敏嗣*8、調恒明*9、平良勝也*10

新型インフルエンザ対策の一環として行われているウイルス学的サーベイランスにおいて、タミフル耐性を簡便な手順で鑑別できる方法を開発した。本法はリガーゼ連鎖反応(LCR)を基本原理とし、Aソ連型と新型のタミフル感受性株と耐性株、合計4種類のノイラミニダーゼ(NA)遺伝子を鑑別できるようにデザインした。複数の地方衛生研究所で実証評価試験を行ったところ、Aソ連型95検体、新型158検体においてLCRによる鑑別結果はシークエンス解析結果と完全に一致し、簡便法として有用であることが示された。またLCRの反応系はどのような一塩基置換に対しても焦点を当ててデザインできるため、インフルエンザのタミフル耐性問題以外にも幅広く応用が可能であると考えられた。

*1秋田県健康環境センター、*2堺市衛生研究所、*3東京都健康安全研究センター、*4富山県衛生研究所、*5愛知県衛生研究所、*6奈良県保健環境研究センター、*7大阪府立公衆衛生研究所、*8神戸市環境保健研究所、*9山口県環境保健センター、*10沖縄県衛生環境研究所

 

検体調整法およびスクリーニング法の普及、バイオテロ検査マニュアルの作製と検査担当者の育成

平成21年度厚生科学研究費補助金(新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業)「テロの可能性のある病原体等の早期検知、迅速診断法の開発とその評価法の確立に関わる研究」、平成21年度分担研究報告書、87-99,2010

田中智之*1、矢野公一、岡田峰幸*2、黒木俊郎*3、倉田毅*4、山下育孝*5、吾郷昌信*6、吉田菊喜*7、皆川洋子*8、田中敏嗣*9、片野晴隆*10、三好龍也*1

バイオテロ対象特定病原体の検出法の普及と検査担当者の育成を目的とした「定量的PCR法を用いたオルソポックスウイルスの検出法」および「定量的PCR法を用いたバイオテロ特定病原体(ウイルス)の網羅的スクリーニング検査検出キット」の評価を行った。評価機関は全国10地衛研である。その結果、期待された病原体遺伝子の検出は可能であった。しかし、様々な検討課題およびキット等の改良課題が浮上し、今後の精度高いキットの改良、全国地衛研への普及に向けた重要な課題が提案された。さらに、バイオテロ特定病原細菌についての検出キットの構築・評価、検査マニュアル作製が次年度の課題として残された。

*1堺市衛生研究所、*2千葉県衛生研究所、*3神奈川県衛生研究所、*4富山県衛生研究所、*5愛媛県立衛生環境研究所、*6長崎県環境保健研究センター、*7仙台市衛生研究所、*8愛知県衛生研究所、*9神戸市環境保健研究所、*10感染研感染病理部

 

北海道における新型インフルエンザA(H1N1)の発生状況について-2009年4~7月-

北海道立衛生研究所報59,21-25,2009

中野道晴*1、横山裕之*1、桂英二*1、長野秀樹*1、駒込理佳*1、井上真紀*1、工藤伸一*1、岡野素彦*1、柴崎和誠*1、山口亮*1、菊地正幸、村椿絵美、伊藤はるみ、扇谷陽子、水嶋好清、矢野公一、長井忠則*1

2009年4月27日、WHOは、米国とメキシコで感染が拡大し、その後、カナダへ拡がりを見せたブタ由来インフルエンザA/H1N1を国際的な公衆衛生上の危機として、パンデミック発生危険度をフェーズ4に引き上げた(以後、4月29日;フェーズ5、6月11日;フェーズ6)。なお、WHOの呼称は、その後インフルエンザA(H1N1)、パンデミック(H1N1)2009と変更された。本稿では、わが国の感染症法施行規則に従い、「新型インフルエンザ」を使用する。
厚生労働省は、4月28日、この新型インフルエンザを感染症法に規定する新型インフルエンザ等感染症と位置づけるとともに、次のような対策を発表した。即ち、適切な情報の収集・提供、検疫、サーベイランス及び積極的疫学調査体制の強化、発熱相談センターの設置、医療体制の確認等を指示したもので、空港検疫の強化等国内侵入阻止を図るものが含まれた。その後、関西地方等の感染拡大があり、国内における感染動向の把握を中心とすることとなった。
北海道では、4月27日に第1回北海道感染症危機管理対策本部会議を開催した(第2回;5月19日、第3回;6月12日)。医療機関及び道民への情報提供、道庁健康安全室、札幌市保健所及び道立保健所に発熱相談センターを設置(4月26日から、道立保健所;9時00分~21時00分、札幌市保健センター;平日9時00分~17時00分、道庁健康安全室及び札幌市保健所は24時間対応)、また道内57ヶ所の医療機関に発熱外来を設置する等の対策を行った。
4月29日に厚生労働省から新型インフルエンザの症例定義及び届出様式が通知され、医療機関からの患者報告を受けた保健所は、直ちに厚生労働省及び中央感染症情報センターに届出を行うこととされた。ここで10日以内に新型インフルエンザ患者と濃厚接触あるいは発生国または地域に滞在、旅行したもので、38℃以上の発熱、急性呼吸器症状があり、迅速診断キットでA型陽性(ただし,陰性であっても医師が臨床的に感染を強く疑う場合を含む)の患者を疑似症患者とした。また、リアルタイムRT-PCR等の遺伝子検査により検査診断された患者を確定患者として届出を行うこととされた。これにより新型インフルエンザは、遺伝子検査で診断を確定し、陽性例を届出するというサーベイランス体制となった。5月1日には、都道府県及び保健所設置市に対して新型インフルエンザの速やかな全体像の把握のために積極的疫学調査を実施し、その結果を中央感染症情報センターの「疑い症例調査支援システム」に入力することにより、情報の共有化を図ることが指示された。症例定義は、5月9日に、保健所から厚生労働省とともに県・市の本庁に報告するよう変更された。5月13日には発症前日からの感染可能期間が10日以内から7日以内に変更され、5月22日には新型インフルエンザ発生国または地域への滞在、渡航歴がない場合も擬似症患者とする等と短期間に変更が繰り返された。その結果、相談窓口等での対応、確定診断検査の実施判断等に混乱が生じた。本稿では、感染の拡大に伴い、個々の感染事例を把握するサーベイランスから、大規模な感染拡大につながる集団感染事例の把握を目的とするクラスターサーベイランス等の体制に変更される7月24日までの北海道立衛生研究所および札幌市衛生研究所で実施した検査対応を中心に報告する。

*1北海道立衛生研究所

 

2009/10シーズン初のインフルエンザウイルスAH3亜型分離-札幌市

病原微生物検出情報、30(11),297-298,2009

村椿絵美、菊地正幸、扇谷陽子、伊藤はるみ、水嶋好清、矢野公一

感染症発生動向調査病原体検査の検体として札幌市衛生研究所に搬入された、市内の定点医療機関である2カ所の小児科医院において9月初旬に採取された患者2名からの咽頭ぬぐい液をMDCK細胞に接種し、2検体からインフルエンザウイルスが分離された。分離されたウイルス2株について、国立感染症研究所から配布された2009/10シーズン新型インフルエンザAH1pdmウイルス同定用キットを用いて赤血球凝集抑制(HI)試験(0.5%七面鳥赤血球を使用)を行った結果、抗A/California/7/2009(H1N1)pdm(ホモ価2,560)に対して<10であった。そこで、2008/09シーズン用キットを用いてHI試験(0.75%モルモット赤血球を使用)を行ったところ、2株とも抗A/Uruguay/716/2007 (ホモ価1,280)に対しHI価80、抗A/Brisbane/59/2007(同1,280)、抗B/Brisbane/3/2007(同2,560))および抗B/Malaysia/2506/2004(同2,560)に対しては<10であり、AH3亜型と同定された。
今回分離したウイルスのHA抗原性は、HI試験の結果からは2008/09シーズンワクチン株と抗原性が異なってきていると考えられる。このため、今後、国立感染症研究所から配布される予定である2009/10シーズン用のキットを用いて赤血球凝集抑制(HI)試験を行い、抗原性を比較していく必要がある。札幌市における2008/09シーズンのインフルエンザAH3亜型流行は、例年に比較して小規模であった。一方、新型インフルエンザが発生して以来、AH1pdmが主流を占めているが、中国などではAH3亜型も同時流行しているので、本亜型の発生動向にも注目していきたい。

 

市販食品における鞘翅目害虫抵抗性トウモロコシMON863系統の混入状況について

食品衛生学雑誌50(3),140-145,2009

扇谷陽子、酒井昌昭、宮下妙子、矢野公一

平成14年に安全性審査が終了した鞘翅目害虫抵抗性トウモロコシMON863系統(以下、MON863と略。厚生労働省が通知した遺伝子組換えトウモロコシの含有率を調べるための検査方法の対象となっていない。)の加工食品における意図しない混入状況について調査した。この結果、39製品中少なくとも7製品(18%)から検出されることが判明した。今後、遺伝子組換え作物の含有率を調べる検査において、MON863を対象に加える必要があると考える。
 

コチニール色素中の主要アレルゲンタンパク質の解析

アレルギーの臨床 29(8),27-32,2009

扇谷陽子、穐山浩*1、山川有子*2

コチニール色素は、雌のエンジムシを原料とする赤色色素で、食品や化粧品等に使用されている。一方、この色素は色素含有食品の摂取による食物アレルギーとして重篤な症状を引き起こすことが報告されている。そのアレルゲンは、色素本体のカルミン酸ではなく、原料由来の共雑タンパク質によることが示唆されているが、その同定には至っていない。そこで、この色素含有の食品に対して即時型アレルギー症状を呈した、3人の患者の血清中IgEと反応する夾雑アレルゲンタンパク質の、同定を試みた。エンジムシ虫体から、約40kDaのタンパク質を抽出・精製後、N末端および内部配列を解析した。さらに、得られた情報を基に、cDNAクローニングを行った。このようにして得られたcDNAを用いて発現させたタンパク質は、患者血清との免疫反応性を示した。以上の結果から、当該夾雑タンパク質がコチニール色素中の主要アレルゲンであることが示唆された。また、このタンパク質のアミノ酸配列は、NCBIのBLAST-Pでの相同性検索の結果、ハチのアレルゲンであるホスホリパーゼA1関連タンパク質と相同性が高いことが示された。

 *1 国立医薬品食品衛生研究所、*2 山川皮膚科

前のページへ戻る

 

このページについてのお問い合わせ

札幌市保健福祉局衛生研究所保健科学課

〒003-8505 札幌市白石区菊水9条1丁目5-22

電話番号:011-841-2341

ファクス番号:011-841-7073