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更新日:2024年4月10日

「オランウータンとボルネオの森」2024年5月下旬オープン!

2023年10月末に完成しました、2024年5月下旬にオープンを予定しています。

屋内飼育環境

屋内飼育環境とは

現在、動物園における動物福祉向上の取り組みは最重要事項の一つです。
その実現には、実際に動物が暮らす質の高い施設と設備、そして飼育担当者による日々のケアが両輪となってバランス良く提供されることが重要です。
動物園で暮らす動物が、最も長い時間を過ごすのは「屋内飼育環境」です。
いくら広大で立派な屋外放飼場を作ったとしても、動物がそこで過ごすのは1日数時間であり、一生の多くの時間を、屋内で過ごすのです。
屋内飼育環境は、夜間や冬季のために限らず、近年の過酷な夏季の高温を回避するためにも必須と言えます。
つまり、動物園における動物福祉の向上とは、屋内飼育環境の改善、といっても過言ではないのです。今後屋内飼育環境についての議論は益々重要な事項になってくると考えます。
円山動物園は寒冷地ということもありますが、歴史的に屋外展示場に連結する屋内展示場の設置を重要視し、多くの屋内飼育環境を建設してきました。
新しいオランウータンの施設では、集大成としてこれまでの知見を踏まえ、必要な専門性をフルに活用し、設計に挑みました。当然、完璧ではありませんが、現状の制約の中で、最大限の質の高い屋内飼育環境が実現できたと思います。
動物福祉の向上には、まずは適切な住まいの提供が大前提であり、そこに飼育担当者の細やかなケアが合わさることで初めて達成できると考えます。

室内気候のデザイン

飼育環境のデザインには、目に見える領域と、目に見えない領域があります。目に見える領域とは、動物が暮らす建築であり、建築意匠、構造、ランドスケープなどが含まれ、目に見えない領域とは、温湿度、光、通気、水などの環境要素のデザインである建築環境で、さらに飼育担当者によるケアや動物との相互作用などもここに含まれます。
飼育環境をデザインするには、これら様々な専門性がバランス良く機能しなくてはなりません。特に、質の高い屋内飼育環境の実現には、目に見えない領域に注視し、動物種の生息地の気候に配慮した適切な「室内気候」をデザインしていく必要があります。
では、質の高い室内気候とはどのような環境なのでしょうか。それを定義するのは簡単ではありません。動物に必要な室内気候とは、温度が何度、湿度が何%、のような一定の数値ではなく、熱、光、水分、通気など環境要素に勾配・強弱があり、それが季節性の中で常時変動する流動的な気候デザインです。
オランウータンの生息地の気候データは入手できますが、その数値データとオランウータンが実際に選択し、身を置く場所の気候は、全く異なります。
飼育環境でデザインするのは、オランウータンが選択しているであろう、それぞれの異なる転々とした「微気候」なのです。
つまり、室内気候とは室内に散りばめられた「微気候」の集合体であり、動物の飼育環境においては、それら複数の微気候を意図的にデザインすることが必要です。

飼育環境1

(提供:札幌市立大学デザイン学部 齊藤 雅也教授)

しかし、実際の建築設計には、何度、何%という一定の数値を求められます。数値がないと計算ができず暖房設備などの設計ができないからです。建築設計のフレームは、ヒトを基準としたものですから、そもそも動物の飼育環境デザインには、マッチしません。そのため、そこを理解し踏まえた上で、動物に必要な環境要素の具体的なデザイン提案ができる専門性が不可欠となるのです。そこには、建築領域と動物領域を結べる翻訳者のような役割が必要となります。
新しいオランウータンの施設では、高気密、高断熱の建築と性能の高い放射暖房、計算された自然採光と補助的に太陽光に近い人工灯も使用されています。さらに、降雨装置も設置され、定期的に館内全体にスコールが降ります。これはヒトを基準とした設計ではなく、まさに動物のための設計なのです。

植物の生育を、屋内飼育環境の質を測る指標とする

新しいオランウータンの施設には、生息地の植物が多く植えられています。これは、展示として来園者にオランウータンの生息環境を伝えるツールでもあるのですが、他に、質の高い屋内飼育環境を実現させるための重要な機能も果たしているのです。
この飼育施設の室内気候は、オランウータンではなく、植物の視点でデザインされています。オランウータンやヒトは環境適応性が高く、不適切な環境下でも耐え、長生きできることから、これら強者の視点で室内気候を設計しても、良好な動物福祉を提供できる環境条件は導き出すことができません。
反面、植物は環境適応性が低く、不適切な屋内環境下ではすぐに枯れます。オランウータンは生息地で植物がある環境で暮らしているので、生息地の植物が自生できない環境は、オランウータンにとっても質の低いものとなってしまします。

飼育環境2

そのため、オランウータンを取り巻く生態系において、弱者である植物が生育できる屋内飼育環境の提供こそが、オランウータンにとっての良い環境になると考えたのです。
屋内飼育環境下で植物を生育させるには、熱、光、通気、水、土壌といった自然を構成する要素が、屋内でも機能するよう綿密な設計が必要となります。その設計プロセスこそが、植物の視点であり、それを通すことで、動物視点では表面化できない様々な環境要素の詳細を、導き出すことができるのです。
植物は、屋内飼育環境の質を測る指標となります。植物の自活的生育が、オランウータンの福祉向上に直結する適切な微気候・室内気候の提供を約束しているのです。

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