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更新日:2022年12月22日

雪の結晶型紙石鹸、初雪が生まれるまでを当事者が語った

~雪の結晶型紙石鹸「初雪」はこうやって生まれた~

平成19年度第5回目(平成20年2月29日開催)の札幌スタイルセミナーは「雪の結晶型紙石鹸『初雪』はこうやって生まれた」と題して、札幌スタイル・デザインコンペティションから生まれた製品「初雪」の生い立ちを、関係者の言葉で振り返るという企画でした。
この「初雪」とは、雪の結晶状に切り抜いたシート状の石鹸で、そのアイディアは、2004年に開催された第1回目の札幌スタイル・デザインコンペティションの入賞デザインである「雪石鹸」から出発しています。
「初雪」の生い立ちと「雪石鹸」については既に他のページでご紹介していますので、「初雪」って何?という方は、まずは、こちらのリンクをご覧ください。

雪の結晶型紙石鹸初雪の写真
雪の結晶型紙石鹸、初雪

「初雪」が生まれるまで

 

セミナー当日、主にトークを担ったのは、「初雪」の育ての親とも言うべきお二人でした。
まず、一人目は、株式会社プラウシップの社長を務める千葉武雄さんです。エンジン設計のエンジニア、コンピュータソフトのエンジニアと3人組で株式会社プラウシップを立ち上げ、さまざまな専門性を持った人や企業の連携によるものづくりを追求しています。同時に、白石ゴム製作所の社長として、ゴムはもちろんのこと、ゴム部品を用いる工業製品や工業機械に広い知識と経験をもっています。また、北海道中小企業家同友会の世話人として、札幌、そして北海道の産業の未来を拓くべく日々献身的な活動をしている心熱き「おやじ」でもあります。

次に登場しますのは、2004年設立のベンチャー企業を率いる株式会社GEL-Design代表取締役社長の附柴裕之さん。同社は高分子ポリマー(ジェル)の研究開発にとりくんでいます。研究開発中心の企業でありながら、最終製品も手がけるところがユニークであり、札幌スタイル認証製品でもある保冷剤付きランチボックス「GEL-COOL」も次々と仲間を増やしています。また、彼は大学在学中に学生たちでバーを経営しており、バーテンダーとしても腕をふるっていたとか。

このお二人と関係者の言葉から、「初雪」プロジェクトの経済活動としてのユニークさを探ってみたいと思います。

● 多様な異能者たちの協働がもたらす可能性

初雪を産み出したキーマンたち

参加する人たちの写真

札幌スタイルをきっかけに連携しあう人たちが当日は参加しました。

意見交換中の写真

製造方法の大事なヒントを生み出した越智さん

 

科学者集団×技術者集団

GEL-Designとプラウシップは、科学者の会社と技術者の会社と言うことができます。「初雪」の開発過程においては、両者の得意領域を活かしながら開発が進められてゆきました。

例えば、シート状の石鹸素地の開発では、GEL-Designの力が発揮されます。当初、型抜きできる石鹸素地が作れずに試行錯誤していたのですが、附柴さんにお会いして、参考資料として用意していた大手メーカーのシート状石鹸を見せたところ「次の日できてた」という頼もしさ。その後も、GEL-Designの研究スタッフを中心に、型抜きのしやすさ、肌触り、香り、色、溶け方、強度、保存の方法などの作り込みが進められました。

一方、大量の素地を素早く乾燥させるための乾燥機の製造や、大量生産のための型抜き機の導入には、プラウシップと千葉社長の経験が活かされています。

スタッフの経験・アイディアを活かす

スタッフのアイディアや経験をうまく取り入れていることもこのプロジェクトの大きな特徴でしょう。
GEL-Designのスタッフであり、附柴さんのパートナーでもある市川さんは、手作り石鹸工房Savon de Siestaを運営しており(その後、GEL-Designの一事業として統合)、ご自身の石鹸工房を持っていました。Siestaの全面協力も得て、薬事法のさまざまな規制や石鹸の品質の問題について解決してゆくことができたのでした。
そして、もう一人忘れてはならないのが、製造スタッフとして大活躍した越智さん。この方は千葉社長が経営する白石ゴム製作所のスタッフなのですが、「初雪」プロジェクトの初期段階からSiestaの工房に派遣されて、製造現場を担っていました。「初雪」の泡状のフワフワした質感は、「コショウの空き瓶に石鹸素地をいれて、ただシェイクしただけ」(越智さん)という、何気ない彼女のアイディアで実現されています。日頃の生活の経験と知恵が「初雪」の製造現場にも活かされています。

多様な経験から生まれるアイディア

社長さんたちはスタッフ以上に個性的です。
前段の越智さんにコショウの瓶を振らせるきっかけとなったのは、千葉社長の思いつきでした。洗ってもなかなか溶けない昔使った紙石鹸の記憶と、白石ゴム製作所社長として発泡状のゴム素材を扱った経験が結びつき、石鹸素地を発泡状のフワフワしたものにするというアイディアが生まれました。

一方のGEL-Designの附柴さんは、販売促進の面でも、さまざまな工夫を繰り広げます。2006年の試験販売の後には商品仕様を見直し、また、売り上げが伸びない店舗のためにPOPやサンプル展示台を用意しています。別のページで紹介されている通り、附柴さんは学生時代にバーテンダーとして接客や店舗経営を経験から、お客様に興味を持っていただく、お客様に喜んでいただくということの重要さ、難しさ、楽しさを知っていて、飽くことなく挑戦を続けているように見えました。

コーディネーターの存在

こんな絶妙の組み合わせをお膳立てしたのが札幌市職員の仁宮さんでした。
当時派遣されていた財団法人北海道科学技術振興センターの職員として、札幌市から委託を受けて、「初雪」の商品化事業にとりくみます。当初は商品化を担ってくれる企業がみつからず苦労の連続でした。参加企業が決まった後も積極的に裏方を務め、「企業さんがすごい頑張っていて、それも一緒に考えて、会議を重ねながらやっていくという、その過程が一番おもしろかった」(仁宮さん)というように、まるで開発企業の一員のように常に開発現場に気を配っていました。

● 協働を支える意志

このようにコーディネーターを介して、双方の企業やスタッフの持ち味を生かしてた開発が進められたのですが、そのための前提として、二人の社長が熱意を持って商品開発に当たっていたことを見逃してはならないでしょう。

例えば、千葉社長は、開発がはじまるか始まらないかのうちに、GEL-Designに石鹸素地の開発を委託し、開発した素地を買い取るという形で、開発資金の提供を決めています。これ以外にも、千葉社長は自社スタッフである越智さんをSiestaの工房に派遣して石鹸の生産に専念させるといった熱の入れようです。
附柴さんも、Siestaの工房を提供するのみならず、研究スタッフを割いて石鹸素地の開発を進めます。PR活動となればスタッフ総出でチラシ配りにあたっていました。深夜にわたる商品の製造作業にあたり、移転したばかりの工場内で頭をぶつけて、額に絆創膏を貼った姿で会議に現れたこともあります。
お互いに本気で、よりよいものをつくるために惜しみなく努力する。だから、結果として信頼関係が生まれ、協力や協働が成り立つ。プラウシップとGEL-Design、千葉社長と附柴社長の間には、そんな関係ができあがっていたように思います。

プラウシップ~10年かけて北の産業を“耕す”エンジニア魂

千葉社長はもともと白石ゴム製作所という会社を経営していましたが、2005年に、エンジン設計をしていたエンジニア、コンピュータソフトのエンジニアという、出身の異なる業種のメンバーと組んでプラウシップを立ち上げました。“プラウシップ”とは、鋤(すき)や大地を耕すという意味を持つ「PLOW」に、術や能力を表す「-SHIP」をつけたもの。
 「小規模企業ですと、自社で完成品をつくるというのは非常に難しくなると思いますので、それぞれの技術をあわせると完成品がつくれる可能性が高いと思います。そういう形で、まずとにかく生み出そうということでつくりました。」(千葉さん)。千葉社長は「初雪」に出会うずっと前から、異なる専門性をもったメンバーによって、“完成品”(最終製品)をつくること、そして、そういった活動を通じて、大地を鋤で耕すように、「ものづくり」という面でも札幌を実り豊かな土地にすることを志していたのです。
千葉社長は石鹸素地の開発と生産をGEL-Designに委託する形で、資金を投入します。
「いきなりとりあえずいくら出したらつくってくれますと言ったら、100万と言われて、わかりましたと言うしかありませんでした。」「27のときに脱サラして、約20年間はみんな下請けなのです。もうこんな部品つくってくれ、あんな部品つくってくれ。それも同業者間で秤にかけて、一番安いところに頼むというようなものですから、自分のところのものを、もう自社製品をつくりたいという気持ちはものすごくありませした。それにはやっぱり多少投資をしなければいけないという。」「もう従業員の人たちに、それはもう説明して理解してもらって。今こっちにお金かかると。やりたい。」(千葉さん)
しかし、「わかりました」と言うしかなかった瞬間の千葉社長は、少しも躊躇せず、むしろ自社製品の開発をやりとげるんだという長年の決意を淡々と言葉にしている様子であったと記憶しています。
 「1,000個つくって、実際生産してみますと、(試験販売では)1個1万円で売っても追いつかないというぐらいな状況、それでもやる価値があるというふうに、みんな感じていたと思う。」「3年4年では出来ないかもしれないけれど、私たちものをつくっていると、売れてある程度利益が出るなというまでに、遅いといわれても10年はかかる」「10年かけてでも土産になるだろうと。でないと投資はできないと思う」(千葉さん)という言葉に見られる千葉社長のゆるぎない想いは、まったく初めての試みに挑戦するプロジェクトメンバーたちにとって、強い心の支えとなっていたに違いありません。

GEL-Design~構想し行動する“いつも本気”な科学者たち

GEL-Designおよび附柴さんについては、このサイトの関連ページやブログなどをご覧いただけば、その独特の哲学や、事業活動のユニークさはご理解いただけるものと思います。NEDOからGEL-Designに派遣されている伊藤さんが同社について「大学発ベンチャー、大学の技術を使って何かつくる、いいものをつくるというミッションで動いているだけでは売れない。その中で、こういう一般の商品もアイデアを出してつくっていって売っていく。その中で研究もやるという点に共感を持っている」と語っているように、同社は、“研究開発を行う大学発ベンチャー”という一般のイメージと異なる顔を持っています。もちろん、白衣を着た研究者たちが研究開発に取り組む光景もあるのですが、商品販売となれば、自らWebページをデザインしたり、POPをつくったり、はたまたスタッフ総動員でTシャツ姿でイベント会場に現れたりという、実に変幻自在な活躍振りです。

そんなGEL-Designを率いる附柴さんが「初雪」開発に参加を決めたのは、「おもしろそうだからやろうというノリで。多分そのノリは他の企業とちょっと違ったのかなと今になると思いますけれど。今はうちもそんなに軽いノリでできないので」という、タイミングにも恵まれたものでした。しかし、「おもしろそう」「軽いノリ」という言葉と裏腹に、その本気度は半端なものではありませんでした。附柴社長のいう「おもしろい」というのは、本気で全力を尽くして可能性を拓いてゆくプロセスのこと。つらくて、大変で、必死で、そしてとてつもなく「おもしろい」プロセスに「軽いノリ」で飛び込んでゆく。これこそが彼らの真骨頂なのでしょう。
「水に濡れたら、雪の結晶みたいにすっと溶けて、泡立ちもよくて、せっかく北海道でつくるのですから、肌にも優しいし、クオリティーも、もう紙石鹸業界の中では断トツにしたいなと」「ようやく売れるようになってきましたけど、累損すごいですから」「(2006年の試験販売で用意した商品の8割が売れたことについて)ああ全然売れなかったという印象をもったのですね。完売どころか、みんなが取り合いになるぐらいじゃないといけないだろうなと思って」「(2008年のさっぽろ雪まつりで4,000個弱を販売したことについて)もっと売れたはずだな」「まだまだ本当に足りないのです。実際にオンライン上でのPRも足りないし、それから販促物、それから店頭に置くためには、それなりのディスプレイとか什器が必要ですから。これだけで行けるだけではなくて関連商材、そのお客様のニーズに合った形態に変えていくとか、あと評判も高めないといけませんので」「そういった評判も高めながら、うまくプランニングしていかないと、絶対にうまく売れないと思います。ここからのほうが大変だと思うのですよね」(附柴さん)
妥協しない、諦めない、成功しなければ修正する。いつも本気な附柴さんとGEL-Designですが、ミーティングはむしろ穏やかに、笑いがあふれることもしばしばです。同社の商品“GEL-COOま”のキャッチコピーに「のんき顔ですが本気です」というものがありますが、GEL-Designさんとのミーティングはまさに「笑顔ですが本気」だったり「いたずら顔ですが本気」だったり。本気を楽しみながら進んでゆく彼らの姿勢は、「初雪」を“行政が関わった事業から生まれた製品”に留まらせることなく、魅力作りや販売戦略を含む総合的な商品構想といった面もを含めて、“多くの人に愛され記憶に残る商品”へと育てようとしています。

● 裏で必死に支え続けた市職員の存在

このプロジェクトを裏で支え続けた市職員がいました。市経済局の担当者だった望月さん。市が蒔いた種から商品開発に取り組むという企業が現れたこと。商品開発に取り組むということは「協力」の範疇を超えて汗と血を流すということ。そのことを思うと組織人としての立場を超えた申し訳なさと感謝の気持ちがあったといいます。さっぽろ雪まつりでの販売やミスさっぽろによるPR、全国規模の商談会への参加等は彼と彼の上司の奔走によって実現しました。

「チーム札幌」へと広がるネットワーク

お互いが本気であっても、あまりにも個性が違えば協働関係を築くのも難しかったことでしょう。双方の真摯な姿勢を大前提としつつも、キャラクターの違う2社を結びつけたのは、北海道、札幌の将来を想う気持ちでした。
 「多分この初雪みたときに、これにみんな夢とか希望を持つのですね」「本当に北海道はもっともっと魅力的で、もっとポテンシャルがあります。ですから、それを形にしていかなければならなくて、この“初雪”がそれを完成させられているわけではないですが、それに向かっての一歩は踏んでいるのですよね。この一歩に共感しているという中での連携が生まれているので」「北海道の将来、札幌の未来、これに何かしらしたいなと思っている、そういう気持ちで結ばれているので、それでうまくいっていると思います」(附柴さん)。
自らを鋤(すき)として、札幌の製造業を耕そうとするプラウシップ、北海道が好きであえて北海道で起業し、北海道発の製品にこだわるGEL-Design。両社に共通する想いは、少しずつ共感の輪を広げているようです。
当初、札幌スタイル・デザインコンペの実行委員・審査員を中心としたPR、口コミ活動からスタートしましたが、今や、自主的に営業活動を行うグループが出来つつあります。ブログなどネット上で紹介する人、取引先や知り合いの販売ルートを紹介する人、違う案件の商談でつい紹介する人などに支えられて、市内のホテル、土産物店などでの取り扱いが少しずつ増えているようです。必ずしもビジネス上のメリットがすぐに跳ね返ってくるわけではないのに、一生懸命「初雪」を売り込んでしまう。それは、「初雪」のパッケージの中には、石鹸とともに「さっぽろ」の未来や可能性が詰まっているからなのでしょう。ここにご紹介しきれなかった沢山の方々に支えられて、「初雪」は、札幌土産の新定番となるべく発展を続けてゆきます。「初雪」の物語の次のページを飾るのは、これを読んでくれているあなたかもしれませんね。

セミナー終了後、望月さんは次のようにこの物語を振り返りました。「このまちが大好きで、このまちのために、頑張る人たちが沢山いる。そして、一人のデザイナーが描き出した夢を結節点に、いつのまにか「チーム札幌」ができあがってゆく。こんな光景を目の当たりにする幸運に恵まれて、この協働の過程こそが札幌流(=“札幌スタイル”)であり、札幌の潜在能力の一つではないかと実感しています。」
● 初雪のストーリーから次の段階へ

私たちは、この物語を一つの学習知として、ネットワーク型の産業構造への転換を目指し次の段階へ進みたいと思っています。
札幌市は、全国で最も地方交付税に頼っている税収の構造が大変脆弱な自治体です。税源委譲後の収入減を乗り越えて持続可能な運営ができるよう、企業や人材が活躍し、市民の働き口が増え、税収が上がること=産業振興をこの街で働く主体が自ら進めなくてはなりません。
そのときには、さまざまな業種の企業や人材が関わりあって、この街自身が持つ地域資源をもう一度見直し、ブランド力のある新産業が創出されることが必要ではないか。企業が元気になれば、街自体の価値が高まり、新たな人材が呼び込まれます。札幌スタイルの取り組みはネットワーク型の産業構造への転換を目指し、この街の運営を担う主体的なプレイヤーを育てるストーリーでもあるのです。

(平成20年8月5日・記)

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