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更新日:2023年2月16日

さっぽろ創造仕掛け人(第3回)

クリエイティブディレクター KENさん(クリエイティブオフィスQ-CONTROL)

札幌の魅力を創造し、マチを元気にするキーパーソンを紹介する
「sapporo ideas city さっぽろ創造仕掛け人」。
今回は、30歳を機に東京から札幌に拠点を移して活動する、
クリエイティブディレクターのKENさんにご登場いただいた。
なぜ活動の場として札幌を選び、どのように有名企業と取引しているのか。
そして今年創刊したフリーマガジン「SENtenCE」に込めた想いとは?
札幌市内を一望する旭山記念公園で“仕掛け人”の胸の内を聞いた。

KENさんの写真

【札幌に、異国のような雰囲気を感じた】

今年3月、札幌から新しいフリーマガジンが誕生した。北海道の住宅やライフスタイルを通じて、北海道の新たな魅力を発信する「SENtenCE(センテンス)」。仕掛けたのは、クリエイティブディレクターのKENさんだ。

KENさんは19歳のときにクリエイティブディレクターのデッツ松田氏のアシスタントとなり、全国ファッション誌の「asayan」や「HUGE」などを制作に携わる。その後もアパレルブランドの広報を担当するなど、東京で約10年間に渡り、プロモーションを“する側”と“される側”の両方で活躍してきた。そして、2007年から札幌に移住。北海道、東京、海外と世界に広がるクライアントを相手に、プランニングやデザイン、企業ブランディングなど、多岐に渡るクリエイティブな活動を行っている。

KENさんが立ち上げた「SENtenCE」は、季刊誌として年4回の発行を予定。札幌市内や東京で1万部を配布している。

札幌に拠点を移したのは、友人からの仕事の依頼がきっかけだった。「一度実際に来て欲しい」と誘われ、やってきた初めての札幌。白い雪が降り積もる景色と凍えるような寒さ、そして碁盤の目になっている街並みが、すべて新鮮に映った。「山境に都市が広がる北海道の景色も、都市間に砂漠が広がるカリフォルニアの景色と重なり、まるで異国にいるような感覚になりました」。ちょうど30歳という節目を迎え、「これからどう生きていくかを考えているときだった」というKENさん。たった一度の来札で住むことを決めた。

【地域を超えてつながるクオリティという共通言語】

KENさんが札幌に来て最初に取り組んだ仕事の一つに、企画制作責任者を担当した北海道発のファッション雑誌「SCRIPT」がある。師でもあるデッツ松田氏や藤原ヒロシ氏といった東京時代に親交のあったクリエイターも参加した「SCRIPT」は高いクオリティを持ち、無料の媒体にも関わらず、一時はインターネットオークションで値が付くほどの人気を集めた。さらにNIKEやCASIOといった企業、そしてルイ・ヴィトンがフリーマガジンの誌面に掲載されたことでも話題となった。「地方の媒体に大手ブランドが広告を出稿しない理由。そこにはブランドコントロールがしづらいという地方ならでは弊害があるように思います。大切なのは、その土地にあった明確な企画提案とブランドイメージの保持。『SCRIPT』では、藤原ヒロシ氏のような世界規模で活躍する人の出演が、良い媒体イメージにつながりました」。

インターネットやSNSなどの普及によって、どこでも誰とでも仕事ができるようになった現代。東京も地方もそれほど変わらないと心では思いつつ、どこかで不安もあったというKENさんだが、「親交のある世界的なアートディレクターの八木保さんと『クオリティだけが世界共通のIDになる』とお話しさせていただいたことがある」との言葉通り、「SCRIPT」での経験は、どこから発信しても良いものは良いと認知され、企業も協力してくれることを改めて実感する結果となった。

 

札幌に移住してからは「SCRIPT」のほか、CASIO G-SHOCKの25周年本などを製作。最近はショップのセレクターや企業の外部ディレクターなど、多数の名刺を持つ。

【アイデンティティを発信するメディアを作る必要性】

北海道という土地柄は「商圏として、ものすごく可能性がある」とKENさんは言う。「東京の企業には本当は北海道でPRしたいけれど、ブランドイメージを把握して的確にクオリティのコントロールをできる組織が目に付かないために諦めているところがまだまだあるように感じています」。商圏として確立している東京の目を、いかに北海道に向け、任せてもらえるか。そのためには、「東京を中心とした道外に、北海道や札幌の魅力ある場所やキーパーソンをアウトプットすることが必要」とKENさんは考えている。今年創刊した「SENtenCE」はまさしくそうした思いから生まれた。「東京というフィルターや既成概念にとらわれず、自分たちの自由な発想でメディアを確立する必要があると思えたんです」。そしてKENさんは、その答えを住宅とライフスタイルに見い出した。「住宅に注目したのは、洋服は試着、食べものは試食、車は試乗ができるのに、一生に一度の買い物と言われる家は試すことができず、図面と模型を基に買うことに疑問を感じたから。失敗できない買い物なのに、あまりにも情報が少ない世界だなと。同世代のハウスメーカー『TEN CONCEPT』の藤林社長ともよく話すのですが、ファッションは老舗ブランドもあれば、ファストファッションもあり、国内のドメスティックブランドやインポートブランドといったものもある。金額だけではない、デザイン性やスタイルが確立されています。同じように住宅も購入者や予定している人たちが、ハウスメーカーの特長を理解し、選べるようになれば素晴らしいと思ったんです」。さらに住宅を大きなテーマとして考えていくうちに「食や車、ファッションといったライフスタイルは、すべて家につながっていることが見えてきた」。東京などの首都圏に比べ、北海道は住宅にしても賃貸にしても安い価格で広い部屋に住むことができる。家の中で快適に過ごせるスペースがあるということは、それだけ個性のあるレイアウトを楽しめる可能性がある。「北海道には、贅沢が当たり前になっていることも多く、その一つが住宅とライフスタイル。道外の人たちがあこがれるポテンシャルを秘めていますし、それこそが北海道、札幌がリードオフマンになれることだと思うんです」。

KENさんが「365日、どこに行くときも必ず持ち歩いている」というアイテムたち。ノートやカメラ、パソコンにはクリエイターとしてのアイデアの元ネタが詰まっている。

アメリカに出張した際に購入したというマーク・ジェイコブズの色鉛筆。色を塗るのではなく、色の組み合わせを考える際に眺めることが多いという。

ステータス感を生む、こだわりの配布方法

フリーマガジンといえば、より多くの場所で配布するというのが一般的だが、KENさんはその配布先にもこだわった。「たくさんの人の協力によって作られているものですから、大事にしたい」と、「SENtenCE」は場所を限定して置くスタイルを取っている。例えば、東京だと圧倒的な集客力を誇る表参道の「スターバックスコーヒー B-SIDE店」や絶大な人気を誇るアパレルブランドの「ヘッドポーター」、全国のフリーマガジンを厳選して配布する「Only Free Paper」といった卓越した企業ブランディングを掲げる店舗で配布をしている。「売り物ではなく、部数も限られていますので、こちらから手に取ってもらいたいターゲットやユーザーの集まる場所へアプローチしていく必要があります」。配布場所だけを取っても、KENさん流のブランドコントロールの考え方が詰まっている。さらに郵送でも配布している「SENtenCE」は、送料などから生じる余剰金を盲導犬協会に寄付している。「僕はこの雑誌を通して、いろいろなきっかけを作っていきたいんです。寄付しているのも、その一つ。盲導犬を連れている人たちのことに、少しでも多くの人が目を向けてもらえば、新たな可能性がそこから生まれますから」。

6月発行の「SENtenCE」の最新号では、北海道の住宅と共にロサンゼルスのライフスタイルを特集。そこには、北海道の持っているポテンシャルを、すでに知名度のあるものと組み合わせることで興味を喚起し、北海道にあこがれるきっかけを作りたいという思いがある。

 

雑誌の中には、若者に人気の高いプロボーダーの松井克師氏がローカルなお菓子を紹介するページも。「注目を集めることによって地域の活性化につながれば」と期待を寄せている。

 

【住宅から街づくりへ、果てなき思い】

「SENtenCE」は現在までに2号を刊行。7月にはウェブサイトもオープンした。「少しずつでも何かが変わるきっかけになればうれしい。そして、北海道にあこがれる人、移り住んでもらえる人が増えていけば。最終的には雑誌だけでなく、札幌のどこかにソーラーパーネルでロードヒーティングができるようなエコタウンを仕掛けてみたいですね」。札幌、北海道の魅力を新たな発想と視点で発信し続けるKENさん。その“仕掛け”に今後も注目していきたい。

「寒暖の差が激しい北海道の自然をテーマに、世界的な建築家に“エコ”をキーワードにした家を作ってもらい、今後のハウスデザインの可能性を示唆してもらいたい」という動きもあるようだ。


【さっぽろ創造仕掛け人に聞きたい! 3つのクエスチョン】

Q.心を動かされた人の言葉

A.アシスタント時代に言ってもらった師からの言葉。僕は絵があまり得意ではなくコンプレックスでしたが、「絵が下手だというのも個性。人に覚えてもらえるという長所がある」と。その一言が無かったら、僕は今の仕事を続けていなかったと思いますね。今でも変わらず、あまり上手ではないですけど。

Q.札幌にしかない魅力とは?

A.たくさんありますが、ひと言で言えば環境。四季がハッキリしていて、梅雨もない。また、夏の晴れた日の週末には家の前でバーベキューができるし、温泉にも30分で行ける。大なり小なり、全てがそろっている世界最高のエンターテインメントシティだと思います。

Q.北海道、札幌のブランドを発信するのに大切なこととは?

A.他の都市に勝る要素を的確に見つけて、企画性とデザイン性を融合してプロモーションすること。東京などの大都市には無い多くの魅力があると思います。また、あえて先に東京で話題を集めてから札幌、北海道で人気を作る、逆輸入的なブランディングも効果的だと思います。

 

クリエイティブオフィス Q-CONTROL

事業内容 編集や企画製作、プランニング、デザイン、企業ブランディングを礎とし、
広告、雑誌、WEBデザイン、イベント企画など、クリエイティブ全般のプロデュースと製作を手掛ける。

取材・文 : 児玉源太郎
撮影 : 山本顕史(ハレバレシャシン

 

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