第2章 計画策定の背景 1 障がい者福祉をめぐる国の動向 ■障がい者制度改革の動き わが国では、2007年(平成19年)に「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」に署名して以降、国内の必要な制度改革が進められ、2011年(平成23年)には、障害者基本法が改正され、「日常生活又は社会生活において障がい者が受ける制限は、社会の在り方との関係によって生ずる」といういわゆる「社会モデル」に基づく「障がい者」の概念や「合理的配慮」の理念が盛り込まれました。 2013年(平成25年)4月に施行された障害者総合支援法では、改正障害者基本法の理念が掲げられるとともに、障がい福祉サービスの対象範囲に難病患者等も加わるなどの見直しが行われました。 また、同年6月、「障がいを理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」が制定され、「障害者の雇用の推進に関する法律(障害者雇用促進法)」の改正では雇用分野における障がいのある方への差別の禁止等が定められました。(ともに2016年(平成28年)4月施行。) さらに、2016年(平成28年)6月には、障がいのある方の望む地域生活への支援の一層の充実や障がい児支援の多様化するニーズへのきめ細かな対応、サービスの質の確保・向上に向けた環境整備を主な内容として障害者総合支援法及び児童福祉法が改正されました。(ともに2018年(平成30年)4月施行。) その後、障がいのある方の社会参加の促進のため、2018年(平成30年)6月に「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律(障害者文化芸術活動推進法)」が、2019年(令和元年)6月には「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフリー法)」が施行されているほか、就学前の障がい児の発達支援の無償化など、障がいのある子どもへの支援体制の強化が進められています。また、同年10月には障害福祉人材の処遇改善及び消費税率引き上げに伴う報酬改定が行われました。 ■ニーズの高度化・多様化 障がいのある方が地域で安心して生活していくことができるよう、障害者   総合支援法に基づく障がい福祉サービスを中心に、さまざまな取組を実施しているところですが、個々の障がいの程度や状況に応じたきめ細やかな支援、出生から学齢期、成人に至るまで、ライフステージに応じた切れ目のない支援などが求められています。 これらの高度化・多様化したニーズには、障害者総合支援法等による法定サービスのみでは対応が難しいため、就労支援型の地域活動支援センターの運営等、札幌市独自の取組も併せて実施するなど、障がい特性等に配慮したきめ細やかな支援の在り方について引き続き検討していく必要があります。 また、今般の新型コロナウイルス感染症については、社会全体にさまざまな影響を与えているところです。こうした感染症流行時にあっても、障がいのある方の暮らしを支えるため、感染予防や拡大の防止を図りながら、安定的なサービス提供を確保していくことが大切です。 ■地域の社会資源の活用 国における障がい者施策が大きく変わっていくなかで、障がいのある方のニーズに応じた質の高い支援を行っていくためには、行政による取組のほかに、地域のボランティア、関係団体、事業者等の地域の多様な社会資源を活用するなど、障がいのある方を地域全体で支え合う体制づくりが必要です。 2 札幌市の現状 (1)札幌市における施策展開 札幌市は、2003年(平成15年)3月、障がいのある方が地域で自立した生活を送ることができる共生社会の実現を目的として、障がいのある方の生活全般に関わる施策を体系化し、基本的な方向性を示した「札幌市障害者保健福祉計画」を策定しました。 その後、2007年(平成19年)3月に、障がいのある方の地域生活への移行や、就労支援を一層推進し、誰もがいきいきと暮らせるような元気あふれる街づくりを進めるために、「札幌市障がい福祉計画(第1期)」を策定しました。 この2計画を、2012年(平成24年)3月に「さっぽろ障がい者プラン」として統合し、2015年(平成27年)3月の改定では、「安全・安心」「差別の解消・権利擁護」「行政サービスにおける配慮」の3分野を新設し、重点的に取組を行ってきたところです。 また、2016年(平成28年)4月の障害者差別解消法、2017年(平成29年)12月の「札幌市障がい特性に応じたコミュニケーション手段の利用の促進に関する条例」、2018年(平成30年)3月の「札幌市手話言語条例」などの施行や、国の第4次障害者基本計画等を踏まえ、2018年(平成30年)3月に「さっぽろ障がい者プラン2018」を策定しました。 (2)障がいのある方の状況 札幌市発行の各種障がい者手帳(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳)の所持者数の合計は、2019年度末時点で約13万2千人(札幌市の人口の約7%)、2016年度から約6千人増えています。 身体障害者手帳の所持者数は横ばいの傾向にありますが、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の所持者数は年々増加の傾向にあります。【表1】 また、札幌市は、医療機関等の社会資源が多いこともあり、3手帳とも、市外からの転入者数が転出者数を上回る転入超過の傾向がみられます。【表2】 こうした状況から、計画期間(2021〜2023年度)においては、引き続き障がいのある方の増加が予想されます。 【表1】各障がい手帳所持者数等の推移(3月末時点。ただし、札幌市の人口は4月1日時点。)(単位:人) 札幌市の人口 2016年度1,946,407 2017年度1,949,947 2018年度1,953,883 2019年度1,958,408 手帳所持者全体 2016年度125,727 2017年度127,652 2018年度129,594 2019年度132,091 身体障がい 2016年度83,564 2017年度83,585 2018年度83,534 2019年度83,780 知的障がい 2016年度17,375 2017年度18,041 2018年度18,722 2019年度19,416 精神障がい 2016年度24,788 2017年度26,026 2018年度27,338 2019年度28,895 【表2】各障がい手帳所持者数の転入・転出者数の推移(各年度中)(単位:人) 手帳所持者数全体  転入者数 2016年度1,294 2017年度1,331 2018年度1,290 2019年度1,466 転出者数 2016年度769 2017年度700 2018年度761 2019年度778 身体障がい 転入者数 2016年度833 2017年度876 2018年度804 2019年度891 転出者数 2016年度488 2017年度470 2018年度503 2019年度532 知的障がい 転入者数 2016年度177 2017年度174 2018年度205 2019年度225 転出者数 2016年度173 2017年度160 2018年度152 2019年度172 精神障がい 転入者数 2016年度284 2017年度281 2018年度281 2019年度350 転出者数 2016年度108 2017年度70 2018年度106 2019年度74 (3)障がい別の状況 ■身体障害者手帳 年齢別では、全体の7割以上を占める65歳以上の手帳所持者数が、年々増加していることがわかります。【表3】 また、障がい状況別では、肢体不自由が最も多く、次いで内部障がいとなっています。【表4】 【表3】身体障害者手帳所持者数の年齢別推移(3月末時点)(単位:人) 18歳未満 2016年度1,484 2017年度1,455 2018年度1,460 2019年度1,441 18歳以上65歳未満 2016年度22,387 2017年度21,911 2018年度21,435 2019年度21,132 65歳以上 2016年度59,693 2017年度60,219 2018年度60,639 2019年度61,207 【表4】身体障害者手帳所持者数の障がい状況別推移(3月末時点)(単位:人) 視覚障がい 2016年度4,424 2017年度4,394 2018年度4,402 2019年度4,439 聴覚・平衡機能障がい 2016年度5,278 2017年度5,263 2018年度5,269 2019年度5,296 音声・言語又はそしゃく機能障がい 2016年度833 2017年度832 2018年度860 2019年度863 肢体不自由 2016年度48,018 2017年度47,494 2018年度46,710 2019年度46,093 内部障がい 2016年度25,011 2017年度25,602 2018年度26,293 2019年度27,089 合計 2016年度83,564 2017年度83,585 2018年度83,534 2019年度83,780 ■療育手帳 どの障がい程度においても増加の傾向にありますが、特にB−(軽度)の手帳所持者数が増えています。【表5】 年齢別でみると、18歳以上の所持者数は年々増加していますが、65歳以上の方の割合は少なく、2019年度は全体のおよそ6%弱(1,100人)となっています。【表6】。 療育手帳所持者数の増加は、以前に比べて知的障がいに対する認知度が高くなったことが、要因のひとつと考えられます。 【表5】療育手帳所持者数の障がい程度別推移(3月末時点)(単位:人) A(重度) 2016年度5,788 2017年度5,870 2018年度5,974 2019年度6,083 B(中度) 2016年度3,836 2017年度3,943 2018年度4,032 2019年度4,108 B−(軽度) 2016年度7,751 2017年度8,228 2018年度8,716 2019年度9,225 合計 2016年度17,375 2017年度18,041 2018年度18,722 2019年度19,416 【表6】療育手帳所持者数の年齢別推移(3月末時点)(単位:人) 18歳未満 2016年度4,757 2017年度4,839 2018年度4,888 2019年度4,957 18歳以上 2016年度12,618 2017年度13,202 2018年度13,834 2019年度14,459※うち65歳以上1,100 ■精神障害者保健福祉手帳 身体障がい、知的障がい、精神障がいの3障がいの手帳所持者のうち、この4年間でもっとも増加しているのが、精神障がいです。【表7】のとおり、2016年度と2019年度を比較すると4千人以上増加していることがわかります。 精神障害者保健福祉手帳所持者数の増加は、以前に比べて精神障がいに対する社会の理解が進んできていることが要因のひとつとして考えられます。 【表7】精神障害者保健福祉手帳の障がい程度別推移(3月末時点)(単位:人) 1級 2016年度1,365 2017年度1,362 2018年度1,397 2019年度1,460 2級 2016年度13,079 2017年度13,500 2018年度13,981 2019年度14,484 3級 2016年度10,344 2017年度11,164 2018年度11,960 2019年度12,951 合計 2016年度24,788 2017年度26,026 2018年度27,338 2019年度28,895 ■札幌市の難病患者数(特定医療費(指定難病)受給者証所持者数) 2013年(平成25年)4月に施行された障害者総合支援法により、障がいのある方の範囲が拡大され、難病患者も障がい福祉サービス等を利用できるようになりました。 2020年(令和2年)4月1日現在、361疾病が障がい福祉サービス等の対象に、333疾病が医療費助成の対象となっています。 【表8】特定医療費(指定難病)受給者証所持者数(3月末時点)(単位:人) 2016年度21,564 2017年度20,661 2018年度21,177 2019年度21,865 (4)障がい福祉サービス等利用者数・給付費の推移 【表9】【表10】のとおり、障がい福祉サービス等の利用者数・給付費は、ともに年々増加傾向にあります。 【表9】障がい福祉サービス等利用者数(延べ人数)の推移(3月末時点)(単位:人) 介護給付 2016年度13,427 2017年度13,779 2018年度13,909 2019年度14,212 訓練等給付 2016年度10,843 2017年度11,848 2018年度13,018 2019年度14,005 相談支援 2016年度7,205 2017年度8,956 2018年度10,330 2019年度10,588 障がい児通所 2016年度7,503 2017年度8,567 2018年度9,610 2019年度10,493 合計 2016年度38,978 2017年度43,150 2018年度46,867 2019年度49,298 ※各年度3月利用実績(2019年度は1月利用実績)。 ※相談支援のうち地域移行支援・地域定着支援は年間利用人数。 【参考】障がい福祉サービス等利用者数(延べ人数)の推移(2013〜2019) 【表10】障がい福祉サービス等給付費等の推移(単位:百万円) 介護給付費 2016年度24,243 2017年度25,967 2018年度27,457 2019年度28,651 訓練等給付費 2016年度15,615 2017年度17,268 2018年度18,846 2019年度21,218 児童障がい福祉事業費 2016年度8,874 2017年度10,607 2018年度12,491 2019年度14,423 自立支援医療給付費 2016年度12,746 2017年度13,069 2018年度13,049 2019年度13,330 その他給付費 2016年度890 2017年度1,154 2018年度1,105 2019年度1,108 地域生活支援事業費 2016年度2,738 2017年度2,851 2018年度2,857 2019年度2,818 補装具費 2016年度512 2017年度491 2018年度520 2019年度532 合計 2016年度65,617 2017年度71,407 2018年度76,327 2019年度82,080 【参考】障がい福祉サービス等給付費等の推移(2013〜2019) 3 令和元年度札幌市障がい児者実態等調査結果(概要) (1)調査の概要 札幌市の障がい福祉施策に係る今後の方向性を検討するために、障がいのある方の生活実態や取り巻く課題等を把握し、本計画を策定する際の基礎資料とすることを目的として、2019年(令和元年)10月から12月までの期間において実施しました。(調査基準日:同年9月1日) この調査の対象者や回収結果は、下表のとおりです。 調査種別 調査方法 発送数 回収数 回収率 1.障がい者調査 郵送調査 発送数6,430 回収数2,806 回収率43.6% 2.障がい児調査 郵送調査 発送数1,046 回収数461 回収率44.1% 3.市民意識調査 郵送調査 発送数3,000 回収数1,048 回収率34.9% 4.企業意識調査 郵送調査 発送数1,000 回収数340 回収率34.0% 5.事業所調査(※3) 郵送調査 発送数1,400 回収数866 回収率61.9% ※3 札幌市が指定している障がい福祉サービス等提供事業所のこと。 6.施設入所者調査 Email調査 発送数30 回収数20 回収率66.7 7.精神科病院入院患者調査 Email調査 発送数37 回収数15 回収率40.5% (2)調査結果 前回(2016年度)行った同調査の結果と比較し、札幌市の取組の効果について振り返ります。   ■障がいのある方に対する市民理解      <障がい者調査・障がい児調査>  前回調査より、市民理解が「(まあまあ)深まっていると思う」と答えた方の割合が若干増えています。しかしながら、「まったく思わない」「あまり思わない」と答えた方のほうが上回る傾向は変わらず、障がいのある方に対する理解はまだ十分とはいえず、引き続き理解促進を図っていく必要があります。 深まっている・まあまあ深まっている 障がい者調査 2016年度26.1% 2019年度27.9% 障がい児調査 2016年度14.3% 2019年度18.2% どちらともいえない 障がい者調査 2016年度31.5% 2019年度29.9% 障がい児調査 2016年度34.8% 2019年度33.8% 深まっている・まあまあ深まっている 障がい者調査 2016年度37.1% 2019年度35.5% 障がい児調査 2016年度50.3% 2019年度47.3% <市民意識調査> 障害者差別解消法や、札幌市において制定した各種条例や取組については「知らない」と答えた方が多く、引き続き普及啓発を図っていく必要があります。 障害者差別解消法 内容も知っている6.3% 聞いたことがある24.7% 知らなかった66.8% 無回答2.2% 札幌市障害者コミュニケーション条例 内容も知っている2.5% 聞いたことがある10.3% 知らなかった81.8% 無回答5.4% 札幌市手話言語条例 内容も知っている2.6% 聞いたことがある7.5% 知らなかった84.4% 無回答5.5% 心のバリアフリー 内容も知っている11.5% 聞いたことがある22.4% 知らなかった60.7% 無回答5.4% ヘルプマーク 内容も知っている37.6% 聞いたことがある22.3% 知らなかった36.0% 無回答4.1% <企業意識調査> 障がい者雇用に関するハードルについて尋ねた設問では、「障がいのある方のことをそもそもよく分からないから雇用に踏み出せない」と回答した企業が6割弱ありました。障がいのある方に対する企業側の理解のより一層の促進が必要といえます。 障がいのある方のことをそもそもよく分からないから雇用に踏み出せない とてもそう思う・そう思う55.3% あまりそう思わない・全くそう思わない40.9% ■障がい福祉サービスについて <障がい者調査・障がい児調査>  前回調査よりも、量・内容ともに「(おおむね)満足している」割合が増えましたが、「(あまり)満足していない」と感じる方も一定数存在しています。 また、サービスの質や事業所の対応について、ある程度満足していると感じている方がいる一方で、前回調査より「(あまり)満足していない」の割合が若干増加しました。 量(※4) ※4 利用することのできるサービスの日数や時間数のこと。 (おおむね)満足している  障がい者調査 2016年度78.9% 2019年度80.9% 障がい児調査 2016年度78.8% 2019年度83.6% (あまり)満足していない 障がい者調査 2016年度14.6% 2019年度14.1% 障がい児調査 2016年度19.1% 2019年度15.7% 内容(※5) ※5 利用することのできるサービスのメニューのこと。(例:身体介護や掃除、洗濯等) (おおむね)満足している 障がい者調査 2016年度76.1% 2019年度78.2% 障がい児調査 2016年度83.2% 2019年度84.3% (あまり)満足していない 障がい者調査 2016年度14.6% 2019年度16.3% 障がい児調査 2016年度13.9% 2019年度15.3% 質(※6) ※6 サービス提供事業所の職員による支援技術などのこと。 (おおむね)満足している 障がい者調査 2016年度75.1% 2019年度76.2% 障がい児調査 2016年度79.1% 2019年度78.5% (あまり)満足していない 障がい者調査 2016年度15.2% 2019年度17.3% 障がい児調査 2016年度11.1% 2019年度13.7% 事業所の対応 (おおむね)満足している 障がい者調査 2016年度77.4% 2019年度79.6% 障がい児調査 2016年度84.3% 2019年度90.2% (あまり)満足していない 障がい者調査 2016年度13.6% 2019年度15.1% 障がい児調査 2016年度11.8% 2019年度9.8% <事業所調査>  事業所が業務を円滑に実施するために必要な人手が「(やや)不足している」「非常に不足している」と回答した事業所が全体の7割を超えています。 職員不足の原因として「職員の採用が困難」と答える事業所が6割以上、雇用が困難な理由を「賃金が低い」「精神的な負担が大きい」と回答した割合がそれぞれ4割程度となっています。 ■障がいのある方が希望する生活のためにあればいいこと <障がい者調査・障がい児調査>  前回調査に引き続き、高齢になった時の生活に不安を感じている方の割合が多い結果となりました。 高齢になっても安心して生活できること 障がい者調査 2016年度第1位 2019年度第1位 障がい児調査 2016年度第1位 2019年度第2位 困ったときに相談を聞き助言してくれる場 障がい者調査 2016年度第2位 2019年度第3位 障がい児調査 2016年度第1位 2019年度第12位 年金や手当、経済的な負担軽減 障がい者調査 2016年度第3位 2019年度第2位 障がい児調査 2016年度第4位 2019年度第1位 周囲の障がいへの理解 障がい者調査 2016年度第6位 2019年度第5位 障がい児調査 2016年度第3位 2019年度第3位 (参考)障がいのある方が希望する生活のためにあればいいこと <施設入所者調査>  本人の地域生活を支える環境面においては、夜間や緊急時の支援に不安を感じているほか、一度退所すると再入所できないのではないかということに不安を感じている方が多く、これらが退所に向けた課題になっていることがうかがえます。 ご本人の状態像としては、常時の介護や見守りを要する方が多く、在所期間が20年以上の入所者については「ご家族からのサポートが期待できない」とする割合が最も高くなっています。 地域移行に当たっては、サービス提供基盤の一層の充実が必要となっています。 退所に向けての不安な点 第1位 夜間や緊急時の支援を十分に受けることができないという不安がある61.9% 第2位 一度退所すると再入所できないのではないかという不安がある39.4% 第3位 住まいの確保が困難35.8% 支援者から見たご本人の様子 第1位 介護者見守り等の支援が常時必要である65.9% 第2位 退所したいかどうか、本人の意思が確認できない51.1% 第3位 退所に向けた意識が乏しい39.8% <精神科病院入院患者調査>  退院ができない要因として、「症状が不安定」という理由が最も高くなっています。 病状が治まっている方(院内寛解あるいは改善傾向)の場合、「退院意欲が乏しい」ことが、退院に向けた問題点になっています。  退院後に必要な支援としては、前回調査同様、「訪問看護サービス」とする割合が最も高くなっています。 退院ができない要因 第1位 病状が不安定51.6% 第2位 現実認識が乏しい46.6% 第3位 退院意欲が乏しい28.4% 第4位 病識がなく通院服薬の中断が予想される27.4% 第5位 家事(食事・洗濯・金銭管理など)ができない26.4% ■就職の経緯(障がい手帳等種類別)      <障がい者調査>  身体障害者手帳をお持ちの方については、等級に関わらず「自分で探した」が最も多く、次いで「ハローワークを利用した」となっており、自立支援医療や特定医療費(指定難病)の受給者証をお持ちの方も同様の結果となっています。 療育手帳をお持ちの方については、学校や福祉的就労(就労移行支援事業所等)からの支援を受け就職につながっている傾向がみられました。 現状のまとめ 札幌市では、これまでも、さっぽろ障がい者プランに基づき、着実に施策を進め、法律が定める障がい福祉サービス等も含めて、障がい福祉施策全般の充実を進めてきました。 しかしながら、札幌市が実施したアンケート調査結果にもあるとおり、障がいのある方への理解がまだ十分とは言えないことや、前回調査より改善傾向にあるものの、サービスの質についてはさらなる充実を求める声が寄せられているなど障がいのある方やその家族にとっては、いまだに多くの生活のしづらさが残っています。 また、計画期間(2021〜2023年)においては、各種障がい者手帳所持者数の増加などに伴って、障がい福祉サービス等の利用が広がることが見込まれます。 引き続き障がい福祉サービス等の提供体制を確保していくことが課題となっています。 4 目指すべき共生社会に向けて 〜障がい福祉施策の視点から〜              令和元年度札幌市障がい児者実態等調査では、札幌市が目指すべき共生社会の具体的なイメージを構築するため、障がいをお持ちの方を含めた市民や企業のみなさまからご意見を伺いました。 共生社会の実現のために必要と考える施策としては、「心のバリアフリー化の推進」「就労機会の充実」が、いずれの調査でも上位を占めています。 ■共生社会の実現のために必要な施策(アンケート結果から) 障がい者調査 第1位障がい福祉サービスの充実 第2位心のバリアフリー化 第3位就労機会の充実 障がい児調査 第1位就労機会の充実 第2位心のバリアフリー化 第3位インクルーシブ教育の充実 市民意識調査 第1位就労機会の充実 第2位心のバリアフリー化 第3位建築物・交通のバリアフリー化 企業意識調査 第1位就労機会の充実 第2位心のバリアフリー化 第3位建築物・交通のバリアフリー化 市内の障がい関連団体を対象としたグループヒアリングにおいても、これらの施策に関連した意見は多く、障がいのある方に対する理解不足により生じる差別や偏見、就労の難しさなどを課題とする意見が挙げられています。 ■共生社会のイメージ(障がい者団体へのヒアリング調査結果から) 観点意識上のバリア 目指すべき共生社会像 障がいが個人の特性のひとつとして認識され、その差異が理解されること(互いの理解)により差別や偏見が生じない社会、互いに支え合える社会 共生社会実現に必要な施策 障がいへの理解促進や、障がいの有無にかかわらず共に育つ環境(インクルーシブ)、交流機会の創出等による心のバリアフリー化の実現にむけた施策 観点制度的なバリア 目指すべき共生社会像 障がいの有無によらず自立した生活を営むことができる社会 共生社会実現に必要な施策 就労支援制度の拡充・改善や、一般就労機会の拡充など、就労に関連した施策 観点物理的/文化・情報面のバリア 目指すべき共生社会像 障がいの有無によらず、自由に社会参加や生活を営むことができる社会 共生社会実現に必要な施策 障がい福祉サービスの拡充 建物、交通機関といったハード面でのバリアフリーの推進施策 余暇活動支援、情報提供手法の拡充施策 障がい者調査及び障がい児調査において、障がいのある方の約3割、障がいのある子どもの約5割が、何らかの差別経験があると答えています。 また、企業意識調査において障がい者雇用に関するハードルについて尋ねた設問では、「障がいのある方のことをそもそもよく分からないから雇用に踏み出せない」と回答した企業が6割弱ありました。障がいのある方の就労機会の充実を図るためには、正規雇用率の向上や待遇改善等はもとより、障がいのある方に対する企業側の理解のより一層の促進が必要といえます。 今回のアンケートに回答してくださった方の多くが、共生社会について、障がい等に対する理解が進み差別や偏見が生じない社会、就労をはじめ社会参加の機会が充実した社会というイメージを持っていることがうかがえます。心のバリアフリー化や社会参加の促進は、共生社会を推進する重要な要素であり、これら双方に係る課題として挙げられている障がいのある方に対する理解のより一層の促進が、札幌市の障がい福祉施策の継続的な課題といえます。