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更新日:2023年2月16日

さっぽろ創造仕掛け人(第9回)

フードライター 小西 由稀さん

北海道は食料自給率が200%とも言われる食材の宝庫として知られ、
札幌ではそんな道産食材を使ったおいしい料理が楽しめる。
その北海道の食の魅力を、雑誌や新聞、インターネットサイトなど、
さまざまな媒体を通して全国に発信しているのが小西由稀さん。
フードライターとしての活躍はもちろん、講演、イベントなども
行う小西さんに北海道の食の魅力や、これからについて語ってもらった。
小西さんの写真

【食材・料理ともに注目が高まる北海道の“食”】

飲食店の格付け本として世界的に名高い「ミシュランガイド」の北海道版が今年4月、ついに刊行される。国内では関東版、関西版に続く国内3番目の場として選ばれた北海道。札幌を拠点に活躍するフードライターの小西由稀さんは、「ミシュランは料理だけでなく、食材の質も評価の基準にしています。賛否両論ありますが、北海道の飲食店や料理人、さらには北海道産の食材も評価に値すると認められたことは素直にうれしい」と、その発売を心待ちにしている。

取材は小西さんの著書「おいしい札幌出張」にも取り上げられている「ノースコンチネント-MACHI NO NAKA-」で行われた。
「魚や野菜に目が行きがちな北海道で、ここは肉の北海道を楽しめるお店。ステーキではなく、ハンバーグにしているのも
気軽に食べられて、うれしいところです」と小西さん。

自身もこれまで、さまざまな媒体を通して、北海道の「食」の魅力を発信してきた小西さん。初の著書「おいしい札幌出張~45の美味案内」(発行元:エイチエス)は、“出張”を切り口にした飲食店紹介が好評を博し、発売から2年が過ぎた現在も増刷を続けている。さらに昨年5月には北海道の生産者にスポットを当てた2冊目の著書「食のつくりびと 北海道でおいしいものをつくる20人の生産者」(発行元:エイチエス)を刊行。最近ではライターとして書いて伝えるだけでなく、これまでの経験やネットワークを生かし、料理人や生産者、さらには消費者をつなぐイベントを開催するなど、活躍の幅はさらなる広がりを見せている。

【おいしいものは、人を幸せにしてくれる】

「食の魅力はおいしくて楽しいこと」。そう語る小西さんが“食”に興味を持ったのは、幼少期に遡る。室蘭市で寿司店を営む家庭に生まれた小西さんは、小さい頃から両親の働く姿を見て育った。「父がイカの皮を剥いていたり、マグロの頭が調理場にごろんと乗っていたり。そうした環境を当たり前のように見ていました」。飲食業の家庭ゆえ、日曜日も休みなく働く両親。「たまの休日も家で過ごすことが多かった」といい、その中で小西家にとっての楽しみとなっていたのが、「全国からお取り寄せした、おいしいものをみんなで食べること」だった。「遊園地などへ出掛ける代わりに、食べることをレジャーとして楽しんでいたんですね。おいしいものを囲むと誰もが笑顔になり、食材や料理には、みんなを幸せにする力がある。そうした食の魅力を子どもの頃に教わったような気がします」。

 

料理人や生産者の取材では、「知識がないとうまく話を引き出せないですが、逆に知りすぎていても話してもらえないこともある」という。「ですから、取材する相手の雰囲気に合わせて話し方や質問を替えてみたり。何年経っても人にお話を伺うのは難しいですね」。

短大を卒業後は、「人に伝える仕事がしたい」と出版社に入社。そこで編集やライターとしての基礎を学んだ後に独立し、フリーライターの道を歩み始めた。「駆け出しのころはとにかくどんな仕事も引き受けていましたが、実家が寿司店ということで、最初から食の仕事が多かったかもしれませんね。ただ、当時からフードライターになろうと思っていた訳ではないんですよ」。転機となったのは今から14年前に携わった、本州向けに発売される北海道の食の通販本の仕事。そこでの出会いが視線を北海道の“食”へと大きくシフトさせることとなる。

【生産農家の取材から見えた、お皿の先にあるストーリー】

担当したのは道産野菜などを紹介する農業班。10軒ほどの生産農家を1年間かけて取材した。「港町生まれで海産物の知識はあったものの、畑のことは知らないことばかり。『たい肥って何?』というくらいものを知らなかった私に、農家さんは一から丁寧に教えてくれました。そうして何度も通ううちに、小さな種から芽が出て、どんどん成長していき作物が実る。そのために農家さんが一生懸命に愛情を持って育てていることを知り、感動もしたし、有難いなぁって思ったんです。“食”って面白い!と改めて気付いた瞬間でした」。この経験が小西さんのライターとして大事にしていた「作り手の想いを伝えたい」という気持ちに、さらに火を点けた。以降、飲食店を取材する際も「なぜこの食材を使っているのか?」と、目の前の料理だけでなく、「その先にあるストーリーにも興味を強くし、取材をするのがますます楽しくなりました」。北海道の“食”に魅了された小西さんは、厨房はもちろん、畑や漁港、ときには船にまで乗り込んでは話を聞き、次第に取材以外でも足を運ぶ機会が増えていった。一方で、ライターとしても食の専門誌である『dancyu』や『家庭画報』、『BRUTUS』といった全国誌にも活躍の場を広げ、「気付いたら9割近くが北海道の食に関する仕事。そこからフードライターと名乗るようになりました」。

小西さんの長年愛用している取材ノートとボールペン。「ノートは10年くらい同じシリーズを使っています。厨房や畑など、立って取材をすることが多いので、手のひらにちょうど収まるサイズで、縦開きになっているので使いやすいんですよ」。。

著書「食のつくりびと」は、そうした「作り手の想いを伝えたい」気持ちが色濃く反映された一冊。ページをめくると、北海道を愛し、手塩をかけて作物を育てる生産者の様子がひしひしと伝わってくる。小西さん自身も「ジャガイモを一つ取っても、なぜ人によって味が異なり、値段も違うのか。そこには作り手の想いや生きざまが詰まっています。そうしたものの価値や本質を少しでも多くの人に知ってもらえるとうれしい」と本に込めた想いを語る。「今回紹介した20組以外にも、北海道にはまだまだたくさんの生産者がいます。北海道は消費地であるだけでなく、そうした生産や加工、調理という一連の流れをすべて見ることができる場所でもあります。そこが一番の魅力ですし、フードライターとしても面白さややりがいを感じています」。

「食のつくりびと」には、小西さんが北海道の食と向き合うきっかけとなった生産農家も紹介されている。「自然が相手で、頑張ったことが報われないこともありますが、いちいち心が折れていたらやっていけない。生産農家さんは本当に強くて、優しくて、話を聞いているだけで元気が出ます」。

生産者☓料理人☓消費者をつなぐ「料理人の休日レストラン」

「食のつくりびと」を出版してからは「“食”に関する講演が増えた」という小西さん。フードライターとして培ってきた料理人や生産者とのネットワークもイベントという形で新たな展開を見せ始めている。それが北海道の生産者から購入した食材を市内複数の飲食店の若手料理人が調理し、500円で提供するイベント「料理人の休日レストラン」。昨年10月16日に札幌市内3会場で開催された第1回には、約1000人もの人が訪れ、100万円以上を売り上げる大成功を収めた。「一番の目的は、北海道の志の高い生産者を応援すること。そして、生産者、料理人、消費者の3者が交流を持つきっかけをつくれたらと企画しました。何を選び食べていくかは、どう生きていくのかということにつながりますから。今回の売上金は船を購入し、震災で被災した宮城県の漁師さんへ贈りましたが、今後は北海道の『食』の活性化はもちろん、被災地支援をする道内の方々を応援する方向で、役立てていきたいと考えています」。第2回は今年の秋に開催される予定で、「最近は長引く不況で外食を控えている人も多いと思いますが、ワンコインですので、ぜひこの機会にプロの料理人がつくった料理を楽しんでもらいたい」とさらなる広がりを期待している。

今年1月には休暇を利用してヨーロッパを旅行。「人気店を食べ歩いたのですが、厨房を覗くと必ず日本人がいる。パリの二つ星レストランでは十勝出身のシェフが頑張っていて、日本の料理人の繊細さがフランス人に評価されていると思うとうれしくなりました」。

札幌の“食”は、これからもっとおいしくなる】

かつては「食材は一流、料理は二流」などと言われることもあった札幌の“食”文化。だが、小西さんは「それは昔の話」と一蹴する。「今までは料理人と生産者が近いようで、なかなか接点を持つことができませんでした。しかし、今は生産者の想いを汲み取って調理に生かす料理人や、『この料理人に使ってほしい』『こんな消費者に食べて喜んでほしい』と想い努力する生産者がどんどん増えています。実際、道外から『この時季はあそこであの料理を食べたい』と札幌にやってくる人がいるくらい、全国からの注目度は高くなっていますし、飲食店のレベルは上がっています。お互いの想いがさらに通じ合えば、今後さらに良いものが生まれてくる可能性があると思います」。これからも生産者と料理人をつなぐ架け橋となり、消費者にはそうした作り手の想いや情報を発信し続けていきたいと話す小西さん。その活躍を楽しみにするとともに、さらなる札幌でのおいしい出会いにも期待したい。

【さっぽろ創造仕掛け人に聞きたい! 3つのクエスチョン】

Q.次はどんな本を出そうと考えていますか?

A.具体的に考えてはいませんが、食に限らず、いろいろな専門職の人の想いを紹介する本を作れたらいいなとは密かに思っています。

Q.札幌の“食”の魅力とは?

A.同じお金を出すのなら、首都圏よりも断然満足度が高いと思います。特にフレンチやイタリアンは高レベル。さらに札幌は農業のまちでもあり、大都市なのに郊外には畑が広がっています。玉ネギの「札幌黄」やカボチャの「大浜みやこ」など固有品種もあり、恵まれた環境だと思います。

Q.札幌市に期待したいことは?

A.今でも食のイベントは多いのですが、マンネリにならずに内容をブラッシュアップし、毎年楽しませてほしいです。あとは、欧州の街角にあるような青空マルシェやビオマルシェを、恒常的に開催できるといいなぁと思います。

取材・文 : 児玉源太郎
撮影 : 山本顕史(ハレバレシャシン

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