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札幌スタイル・ホームページ運営委員会のメンバーが参加レポートを報告します
(左から)佐藤デザイン室の佐藤斎さん、裕子さん、山内ビニール加工の山内浩二さん
札幌で生まれた発想、私たちの暮らしの中から生まれるデザインを力に商品を開発した事例を紹介するトークショーが、札幌市経済局の主催で行われた。
一つのデザインがメーカーを変えた。受注生産主体の道内メーカーが、商品開発に乗り出す。そのきっかけを作った様子が、ショーの中で明らかになった。会場に集まった参加者は、出演者が声をかけたデザイナーとメーカーの関係者そして、販売を支える弁理士やウェブデザイナーたち。ここからまた、新たな商品を開発する仲間を広げようとする主催者の意図がわかる。
出演者は、デザインを担当した佐藤裕子さんと夫の斎(ひとし)さん。斎さんは佐藤デザイン室の社長で、裕子さんはそのスタッフ。二人はともにデザイナーだ。もう一人の出演者、山内浩二さんは、山内ビニール加工の営業部部長。創業者の息子でもある。それぞれの人物紹介は、さっぽろの横顔に掲載されている。
佐藤裕子さんが、新聞に掲載された花見会場の空撮写真をみて、ブルーシートの面積の大きさ、災害や工事の現場のような色合いに愕然とした。かねて、デザイナーの直感ではなく、科学的な分析に基づいた色の仕事をしようとしていた裕子さんは、その学びの過程で、札幌市立大学の研究者たちが開発した分析ツールと出会う。野外の風景を撮影し、そこにある色を分類、存在の割合などから、その風景にしっくり落ち着く色のバランスを搾り出す。当然、そこから先はデザイナーのセンスと技術をかけた探求なのだが、基礎のデータを取った上での仕事に踏み切ったのだ。これが、後に大日本インキ化学工業の社内報で取り上げられるなど、日本の色のプロたちに注目される仕事のスタートだった。会場で裕子さんを知る人に話を聞くと「札幌で色の仕事をするときは佐藤裕子に聞けといわれました」と教えられた。
佐藤斎さんは、経営者である前にデザイナーとして、この街の一員として、「このデザイン、この商品は必要なんだ」という思いに駆られたようだ。自分がかつて所属した青年会議所の仲間など、あらゆる人脈のなかで、商品化とマーケティングを進めてゆく。海外での生産などたくさんのアドバイスのなか、「海外で作るとコストが安いけど、札幌の企業と一緒に色の管理をしたい。地元の人と商品を開発したい」という自然な思いで、山内浩二さんと知り合う。山内さんが商品を仕上げ、在庫を抱える中で、ネット上での消費者心理のリサーチ、販売ルートの拡大に寝食を忘れて取り組む。デザイナーが、生まれた商品の販売までを考え抜き、さらに販売の実践を行う商品開発。決して大きくないメーカー企業とデザイナーのコラボレーションのスタイルの一つを生み出している。山内さんと一緒に販路を求めていると、アウトドア販売では道内最老舗の秀岳荘に持ち込んだとき、その場で店長が取り扱いを決定してくれるところまでこぎつける。
山内浩二さんは、厳しい経営判断を仰ぐ前に、自分はこの会社に対する強い思いがあった。経済が右肩上がりの時は、受注生産で順調に経営は伸びる。しかし、経済成長が止まった時、これ以上グラフの角度が上がっていかない時に、新たな戦略をもって商品を生み出さなくては、会社の営業はジリ貧なんだ。とはいっても、お得意様がたくさんいて、受注生産でリスクを極力少なく発展してきた会社が、売れるかどうか分からない商品の在庫を抱える決断はとても難しいものだ。「さくらシート」のサンプルと、ブルーシートの空撮をデザイナーに見せられた瞬間、彼はこの商品こそ、自分が出会いたかったものだと確信する。次の瞬間には、工場も素材も担当者も決めていたという。現場の賛同を得て、試作のめどをたて、デザイナーとともにマーケットの分析をしてから、経営者に何度も食い下がってついには開発の許可を取る。ウェブデザイナー、弁理士など多くのブレーンの力を借りながら商品を仕上げた。
札幌市内のメディアに取り上げられた。ラジオ、テレビや新聞にものった。「ウェブシティさっぽろ」にも紹介された。その記事をみて、さらに道外からの取材を受ける。少しずつ、商品の認知が広がるなか、札幌スタイルのコンセプトを知る。まさに、自分たちのデザインからスタートした商品作りそのものではないかと、認証に応募。結果、認証商品となる。札幌市の職員たちは、東京で開かれる見本市に、認証商品の開発者たちを連れてゆく。そこで、開発企業側が驚くほどのプロモーションを行う。会場に集まる数万人のバイヤーたちを次々と札幌スタイルのブースに連れてきて徹底的に商品の説明を行うのだ。これには、参加者も感動。札幌からついっていったデザイナーやメーカーの人間たちは、数日間の展示会の中で意気投合。その、一緒に商品を開発する仲間となってゆく。後日、東京の老舗百貨店やアウトドア販売大手チェーンからの問い合わせが、山内浩二さんのもとつぎつぎと届いたという。
会場に展示されたさくらシート。その時自然にある色を分析して配色している。左の北海道バージョンは、土や枯れ葉の色が残る北海道の花見会場の色。このなかにある桜色はエゾヤマザクラの色。右側、道外の花見の背景は芝生。芝生バージョンの桜色はソメイヨシノの淡い色だという。トークショーを記念して、東京の染物職人から贈られた蘭が飾られた。
(左から)山内浩二さん、佐藤裕子さん、佐藤斎さん
関連リンク
(平成19年7月12日・杉山幹夫)
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