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更新日:2021年3月29日

札幌市衛生研究所-学会発表(2020)

学会発表要旨

タンデムマス検査におけるロイシン内部標準物質の異常値について

第46回 日本マススクリーニング学会

2019年11月 沖縄県

石川貴雄、手塚美智子、吉永美和、野町祥介、東田恭明、三觜 雄

【目的・経緯】
タンデムマス検査検体の一部に、ロイシン内部標準物質(Leu IS)が異常高値を示し、ロイシン濃度が本来の値よりも低く算出されてしまうものがあることが判明した。これは偽陰性に繋がり得る現象と考えられたため、その原因を究明し、対策を講じることを目的として検討を行ったので報告したい。

【方法】
1: 当所測定の過去検体から同様の現象が疑われる検体を抽出し、医療機関、発生率等の規則性を検討した。
2: 溶媒による抽出条件及び採血部分とろ紙部分のスキャン測定等を組み合わせ、原因物質の推定を試みた。
3: カラムにより原因物質と内部標準物質を分離し、ロイシンの定量が可能となるか検討した。
4: 原因物質の利用用途から、混入要因として「ワックス掛け」が想定されたことから、再現試験を行った。また、直近で本現象が発生した医療機関へ電話による確認を行った。
なお、技術的検討に関しては、検体測定に使用している島津製作所製LC-MS/MS-8050を用いた。

【結果】
1: 2018年度検体の再確認により同様の現象が108件認められ、発生率は凡そ0.66%であった。また、発生医療機関の特定性は認められなかった。ただし、一部医療機関検体については発生時期に偏りが認められた。
2: 溶媒のみを用いた抽出条件においてもLeu ISとしてシグナルが検出された。このことから、何らかの物質の混入が原因であると考えられた。また、採血部分以外からの測定においてもLeu ISとしてシグナルが検出された。このことから、ろ紙全体に混入物質が存在していると考えられ、状況から採血時以外の汚染が推測された。各種スキャン測定より、原因物質を「ジエチレングリコールモノエチルエーテル(DEGMEE)」と推定した。
3: 当所において、カラム分離を用いたアミノ酸一斉分析法を既に開発しており、当該系によって原因物質とLeu ISを分離可能であるか検証したところ、それぞれ異なる溶出時間に検出されたことから分離可能かつ定量可能であると判断した。
4: 机上にろ紙を静置し、ワックス掛け後測定したところ、Leu ISとしてシグナルを検出した。また、同時にビニール袋による保護下で静置したろ紙はそのシグナル値が1/10程度まで低下していた。なお、電話による確認によって、混入検体の採血日に病棟内ワックス掛けが行われたことが判明した。

【考察】
原因物質と推定したDEGMEEは、Leu IS測定に用いているm/zと同一フラグメントを発生させるためLeu IS測定値高値に繋がると推測され、他の指標群について影響はほとんどないものと考えられた。混入要因としては採血時以外の汚染として、医療機関のワックス掛けによる影響を第一候補と推定し、再現試験及び電話確認の結果はそれを強く示唆していると考えられた。このことは検査機関におけるろ紙の保管に始まり、医療機関における保管から採血、乾燥を経て検査機関での分析に至るまで、一連の流れにおいて適切なろ紙管理を行うことの重要性を示すものと考えられる。また、本事例を通じて、検査機関における精度管理の一環として、内部標準物質のシグナル強度について日常から確認することの重要性が併せて示されたものと考えている。


LC-MS/MSによるCAHスクリーニングにおける21-OHD以外の2症例

第46回 日本マススクリーニング学会

2019年11月 沖縄県

阿部正太郎、藤倉かおり、山岸卓弥、野町祥介、東田恭明、三觜 雄、中村明枝*1、鎌崎穂高*2、石井 玲*2、小林良二*3

【背景】
先天性副腎過形成症(CAH)は副腎における常染色体劣性遺伝疾患群の総称であり、コルチゾールの分泌不全を起こす。札幌市におけるCAHスクリーニングでは、CAHのうち最も高頻度である21-水酸化酵素欠損症(21-OHD)をターゲットとし、17-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)を含む5種のステロイドを測定している。21-OHD以外のCAHについては現在対象とはしておらず、知見も少ないが、特定の項目が著明高値を示す等、疾患を示唆するケースがあった。今回、21-OHD以外のCAH疑い例を経験したので報告したい。

【症例1】
2019年11月現在1歳1か月女児。日齢5で新生児スクリーニング全項目について正常判定。ダウン症及び白血病により転院し、転院先の医療機関にて、医師判断により日齢31で2回目採血を行ったところ、先天性甲状腺機能低下症検査でTSH 13.8μU/mL blood,FT4 0.90 ng/dL serumとなり精密検査判定であった。一方、CAH検査は正常判定となったが、11-デオキシコルチゾール(11-DOF) 22.8 ng/mL bloodと高値であったため、医療機関へ再度検体提出を依頼した。日齢51でTSH 2.2μU/mL、FT4 1.28 ng/dLと、甲状腺に関する数値は正常化したが、11-DOF 83.6 ng/mLと著明高値のため、11β-水酸化酵素欠損症(11-OHD)の可能性を疑い、LC-MS/MSを用いて11-OHDの指標となる11-デオキシコルチコステロン(DOC)を測定したが、予想に反し低値であった。その後、当該児が白血病の治療で内服していた抗真菌薬の11β-水酸化酵素阻害作用が11-DOF高値の原因となっていたことが疑われ、内服中止後の検体で11-DOFの低下を確認した。

【症例2】
2019年11月現在1歳女児。日齢5で17-OHP 3.9 ng/mL bloodとやや高値であったが、11-DOF/17-OHP比(11/17比)がカットオフ0.2未満に対し0.412、(17-OHP+4-アンドロステンジオン)/コルチゾール値(RatioⅠ)がカットオフ0.1以上に対し0.13であったため、21-OHDをターゲットとした通常の運用においては正常判定であった。antley bixler症候群で入院中であるため、医師判断で日齢14にて2回目採血を実施。17-OHP 5.1 ng/mLと上昇を認め、11/17比、RatioⅠともに陽性範囲となったため、要精密検査判定とした。その後、臨床症状等と当所検査結果からPOR欠損症と診断された。

【考察】
今回経験した2例は、17-OHPがやや高値を示したり、2回目検体で11-DOFが著名高値になる等の特徴があったが、初回採血検体においては、21-OHDのみを対象とした現行の判定基準ではどちらも正常となった。現在CAH検査において測定しているステロイド5種に、測定項目を追加し、基準値を設定することで、21-OHD以外のCAHにも対応できるようになる可能性がある。

*1北海道大学医学部小児科、*2札幌医科大学医学部小児科学講座、*3札幌北楡病院小児思春期科


新生児マススクリーニング用濾紙血の保存性評価のための研究

第46回 日本マススクリーニング学会

2019年11月 沖縄県

山岸卓弥、藤倉かおり、阿部正太郎、野町祥介、東田恭明、三觜 雄

【はじめに】
新生児マススクリーニングでは血液を簡便に取り扱うため、専用の濾紙に血液を染み込ませ乾燥させた検体(乾燥濾紙血)を検査対象としている。乾燥濾紙血はスクリーニングに使用される数週間程度、更には研究利用目的で保管される数年程度劣化しないことが必要であるが、実際に新生児マススクリーニングが実施される中で指標物質がどの程度乾燥濾紙血中に保持されているかを示した知見は少ない。このことを明らかにすることで、検査の精度管理状況をより正確に把握することや検査の運用が適切であるかの検証へつながる可能性があり、今回、乾燥濾紙血中のホルモン物質の保存性を確認するための検討を行ったので報告する。

【方法】
過去10年間に新生児マススクリーニングを受検した児のうち、内分泌疾患検査の3項目(17OHP, TSH, FT4)のいずれかで初回要再採血となった児を対象とした。内分泌疾患のELISA法測定では、再採血検体の測定を行う際、初回検体も再度測定し、同一アッセイ内で各採血検体の測定値を比較することとしている。したがって、再採血判定となった初回検体は、初回検査時と再採血検査時の2回分の測定値が得られている。この2回の測定の間隔は再採血のタイミングによりまちまちであり、概ね数日から数か月である。この同一初回検体の経時2回の測定間隔と測定値の差異から、検体の保存により対象物質の量がどの程度変動し得るかを確認した。
なお検討にあたっての倫理的配慮として、新生児マススクリーニング申込書により包括的同意の得られた児のデータのみを連結不可能匿名化して用いることとし、研究内容について2018年度第1回札幌市衛生研究所倫理審査委員会の承認を受けたのち実施した。

【結果と考察】
2回目測定において、FT4は上昇傾向、TSHは低下傾向が認められた(有意水準5%)。一方、2回の測定間の変化量と経過日数には、いずれの項目でも相関は認められなかった。
保管により検体が劣化するのであれば、日数が経過するほど変化量が大きくなるような相関が得られると考えられるため、今回検討した100~200日程度の期間内において、各指標物質は検体内で安定的に存在していると示唆された。また、ある基準により検体を抽出し再測定を行うことで、再測定値には平均への回帰によるバイアスが生じるものと思われた。


新生児マススクリーニング検査で発見したビタミンB12欠乏の母子例

第46回 日本マススクリーニング学会

2019年11月 沖縄県

田中藤樹*1、長尾雅悦*1、浜田 亮*2、林三起子*3、花井潤師*3、吉永美和、東田恭明、野町祥介、石川貴雄、手塚美智子

GタンデムマススクリーニングC3、C3/C2高値でメチルマロン酸尿が検出される疾患には、メチルマロン酸血症とビタミンB12欠乏症がある。ビタミンB12欠乏症の原因は、栄養性と母体由来(胃全摘、自己免疫性胃炎によるビタミンB12吸収不良)がある。今回我々は、新生児マススクリーニングでのメチルマロン酸血症精査から自己免疫性胃炎によるビタミンB12欠乏症の母体とそれによるビタミンB12欠乏症の児を発見したので報告する。

*1国立病院機構北海道医療センター小児科/小児遺伝代謝センター、*2留萌市立病院小児科、*3北海道薬剤師会公衆衛生検査センター


化学療法中ポリコナゾール投与により新生児マススクリーニング検査で11DOF高値を認めた一例

第46回 日本マススクリーニング学会

2019年11月 沖縄県

中村明枝*1、小林良二*2、鈴木大介*2、堀 大起*2、藤倉かおり、山口健史*1、菱村希*1、中山加奈子*1

急性骨髄性白血病に対する化学療法中、抗真菌薬ポリコナゾール内服を行っていたため、新生児マススクリーニングにて11-デオキシコルチゾール(11-DOF)高値を認めた症例を経験した。アゾール系抗真菌薬であるケトコナゾール、フルコナゾールは、11β水酸化酵素活性を障害することが知られているが、ポリコナゾールの副腎ステロイド代謝経路への影響について詳細な検討の報告はない。しかし今回の症例においては、ケトコナゾール、フルコナゾールと同様にポリコナゾールが11β水酸化酵素活性を抑制し、11-DOFが上昇したと考えられる。ポリコナゾールも副腎ステロイド代謝経路へ影響を及ぼすため、その評価には注意が必要である。

 *1北海道大学医学部小児科、*2北楡病院小児科


平成30年度マーケットバスケット方式による食品添加物の一日摂取量調査

第56回 全国衛生化学技術協議会

2019年12月 広島市

寺見祥子*1、小金澤望、村越早織、佐藤睦実*2、関根百合子*2、渡邉さやか*3、鶴岡則子*4、杉木幹雄*5、田原正一*5、安永 恵*6、紙本佳奈*6、中島安基江*7、井原紗弥香*7、竹下智章*8、川原るみ子*8、高嶺朝典*9、古謝あゆ子*9、恵飛須則明*9、柳本登紀子*1、久保田浩樹*1、建部千絵*1、長尾なぎさ*1、五十嵐敦子*1、古庄紀子*1、多田敦子*1、佐藤恭子*1

日常生活における食品添加物摂取量推定を目的として、我々は平成14年度よりマーケットバスケット(MB)方式を用いた食品添加物一日摂取量調査を実施している。MB方式とは、量販店で購入した食品を、国民の平均的な一日の喫食量に応じて採取し、それらを混合して添加物含有量を分析し、食品添加物の一日摂取量を推定する手法である。平成29年度は、酸化防止剤5種類、防かび剤6種類、製造用剤1種類、結着剤2種類の計14種類の食品添加物を対象として、20歳以上の喫食量に基づく加工食品群からの一日摂取量調査を実施した。
推定一日摂取量が最も高い酸化防止剤は総トコフェロール(6.41mg/人/日)、次いでジブチルヒドロキシトルエン(0.009mg/人/日)であった。防かび剤の推定一日摂取量は、3項目(アゾキシストロビン、イマザリル、チアベンダゾール)についてそれぞれ0.00003、0.00001、0.000026(mg/人/日)であった。製造用剤プロピレングリコールの一日摂取量は10.95mg/人/日、結着剤リン酸化合物の一日摂取量は267.6mgP/人/日であった。
また、今回調査対象とした保存料及び着色料の対ADI比は最大でリン酸化合物の6.52%であり、安全性について特段の問題はないと考えられた。

*1国立医薬品食品衛生研究所、*2仙台市衛生研究所、*3習志野健康福祉センター、*4千葉県衛生研究所、*5東京都健康安全研究センター、*6香川県環境保健研究センター、*7広島県立総合技術研究所保健環境センター、*8長崎市保健環境研究所、*9沖縄県衛生環境研究所


LC/MSによる化学物質分析法の基礎的研究(74)

第28回環境化学討論会

2019年6月 さいたま市

折原智明、長谷川瞳*1、平生進吾*1

GC/MSでは測定困難な環境中化学物質について、LC/MSの適用可能性を検討した。
当市では環境水中の化学物質について、レボフロキサシンの固相抽出LC/MS/MS法による分析法を検討した。レボフロキサシンは抗菌医薬品で経口製剤、点眼液で利用されている。環境水中に存在するレボフロキサシンと異性体の(R)-オフロキサシンをLC-MS/ MSで分別定量する方法を検討した。
逆相クロマト条件では異性体分離出来ず、順相用キラルカラムにより分別定量が可能となった。2物質は金属、ガラスに吸着し、移動相に酢酸、エチレンジアミンの添加が必要であった。使用する器具類も金属、ガラス製は使用出来ず、コンセントレーターでの固相抽出は吸引方式で行った。移動相は感度維持のため1日程度で都度調製すると良好であった。

*1名古屋市環境科学調査センター


下水処理施設を経由して環境中に排出される有機フッ素化合物量の推計とその季節変動

第28回環境化学討論会

2019年6月 さいたま市

岩渕勝己*1、永洞真一郎*2、田原るり子*2、折原智明、鈴木俊也*3、小杉有希*3、飯田春香*3、渡邊喜美代*3、小西浩之*3、高木総吉*4、安達史恵*4、宮脇崇*5、門上希和夫*6

全国8か所の下水処理場から季節ごとに流入水、放流水を採水し、その有機フッ素化合物濃度を測定した。その測定値から各処理場における有機フッ素化合物の除去率、原単位等算出し、それらの季節変動等について検討した。
また、汚水処理人口普及率も考慮して全国からの発生負荷量及び水環境中への排出負荷量を推計した。

*1岩手県環境保健研究センター、*2(地独)北海道立総合研究機構、*3東京都健康安全研究センター、*4(地独)大阪健康安全基盤研究所、*5福岡県保健環境研究所、*6北九州大学


国内の下水処理場を対象とした生活由来医薬品の実態調査

第28回環境化学討論会

2019年6月 さいたま市

飯田春香*1、小杉有希*1、渡邊喜美代*1、小西浩之*1、鈴木俊也*1、高木総吉*2、安達史恵*2、永洞真一郎*3、田原るり子*3、折原智明、岩渕勝己*4、宮脇崇*5、門上希和夫*6

198種類の医薬品について、ターゲットスクリーニング法を用いて国内の下水処理場を対象に実態調査を実施した。試料の採取は2017年度の四季毎に行った。半揮発性物質はGC/MSで、極性化学物質はLC/QTOF-MSで分析をした。下水処理施設への流入水濃度及び放流水濃度から排出人口当たりの発生原単位、環境への排出原単位及び下水処理における除去率を算出した。また、夏季調査における発生原単位の上位10成分について、季節変動を評価した。

*1東京都健康安全研究センター、*2 (地独)大阪健康安全基盤研究所、*3(地独)北海道立総合研究機構、*4岩手県環境保健研究センター、*5福岡県保健環境研究所、*6北九州大学


EMISSION OF 1325 CHEMICALS FROM MUNICIPAL WASTEWATER TREATMENT PLANTS IN JAPAN

DIOXIN 2019

June,2019 Kyoto

Kadokami K*1, Miyawaki T*2, Takagi S*3, Adachi F*3, Iida H*4, Watanabe K*4, Kosugi Y*4, Suzuki T*4, Iwabuchi K*5, Nagahora S*6, Tahara R*6, Orihara T

As the number and volume of chemical substances used in modern life increase, concern is rising regarding their adverse effects on human health and aquatic organisms. In Japan, environmental emissions of chemicals used in industry are recorded in the Pollutant Release and Transfer Register; however, emissions of chemicals used in homes and businesses are not well known because these substances are used in a wide variety of commercial products. In this study, we tested 1325 chemicals in inflow and outflow of municipal wastewater treatment plants (WWTPs) across Japan in order to grasp emissions of chemicals used in daily life.

*1Univ. Kitakyushu, *2Fukuoka Inst. Health and Environ. Sci, *3Osaka Inst. Publ. Health, *4Tokyo Metro. Inst. Publ. Health, *5Iwate Perfectural Research Inst. Environ. Sci. and Publ. Health, *6Hokkaido Research Organization


レボフロキサシンの分析法開発について

令和元年度 化学物質環境実態調査環境科学セミナー

2020年1月 東京都

折原智明

化学物質環境実態調査における分析法開発業務の検討で得られた結果(IDL、MDL、マススペクトル、検量線、添加回収試験、保存性試験、分解性スクリーニング試験、固相カートリッジの検討)について発表を行った。
なお、本分析方法は環境省の「平成30年度 化学物質と環境 化学物質分析法開発調査報告書」に掲載された。

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