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更新日:2017年9月15日

札幌市衛生研究所-学会発表(2017)

TSH、FT4、17-OHPの多項目同時測定法導入に向けた検討

第43回 日本マススクリーニング学会

2016年8月 札幌市

山岸卓弥、田上泰子、斎藤翔太、野町祥介、木田 潔、福士 勝*1、青木香織*1

【はじめに】

 札幌市の新生児マススクリーニングでは、先天性甲状腺機能低下症(CH)の検査項目としてTSH、FT4を、先天性副腎過形成症(CAH)の検査項目として17-OHPを、それぞれ酵素免疫測定法(ELISA法)により別のキットを用いて測定している。最近、札幌イムノ・ダイアグノスティック・ラボラトリー(札幌IDL)より、Luminex社の特許であるxMAPテクノロジー (xMAP法)を用いTSH、FT4、17-OHPを同時に測定する検査キットが開発された。この方法では、これまで3項目別々に行っていた前処理操作が1回で済み、検査の効率化や濾紙血検体使用量の軽減が可能となる。今回、本法の導入に向け、実際のマススクリーニング濾紙血検体を用いた測定検討を行ったので報告する。

【方法】

新生児マススクリーニングが既に終了している濾紙血検体およそ3,000件について、xMAP法によりTSH、FT4、17-OHPの測定を行った。xMAP法の測定値とスクリーニング時のELISA法の測定値との相関を確認した。

【結果と考察】

各項目の正常範囲についてELISA法とxMap法の測定値の相関図を示した。高値検体も含めた相関係数はそれぞれTSH: 0.93、FT4: 0.79、17-OHP: 0.97であり概ね良好な相関が得られたものの、分散や回帰に程度の差があり、項目によってはxMAP法の導入にあたり陽性率や判定方法の調整が必要となる可能性が示唆された。例えば回帰係数が1から大きく外れるならば、カットオフ値を変更したりファクターを用いて測定値を補正することが必要となる可能性がある。

xMAP法について、本法をスクリーニングへ導入するにあたり調整すべき点もあると思われたが、効率面やFT4検査の普及効果も期待されることなどメリットが大きく、精度的にもELISA法と遜色ないようであった。

*1札幌イムノ・ダイアグノスティック・ラボラトリー


札幌市の新生児マススクリーニング追跡調査事業と連絡会議

第43回 日本マススクリーニング学会

2016年8月 札幌市

花井潤師、田上泰子、菅原雅哉、吉永美和、山岸卓弥、手塚美智子、斎藤翔太、野町祥介、濱谷和代、木田 潔

新生児マススクリーニング検査においては、採血から検査、精密検査、治療までの各プロセスが一体となって、検査精度を維持、管理して、患者の見逃しをなくすための体制作りが必要である。札幌市では、新生児マススクリーニング等の有効性を確認するシステムとして、患者のスクリーニング受検状況や予後を確認するための追跡調査事業を行い、「札幌市新生児マススクリーニング等連絡会議」(以下、「連絡会議」)により報告し、検証を行っている。今回、札幌市で行っている連絡会議の概要と今後の課題などについて考察した。


平成27年度マーケットバスケット方式による食品添加物の一日摂取量調査

第53回 全国衛生化学技術協議会

2016年11月 青森県

久保田浩樹*1、関根百合子*2、田村志帆*2、杉木幹雄*3、宮川弘之*3、田原正一*3、山本純代*3、植松洋子*3、林千恵子*4、本郷 猛*5、氏家あけみ*6、安永 恵*6、中島安基江*7、安部かおり*7、小川尚孝*8、川原るみ子*8、仲間幸俊*9、古謝あゆ子*9、恵飛須則明*9、小金澤望、寺見祥子*1、熊井康人*1、多田敦子*1、佐藤恭子*1

日常生活における食品添加物摂取量推定を目的として、我々は平成14年度よりマーケットバスケット(MB)方式を用いた食品添加物一日摂取量調査を実施している。MB方式とは、量販店で購入した食品を、国民の平均的な一日の喫食量に応じて採取し、それらを混合して添加物含有量を分析し、食品添加物の一日摂取量を推定する手法である。平成27年度は、甘味料のアスパルテーム、アセスルファムカリウム、グリチルリチン酸(グリチルリチン酸二ナトリウム及びカンゾウ抽出物の主成分)、サッカリン(サッカリンナトリウム及びサッカリンカルシウムを含む)、スクラロース、ステビア抽出物(α-グルコシルトランスフェラーゼ処理ステビアを含む)及びネオテームについて、成人(20歳以上)における食品添加物の一日摂取量調査を実施したので報告する。

*1国立医薬品食品衛生研究所、*2仙台市衛生研究所、*3東京都健康安全研究センター、*4千葉県衛生研究所、*5千葉県衛生研究所(現:千葉県市川健康福祉センター)、*6香川県環境保健研究センター、*7広島県立総合技術研究所保健環境センター、*8長崎市保健環境試験所、*9沖縄県衛生環境研究所


札幌市におけるPM2.5の発生源解析

第57回大気環境学会年会

2016年9月 札幌市

吉田 勤、猪股省三、山口弘行、木田 潔

札幌市では、平成25年度から微小粒子状物質(PM2.5)の成分分析を実施しており、今回平成25年度から27年度の3か年のデータについて、PMF解析による発生源解析を行った。併せてPMF解析により切り分けられた因子について、CWT解析による発生源位置推定を行った。

解析に用いた成分は、質量濃度、イオン成分(8成分)、無機元素成分(7成分)及び炭素成分(2成分)の計17成分である。

PMF解析には、EPA-PMF5.0を使用した。平成26年夏季において、シベリア森林火災の影響と考えられる高濃度事例があったが、これは除外して計算を行った。CWT解析は、Trajstat 1.2.2.6を用い、計算範囲は北緯15度~65度、東経90度~160度とし、グリッドは0.5度×0.5度とした。なお、CWT解析に用いた後方流跡線は、NOAA-HYSPLTモデルを用いた。起点高度を500 m、1000 m、1500 mとし、1時間ごとに後方流跡線を作成し、遡及時間は72時間とした。

PMF解析の結果、5つの因子に分けることが妥当であり、その成分組成から、土壌粒子、海塩粒子・バイオマス燃焼、半揮発性粒子・硫酸塩、重油燃焼及び石炭燃焼であると推定した。半揮発性粒子に硫酸塩の負荷があることについては、解析の精度も含めて更なる検討が必要である。

土壌粒子は春季にのみ高く、その成分組成から黄砂の強い影響を受けていると考えられた。

半揮発性粒子・硫酸塩は、冬季に高く、夏季に非常に低くなる傾向が見られた。一方、重油燃焼は夏季にのみ高くなる傾向が見られた。海塩粒子・バイオマス燃焼は、夏季にのみ低くなる傾向が見られた。海塩粒子・バイオマス燃焼は、Na+、Cl-、Mg2+、K+、OC、ECがリッチな因子であるが、今回の解析において、Sb、Zn、Cuを除外したことから、それらを指標としている道路交通の影響が前述の因子に含まれている可能性がある。したがって、PMF解析を行う上で、発生源の指標となる成分は可能な限り含める必要がある。

単一の発生源に切り分けることのできた土壌粒子、重油燃焼及び石炭燃焼の3因子について、CWT解析を行った。

土壌粒子は、モンゴルから中国東北部にかけて分布しており、一般的な黄砂の発生源及びその経路とおおむね一致する傾向が見られた。石炭燃焼は、中国東北部から北朝鮮にかけて分布しており、大陸での石炭燃焼の影響を受けていることが示唆された。重油燃焼は、朝鮮半島及び日本海上に分布していた。重油は一般的に大型船舶の燃料として使用されており、この海上を航行している船舶の排出の影響を受けていると考えられた。したがって、これら3因子については、移流による輸送の寄与が大きいことが示唆された。


札幌市における微小粒子状物質のPMF解析

第24回衛生工学シンポジウム

2016年11月 札幌市

吉田 勤、猪股省三、山口弘行、木田 潔

2013年から2015年の間に得られた成分分析データ190サンプルに対し、Positive matrix factorization(PMF)解析を適用し、発生源の推定及びその寄与割合の算出を行った結果を報告した。

解析ソフトはEPA-PMF5.0を用いた。

MFでは、今回のデータセットにおいて、因子数7が最適であるとの結論に至った。

各因子に含まれる指標成分等から発生源の推定を行った。因子1は、Na、Cl-、Mg2+の分配量が多いことから海塩粒子であると推定した。因子2は、Al、Fe、Mnの濃度が高く、土壌粒子であると推定され、さらにCa2+及びMg2+が多く分配されていることから黄砂であると推定した。また、因子2(黄砂)は、春季の特定の日にのみ高濃度を示し、実際の黄砂の観測と類似していた。因子3は、Cl-、NO3-、NH4+の濃度が高いことから、半揮発性粒子であると推定した。また、因子3(半揮発性粒子)は、夏季が最も低濃度であり、冬季に濃度が高くなり、気温によってガス化、粒子化する性質と挙動が一致していた。

因子4は、硫酸アンモニアと有機炭素の濃度が高く、無機元素としてAsとPbの負荷が高いことから石炭燃焼であると推定した。因子5は、硫酸アンモニウムと炭素成分が高く、無機元素としてVとNiの負荷が高いことから重油燃焼であると推定した。また、因子5(重油燃焼)は、夏季にのみ高濃度を示す傾向にあった。因子6は、K+と炭素成分の濃度が高く、レボグルコサンの負荷が高いことから、バイオマス燃焼であると推定した。因子7は、Cu、Znの分配が多いことから、道路粉じん、Sbの分配が多いことから、自動車のブレーキ粉じん、さらに炭素成分の濃度が高いことから、道路交通系粒子であると推定した。


LC/MSによる化学物質分析法の基礎的研究

第25回環境化学討論会

2016年6月 新潟市(朱鷺メッセ)

折原智明、葉澤やよい*1、八木正博*2

環境中化学物質について、LC/MS/MSを適用し環境水中の(1)りん酸(2-エチルヘキシル)ジフェニル(EHDP)及び(2)りん酸ジ-n-ブチル=フェニル(DBPP)の同時分析法を検討した。

EHDPは可塑剤等、DBPPは潤滑油添加剤等として使用されるりん酸エステル類である。

グラジェント条件ではLC機器由来と思われる擬ピークが出現したためアイソクラティックとし、LC/MS/MS-APCI(Positive)法で定量する。試料前処理はOasis HLBによる固相抽出法であるが、容器壁に吸着するため、採水試料容器に20%容量のメタノールを直接添加し固相抽出を行った。試料400mL相当濃縮後、Oasis HLBをメタノール/精製水(1:1)で洗浄し乾燥後、メタノール7mLで溶出し精製水で10mLに定容したものを試験液とした。この分析法の検出下限値(MDL)はEHDPが2.0ng/L、DBPPが0.23ng/Lであり、添加回収率はEHDPが河川水80%、海水77%、DBPPが河川水84%、海水86%であった。

*1岩手県環境保健センター、*2神戸市環境保健研究所


(E)-4-(2、6、6-トリメチルシクロヘキサ-1-エン-1-イル)ブタ-3-エン-2-オン(別名:β-ヨノン)の分析法開発について

平成28年度化学物質環境実態調査環境科学セミナー

2017年1月 東京都

折原智明

β-ヨノンは香水や洗剤などの香料として用いられる物質である。環境省が環境実態調査を行うため同省から受託し、GC/MS-SIM法で環境水中の分析法を開発した。

β-ヨノンにはα-ヨノンやα-、β-、γ-、δ-ダマスコンの異性体が存在するが、極性カラムのDB-FFAPで良好に分離可能であった。水質試料200mLを固相カートリッジ(Oasis HLB)に通水し、メタノール/精製水(1:1、v/v)で洗浄後、十分に乾燥しアセトンで溶出する。溶出液を窒素気流下で濃縮し、シリンジスパイク内標準を加え、GC/MS-SIMで測定する。試料の保存性が悪く、河川水では硫酸銅を添加し冷暗所(5℃)保存で7日以内、海水は硫酸銅添加/冷暗所(5℃)で3日以内又はピロガロール添加/冷暗所(5℃)で7日以内に分析する必要がある。

本法で用いたGC/MSでは、β-ヨノンのMDLは2.4ng/Lであり、札幌市内の河川水を測定したところ、β-ヨノンは検出されなかった。

なお、本分析方法は環境省の「化学物質と環境 平成27年度 化学物質分析法開発調査報告書」に掲載された。


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