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更新日:2024年1月31日

「心に響く民謡を唄い継ぐ」

「正月二日の初夢に~」

これは「えんころ節」という民謡です。「えんころ節」とはお祝いする時に唄う唄でとても縁起のいい唄です。

私が民謡を始めたのは十歳の時。きっかけは、祖父が民謡の先生で、幼い頃から民謡に触れる機会が多かったからです。祖父の車の中ではいつも民謡が流れていました。流れていた唄を聞いて、私は自然と歌詞を覚えてしまいました。おそらく当時の私に難しい言葉の意味は分からなかったと思いますが、あの伸びる声、独特の節回しに何とも言えぬ心地よさを感じたのだと思います。思わず踊りたくなるような、華やかなイメージをその時は抱いていました。

そして、「私も民謡を唄ってみたい。」と祖父へ伝えました。すると、祖父は快く教室に入れてくれました。

期待に胸を膨らませ、練習に参加しましたが、初めは緊張で声が出ませんでした。やっと一曲唄ったときは、「うわあ、こんなに長いのか。」と思わずため息が出るほどでした。華やかなイメージとは裏腹に、想像以上に大変だとその時思いました。

一番最初に出た大会では、大切な一小節目で唾を飲んでしまいました。「えっ、そんなこと。」と思う人もいるかもしれませんが、民謡は途切れてはいけないいくつかのフレーズがあります。唾を飲むことでせっかくのきれいなフレーズが切れてしまうのです。そうなると、唄は台無しです。

それからというもの、どこまでを一息で唄うのか考えたり、できるだけ唾を飲み込まないように意識したりして練習に励みました。試行錯誤を重ね、少しずつコツをつかみ、途切れることなく唄えるようになってきました。

民謡の唄い方が徐々に分かってきた頃、東北大会まで続く宮城県の民謡大会がありました。私が出場するジュニア部門では十人が出場し、三名が決勝に進めます。待っている間、これまで練習してきた歌詞が何度も頭の中をめぐります。

そして、いよいよ本番。舞台に立ち、マイクの前に進むと、ドクンドクンと心臓の鼓動が全身を包みます。突き刺さるようなたくさんの視線。審査員の先生方の顔も怖く見えてしまいます。それでも深呼吸をし、遠くのただ一点だけを見つめて、精一杯唄いました。

結果は三名の中に入り、決勝進出を決めることができました。唄い終わって、客席に戻ると祖父が笑顔で迎えてくれました。「今日のはよかったぞ。」結果も満足したのですが、これまでの頑張りを認められたようでとても嬉しかったです。

そして、祖父がこれまで繰り返し私に伝えてくれたこと。それは「その人の唄い方、その人の表現が大事なんだ。そこにその人自身のよさが出る。」その日の唄は自分なりの表現がうまくでき、聞いている人に何かを伝えられたのだと思います。

民謡に楽譜はありません。歌詞が書いてあるだけです。音符もなければ、強弱記号もありません。それを口伝えで教わり、自分の声で表現していくのです。自分の中で表現したいものをもっていなければ伝わらないのです。

もともと民謡とは民衆の中から生まれたものでした。お祝いする時の祝い唄、仕事の士気を高めるときの仕事唄、盆踊りで先祖の霊を迎えもてなす時の盆踊り唄など、常に生活の一部として、地域に根付き唄い継がれてきました。そこには人が人を思う温かな心があります。大切なことは唄のうまさだけではなく、この心を受け継ぎ、さらに自分の表現を磨き、聴いている方々に伝わる民謡を唄うこと。

聴いている方々の心に響く民謡をこれからも唄い続けていきます。

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