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更新日:2023年2月16日

さっぽろ創造仕掛け人(第6回)

札幌大通まちづくり株式会社 取締役統括部長 服部彰治さん

ここ数年、“まちづくり”という考え方や取り組みが
日本全国で注目され、活発な動きを見せている。
今回は、大通を舞台にまちづくりに取り組む服部彰治さんを取材。
「札幌大通まちづくり株式会社」の取締役統括部長として、
大通というエリアにどのような可能性を感じ、
どんな“まちづくり”をしていこうとしているのか。
服部さんの“まち”にかける思いを探った。

服部さんの写真

大通は、知れば知るほど、好きになる

政令指定都市では全国初となる民間のまちづくり会社として、2009年に誕生した「札幌大通まちづくり株式会社」。取締役統括部長を務める服部彰治さんは、30年以上続く歩行者天国や大道芸の祭典「だい・どん・でん!」などの運営を商店街や商工会議所から引き継ぎながら、「I LOVE ODORI」や「札幌オオドオリ大学」、「green bird札幌チーム」といった多岐に渡るプロジェクトを通して大通の魅力を発信し続けている。「まちというのは、そこにいる人のことを知ると、どんどん好きになっていくと思うんです。大通には中川ライター店をはじめ、素敵なお店がたくさんありますし、こだわりや思いを持って商売している人たちがいます。大通をもっと身近に感じて欲しいですし、好きになってもらいたい」と語る服部さん。同社が取り組む事業には、そうした大通への愛情がいっぱい詰まっている。

「札幌駅前から歩いてきたりすると、大通公園を越えた瞬間にホッとするんです。職業病ですね」と笑う服部さん。大通は「どこかに必ず人の気配がするし、気軽な雰囲気を感じます。人間味のあふれるまちだと思いますね」。

地域全体を活性化し、収益も生むまちづくり

2000年以降、郊外型大型ショッピングセンターの相次ぐ出店やJR札幌駅のリニューアルによって商圏や人の流れが大きく変わった札幌市。「札幌大通まちづくり株式会社」は、そうした時代の変化に伴い、かつてのにぎわいを失い始めた大通地区の6つの商店街や札幌市などが官民協働で2007年から検討を重ね、2年間の準備期間を経て設立された。「点は集まると線となり、それが集まると今度は面になり、広がりはさらに大きなものとなります。同じように一つ一つの店舗が集まってできている商店街が合同でエリアとして取り組めば、さらなる盛り上がりや影響力を生み出します。『札幌大通まちづくり株式会社』は、そうした『点』『線』『面』をつなぎ、大通というエリアが持っている魅力を広くマネージメントし、発信する役割を担う組織として誕生しました」。

 

 

 

5年目を迎えた6商店街合同のバーゲン「I LOVE ODORI 」は、複雑化していた仕組みを見直し、今年から各店500円で楽しめるメニューを提供する「500ENjoy」をスタート。「何かダメなことがあっても止めるのではなく、改善しながら続けること。まちづくりでは時代や状況に合わせて柔軟に変化していく勇気も大切です」。

多くのまちづくり団体が補助金によって運営される中、同社は民間の株式会社として収益事業を展開している点も全国から注目を集めている。「現在、大通地区の広告スペースを提供して収入を得るエリアマネジメント広告事業と都心共通駐車券『カモンチケット』の運営、さらには大通地区に点在するビルの管理業務をコンサルティングし、共同化することでスケールメリットを生み出すファシリティマネジメント事業という3つの収益事業を展開しています。継続して事業を続けるには、やはり収益を上げていくことが必要です。各商店街や企業からの協賛金によって成立している事業もありますが、収益によって雇用を創出し、次の事業に還元するまちづくりの仕組みをさらに発展させていきたいですね」。

加盟駐車場に車を停め、加盟店で買い物をすると、共通無料駐車券がもらえる仕組みの「カモンチケット」。約4,000台分の駐車場と、約1,000店の店舗が加盟しており、車を利用した大通への買い物の促進にもつながっている。

みんなの思いが、まちを盛り上げていく

服部さんは東京で生まれ育ち、大学で北海道の建築学科に進学するも卒業後は東京の工務店で現場監督の見習いとして働いた。だが、北海道での生活が忘れられず、1995年より再び北海道へ。シンクタンクやコンサルタント会社に籍を置き、札幌市をはじめとする道内の市町村のまちづくりに従事してきた。「札幌大通まちづくり株式会社」に携わることになったのは、コンサルタント会社時代に札幌TMOをはじめ、大通に深く関っていたことが大きく、専従のマネージャーとして声をかけられたのがきっかけだった。「すべての経験が今の仕事に生きています。現場や収益の管理、人員の手配をするという具体的な現場を動かすことで得られたことが多く、さまざまな人たちとチームを組み、まちづくりを行っていく面で大きな糧となっています」。

映画館を貸し切り、子どもと一緒でも気兼ねなく映画を見られる「ママズシネマクラブ」のアイデアは、育児中の奥様を見ていて思いついたという。「実際に開催してみたら、参加者全員が『また来たい』とアンケートに答えてくれて、中には『落ち着いて最後まで見られて、初めて映画のストーリーを知ることができました』という意見もあったんです。喜んでもらえて、自分自身もやってよかったと実感しました」。

服部さんが仕事を進める上で大切にしていること。それは「人とのつながり」だと語る。「自分一人では何もできません。『札幌オオドオリ大学』も『green bird札幌チーム』も、すべての取り組みがスタッフやまちの人、さらにはデザイナーをはじめとする専門職の人たちの関わりによって成立しています。まちづくりには分野も立場も違う人たちのあらゆる視点が必要です。自分はそのまとめ役、いわば監督のような役割だと思っています」。若い頃は「これがプロフェッショナルだというものが何もなく、自分にできることは何だろう」と悩んだという服部さん。「人とのつながりを持つことは自分にもできる」と、積極的に勉強会を開き、たくさんの人との出会いを徹底的に持った経験が、現在の頼れる兄貴分、愛されるキャラクターとして発揮されている。また、「スタッフはみんな若いですが、物事に対する情熱のかけ方やアプローチの考え方が新鮮で、僕の方が教わることが多いくらいです」と言い、『札幌オオドオリ大学』では猪熊梨恵さんが学長、『札幌ブックフェス』では堀直人さんが実行委員長を担っているのも服部さんならではの人に対する思いがある。若い人たちが十二分に力を発揮できる環境をつくり、自らは裏方としてスケジュールや経費の管理といった最終的なマネージメントに徹する。そこには「やりたいという思いや考えを反映してあげるには、その人に任せるのが一番いい」という人の気持ちを大切にする優しさが秘められている。

子どもたちへつなぐ、大通の未来

今年9月13日~15日にかけて開催された「大通公園100歳記念バースデーパーティー」では、札幌市からの委託で主催を担当。小学生や企業による清掃活動や、テレビ塔をバースデーケーキに見立てて参加者全員で吹き消すセレモニーなどを企画し、3日間にわたるイベントの最終日には雨上がりの中、1000人の市民が集まる大成功を収めた。

さっぽろテレビ塔の協力によって実現した、バースデーケーキとテレビ塔のコラボーレーション。

「一番に考えたのは、歴史を振り返るのではなく、未来に続くイベントにしたいということ。そのために、これから先も長く大通公園と付き合っていく子どもたちが参加する企画をいくつも用意しました」。派手なことをするのではなく、未来を見据え、日常の一部として関ってもらいたいという思い。それは服部さんが手掛けるプロジェクト全体に貫かれている。「まちには生活をしている人たちがたくさんいて、それぞれが描くまちへの思いがあります。そうした課題をどうすれば解決できるのかを考えていきながら、より身近に感じられる大通にしていきたい。市民にとって、かつてのような“特別なまち”ではなく、“日常の中にあるまち”になってもいいのかなって思うんです。週末の土日2日間に大きなイベントを組むのもいいですが、1週間のうちに5日間どうやって来てもらうかをこれからは考えていきたい。“週2回行く大通”から“週5回行く大通”になれば最高ですよね」。

服部さんは、中央区のまちや人の魅力、歴史を紹介するフリーペーパー「まちのモト」も企画。「三好神社の例大祭で出会った人から現在の市役所の立っている場所に、かつては小学校があったと聞き、まだまだ知らないことが多いなと思ったんです。そうしたまちの歴史を次の世代にもしっかり伝えることも大事だと思い、中央区役所にプレゼンテーションし、実現したんです」。

【戻ってきたくなるまち、札幌へ】

「札幌大通まちづくり株式会社」のほか、日本全国のまちづくり会社で設立した「一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス(AIA)」の理事も務める服部さん。「東京に拠点を持つ組織の利点を生かして、東京在住の札幌出身者を集めた『サッポロナイト』という企画をやってみたいですね。実は故郷である北海道や札幌に戻りたいと考えている人はたくさんいると思うんです。そのような人たちを受け入れられるような環境を整え、まちづくりを推進していくことがこれからの目標ですね」。

「地域の活性化はその場だけの収益を目指すのではなく、大人から子どもまでが住みよい環境を5年後、10年後を見据えて準備していくことが大切。服部さんの思いはこのまちの未来へと続いている。

札幌の魅力を伺うと。「これほどコンパクトで住みやすく、空気のおいしいまちはないし、なによりビールが世界で一番おいしい!」と即答。「それに札幌は歴史がないと言われますが、たった140年の間に190万人が住むまちができた歴史は世界を探してもありません。そうした自分たちのまちの魅力や歴史に、もっと自信を持つべきだと思うし、もっと知ることのできる機会をどんどん作っていきたいですね」。

【さっぽろ創造仕掛け人に聞きたい! 3つのクエスチョン】

Q.まちづくりに必要な視点とは?

A.一人ひとりが自分のためにやるという視点を持つことが大事だと思います。まちをよくすることは自分の暮らしをよくすることにつながっています。役所がやってくれるだろうだとか他人任せにするのではなく、自分が責任を持ってやることが大切です。

Q.人を動かすのに必要なこととは?

A.やる気を削がずに、しっかり受け止めてあげること。ダメだと思うときも納得しない理由で断ったりはしないことですね。モチベーションを持続させながら、お互いに思いを共有できれば、いろいろな人を巻き込みながら、一人ではできないことにもどんどん取り組んでいけると思います。また、僕は打ち合わせって、みんなで悩んでも絶対にいいものは生まれないと思っているんです。だから、必ず笑いを取ろうといつも考えていて、そうするとみんなの気持ちがほぐれて、率先して意見を言ってくれるようになるんです。そうした環境を整えてあげるのも必要な要素かもしれませんね。

Q.まちづくりに欠かせないエッセンスとは?

A.まちづくりはいろいろな人とのつながりの中でやっていることですから、そうした人たちの信頼を築いていくためにも責任感を持つこと、そして諦めずに続けることが大事です。時には諦めざるを得ないこともありますが、たとえ100%できなくても、諦めずにどうしたらできるかを考えること。その頑張りは、きっと次につながっていくと信じています。

 

札幌大通まちづくり株式会社

所在地

札幌市中央区南3条西3丁目11番地 メッセビル4階

電話:011-211-1185

設立 2009年9月1日設立
資本金 905万円
代表取締役 廣川雄一(札幌四番街商店街振興組合理事長)
従業員数 5名
事業内容

商店街、商店の販売促進や商業振興を図るための企画・運営・コンサルティング、

景観に関する調査、各種イベント・印刷物・ホームページ等の企画・制作、

公共施設等の管理運営受託 など

WEB http://sapporo-odori.jp/

取材・文 : 児玉源太郎
撮影 : 山本顕史(ハレバレシャシン

 

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